大きくなりたい2
「あれは……」
「やっぱりそういうのもあるのか」
相手だってそんな繊細な呪いの魔法陣をノーガードで放置しておくわけもない。
隠すなり防御するなり守る方法を施しているだろうと予想はしていた。
不自然に森が開ける。
丸く木がなくなっていてそこだけ草も生えていない。
地面を見ると不思議な模様が描いてある。
そしてその不思議な模様の前に10人ほどの小人がいた。
「ビリャド!」
サンジェルよりも先に失踪していた警備隊の人。
他の人たちも警備隊の人たちだった。
サンジェルよりも後の人で小人化しても逃げられたのはサンジェルのおかげなのでサンジェルよりも先に小人化した人は確実にカイーダに捕らえられていたと考えられる。
そして少し前に囚われていた人たちを救い出したのだけどそこにもいない人たちが一部いた。
それが目の前にいる警備隊の面々だ。
しかし様子がおかしい。
目がうつろで何処を見つめているか分からず生気がない。
わざわざ小人化した偽物を防衛として置く意味がない。
つまりアレは本物で催眠術のような形で操っているのだと推測できた。
「アイツらと戦わねばならないのか……」
サンジェルが怒りの表情を浮かべる。
仲間と戦わされるという苦渋の決断をしなければならないことに怒りが沸き起こっている。
「隊長……俺たちに行かせてください」
「しかし……アイツらは警備隊の仲間だぞ!」
「そんな顔してる隊長を戦わせられませんよ」
「誰かがやらなきゃいけないなら俺たちがやるべきでしょう」
少し遠くから様子を見ていたリュードたち。
呪いを守っている警備隊と戦うと前に出たのは同じく警備隊のメンバーである。
「お前ら……」
仲間に手を下すことは心情的にやりたくないことだ。
だけれども誰かがやらなきゃいけないなら誰かに任せるより自分たちでやるべきだ。
熱い思いにサンジェルはハッとして感動する。
「それにです……」
「俺たちアイツら嫌いなんですよ!」
「えっ?」
「全員ぶっ飛ばしてやれ!
合法だ!」
駆け出す警備隊。
呪い事件の命運をかけた警備隊同士の戦い、の皮をかぶった派閥争いの戦いが始まった。
警備隊は町を守るという同一の目的を持っている組織である。
でも中でみんな仲良しで一枚岩かというとそうではない。
全員が全員気が合っていて反目することがないなどといくはずがないのだ。
気が合わない奴、嫌いな奴もいる。
そうしていくつかのグループだったり派閥だったりが出来て、警備隊としてはそれなりに付き合いながらも裏では反目し合っていた。
派閥の中でも性格の悪い嫌なやつ同士は気が合うようで、そうした奴らが集まっているのが副隊長ビリャドを筆頭とするグループだった。
ビリャドは有能だけどかなり性格が悪くてサンジェルも手を焼いていた。
だけど立場が上のサンジェルにはビリャドはそんなに噛み付くことはなかった。
サンジェルは知らなかったのだ。
この機会に死んでもいいと思われているほどにビリャドが嫌われていることに。
「死にさらせ、ビリャドォ!」
「い、いや!
