みんなの道は1
宴の準備が進められる中でギルドの方でもダンジョンの消滅が確認されダンジョン攻略が認められた。
国とギルドのお墨付きを得た。
いよいよお祝いの雰囲気が高まり宴が始まる時が訪れた。
ちなみに攻略不可ダンジョンが攻略されたことはギルドを通じて世界中に公表された。
攻略不可ダンジョンは攻略不可ではなかった。
攻略者たちが莫大な褒賞金を受け取ることも噂され世界におけるダンジョン攻略の機運も高まった。
「みんな、集まってくれて感謝する。
もはや知らぬ人はいないほどに広まっているのでみな知っているとは思うが我が国にとって喜ばしいニュースがある。
……私の懐妊ではないぞ?」
リュードはそれを笑っていいのかわからなくて曖昧な表情を浮かべた。
けれど周りの人たちは笑っているのでよく言う冗談なのかもしれない。
普段は公開されない氷宮のホールにグルーウィンの貴族や今回極寒のダンジョンを攻略したリュードたちが集まっていた。
何か特別なイベントでもなければ王城たる氷宮で宴などやらないのだけど今日ばかりは特別なイベントがある。
攻略不可ダンジョンが攻略された。
「長年我々の頭を悩ませてきた悪夢のようなダンジョンがなくなった。
グルーウィンは新たなる一歩を踏み出したのだ!」
フロスティオンの発表に集まっていた貴族たちから歓声が上がる。
氷子からの発表は噂で聞くのとは違う正式な発表だ。
どちらかといえば攻略がなされたと噂されていたのだけどダンジョンが消滅したことも合わせての驚きと喜びがあった。
僻地にあって不安が大きく、もたらされる利益よりもダンジョンの管理や積立金、討伐の費用などがかさむダンジョンだったのでなくなって大喜びだ。
ダンジョンがなくなったからといって利用価値のある土地でもないけど高めのランクの冒険者を集めて僻地に送り出すのは結構な負担だったのだ。
「ついては盛大にこのことを祝おうと思う。
今日より3日、ダンジョンの消滅を祝した宴の期間とする。
そして!
不可能を可能にした冒険者たちを紹介したい!」
リュードたちが前に出る。
事前に流れは聞いていたのでスムーズに動くことができる。
国王であるフロスティオンに敬意を払って一礼。
そして一列に並んで貴族たちにお目見えとなる。
「彼らが此度ダンジョンを攻略してくれた冒険者たちだ!
大きな拍手を」
割れんばかりに拍手が降り注ぎリュードたちを讃える。
この列の中にダリルとコユキはいない。
ダリルはまだ体調が万全でもなく紹介されることを辞退した。
コユキはダリルに任せておいた。
子供は嫌いじゃないらしく、コユキもダリルのことは意外と気に入っていた。
チラリとみるとダリルに肩車されてコユキはリュードたちを見ていた。
周りに合わせてパチパチと拍手をしていたがリュードと目が合うと手を振ってくれている。
宴が始まってみんな貴族に囲まれた。
グルーウィンに住むつもりはあるかとか、パートナーとなる人はいるかとか質問攻めにされる。
ウィドウや貴族の扱いにも慣れているアルフォンスなどの聖職者たちも推されているのでリュードなどが敵うはずもない。
なんとなく笑って誤魔化しながらやり過ごし、フロスティオンが止めてくれるまで貴族がかわるがわる話を聞きにきていた。
当然のことながらそんな冒険者を抱え込もうと縁談話も多かった。
すっかり気疲れしてしまったリュードは隙を見て会場を抜け出して部屋に戻ってきた。
お腹は空いているので給仕に頼んで部屋まで料理を持ってきてもらうことにした。
気づけば1人、また1人と避難をしてきて、いつの間にか、そしてなぜかリュードのところに集まっていた。
結局は気心の知れた仲間たちとささやかにパーティーを行うことになった。
「俺なんて年増の貴族にケツ揉まれたんだぜ!」
まずみんなの口から飛び出したのは餌を前にした魚のように群がってきた貴族たちに対する愚痴だ。