殺してはダメだぞ!」
幸いにしてどっちも素手。
物騒なことを叫びながら警備隊はビリャドたちに襲いかかる。
どっちが悪者か分かったものではない。
こちらは解放した人々もいるので人数が圧倒的に多い。
相手も操られているので本気だけどこっちも本気。
人数差もあるのでビリャドたちは全く相手にならず日頃の恨みとばかりにボッコボコにされていく。
「全てが終わったら面談が必要だな……」
頭を抱えるサンジェル。
奇しくも警備隊の中の問題が浮き彫りになった。
「許せ……町のためなんだ」
「ふぅ……」
戦いが終わって警備隊のみんなはスッキリ晴れ晴れとした顔をしていた。
しこたま痛めつけられたビリャドたちは倒れたまま動かない。
死んだのかと不安になったサンジェルが駆け寄って確認するが気を失っているだけで死んではいなかった。
よっぽど腹に据えかねているものがあったのだろうなと人の恨みを買うことの怖さをリュードは思い知った。
サンジェルたちが暴れ出したりしないように布ロープで縛り付けている間にリュードは地面に描かれた模様を観察する。
赤黒い何かで描かれた模様はリュードの知る魔法陣のものとは異なっている。
魔法陣的な役割を果たしていることは違いないがやはり呪術は魔法とは少し違っている。
呪いの模様の真ん中には黒く輝く魔石が積んで置いてある。
呪いの維持に必要な魔力は魔石から得ているようだ。
そんなに大きな魔石ではないが小人状態では魔石1個でも大きく見える。
「……コユキ、神聖魔法でアレぶっ飛ばせるか?」
呪いの模様に関する知識はリュードにはない。
模様の中に立ち入ってもいいのかとか赤黒い何かを消しても大丈夫なのかとか、そもそも赤黒い何かが触れても大丈夫なものかとか何も分からない。
そこで距離を取って呪いに対して抵抗力のある神聖力で破壊してみようと思った。
「みんな離れるんだ!」
縛ったビリャドたちも引きずって呪いの模様から距離を取る。
「むん!」
コユキが集中を高めポワッと手のひらの上に神聖力の球を作り出す。
大きく振りかぶりまるでボールのように神聖力の球を投げた。
球を作り出すまではいいのだけどコユキは球を発射するのが苦手だった。
打ち出すのも練習中なのだけど緊急時的なやり方もニャロから学んでいた。
それが投擲法である。
神聖力の扱いが未熟な子供が時々やる方法だけど発射する技術と合わせるとかなり速く飛ばせるので発射と投擲で使う人も稀にいる。
コユキはコントロールが良くて意外と肩も強い。
健康優良児的なニャロは投擲法も上手くて野球選手のような投球フォームで神聖力の球を打ち出す。
やや落ちるような軌道を描いて神聖力の球は飛んでいき見事に魔石の山にヒットした。
「ウワッ!」
魔石のいくつかが爆発する。
小さい体にはその爆風は大きい。
「パパ、ママ!」
警備隊のみんなは吹き飛ばされるがリュードたちはコユキが支える。
「いてて……お、おおっ!」
どうなったのか、それは目に見える結果として表れた。
一回りだけ体がぐんと大きくなった。
まだまだ微々たる差だけれども呪いを解くということの希望が見えた。
見ると呪いの模様があったところが爆発で大きく窪んでいた。
呪いの模様が破損したからにしても魔石を飛ばしたから呪いの模様が効果を失ったにしても成功は成功だ。
無事に残っていたドス黒い色をしていた魔石は気づくと黒さが抜けて元の透き通るような色に戻っていた。
地図につけられた印はいくつかある。
この調子で確実にあるであろう地図の印分だけ呪いを邪魔していっても効果がありそうだ。
元のサイズまでは厳しいかもしれないがある程度まで大きくなれれば普通サイズな人にも対抗がしようがある。
「次に行こう」
相手に呪いの模様を消して回っていることがバレて対策をとられる前に出来るだけ破壊しておきたい。
触れるのも怖いし残りの呪いの模様や魔石には手を触れず、ビリャドたちは縛ったまま放置して次に向かう。
コユキ猛ダッシュ。
ルフォン以下揺れに弱い人たちが死にかけるが今は速度重視だ。
印の書かれた地図もあるし変に森の中が開けて地面に呪いの模様が描いてあるのだから見つけるのも時間はかからない。
「……知らん顔だな」
「服装を見るに冒険者が何かだろう」
「アイツらちょっと前からこの町で活動してた冒険者だな」
他の呪いの模様の場所にも守る人がいた。
今度は町の人ではない。
格好からして冒険者だと思われた。
冒険者など外部の人は小人化していないと思っていたがそれなりの期間滞在している人はもれなく小人化していたみたいだ。
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