ブレスはゴタゴタの隙に乗じてお尻を揉みしだかれたりなんかしていた。
女性陣の方はフロスティオンの配慮でちゃんとガードされていたのだけど男性陣の方は結構フリータイムだったのだ。
「……しかし本当に攻略不可ダンジョンを攻略したとはな」
お酒の入ったグラスを傾けながらウィドウが感慨深そうに呟く。
依頼を受けた以上は当然に成功させるつもりあったがやはり攻略不可ダンジョンは一筋縄でいかないと思っていた。
死ぬことも覚悟していたし、なんなら教会にもし死んだら家族の面倒まで頼んでいた。
冒険者が最後に憧れるのは英雄譚だ。
自分だけのストーリー。
語り継がれる偉業の達成である。
不可能を可能にした冒険者。
偉大なる伝説にも引けを取らない。
一方でケーフィス教の中では長らく失われた神物を取り戻した英雄でもある。
これ以上のことはきっとなし得ない。
「いやほんと、誰も死なずにいられたのが不思議なぐらいだな」
腕の1本ぐらいは簡単に失いそうなダンジョンだった。
気を抜けば誰かが死んでいてもおかしくない。
けれどここにいるみんな五体満足で生きて帰ってきた。
不思議なほどの奇跡だ。
「……みんなと共にダンジョンを攻略することができて幸運だった。
みんな、ありがとう」
酒が進んだせいか熱っぽい目をしたウィドウ。
最後に一仕事などと言って帰ってこないやつは意外と多い。
最後だからと欲張ったり気を抜いたり、あるいは身の丈に合っていなかったり。
攻略不可ダンジョンを攻略することは正直身の丈に合ったものではなかったかもしれない。
だが大きな幸運によって生き残った。
しかも攻略までやってのけた。
中でもリュードとの出会いは運が良かったとウィドウは思う。
若いが高い実力を持ち広い視野と冷静な判断力がある。
それなのにそれを驕ることもなく更なる精進を続けている。
仲間であるルフォンやラストとの連携も良く魔人化という切り札まで持っている。
ウィドウは五尾の白キツネとの戦いではサポート的な動きに徹した。
若くて勢いのあるリュードが前に出た方が絶対に流れが良いと分かっていたからだ。
おそらく神にも愛されている。
リュードに支えられてのダンジョン攻略成功である。
他の人だって高い実力を兼ね備えてみんなよく戦ってくれた。
神に導かれしメンバーだった。
日常で神に頼りすぎることはよくないのでそれほど祈りもささげないウィドウも今日は神に感謝をする。
「いつになく熱いな」
「そりゃあ不可能を可能にしたとあっちゃ興奮もするさ」
「みんなはこれからどうするにゃ?」
金も名声も手に入れた。
今は冒険者として破格の条件まで提示されている。
どこかに腰を据えようと思うのならこれほど良い時もない。
リュードたちは仲間内の話し合いでもう腹積りは決まっているがみんながどうするのかは気になる。
「俺は妻と子のところに帰るさ。
冒険者は引退してそこでのんびりとやっていく。
ここは寒すぎるから移住するつもりはないな」
ウィドウは前にも話していたのだがこの攻略を最後に冒険者を辞めるつもりだった。
失敗すれば死だし、成功すれば一生働かなくてもよくなる。
成功したのでこれまでの蓄えも合わせれば贅沢に暮らしていてもお釣りが来る。
それにプラチナランク、しかも攻略不可ダンジョンを攻略したとなるとどこに行っても重宝される。
グルーウィンでなければいけない理由もどこにもない。
ウィドウの決意は他の人の行動にも大きな影響を与える。
ケフィズサンのリーダーでもあるウィドウ。
ウィドウが辞めるということはケフィズサンは解散することになる。
リーダーを変えてということも考えられるけどケフィズサンのみんなの中でそんな選択肢はなかった。
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