父親になるってこんな気持ちなのかな3
「ほんとどうしたら良いんだろうな……」
どこかに預けるという手もある。
神聖力を持った子だから教会でも喜んで引き受けてくれる。
今回のことで多くの金はあるから王族にしようとでも思わなければどこにでも入れてやることはできる。
ただそれでは無責任ではないか。
コユキが安全に、健やかに過ごすにはどうしたらいいか。
身体的特徴で言えば獣人族のコユキ。
しかし五尾の尻尾を持つ獣人族などいない。
獣人族としてコユキが仲間に受け入れられるのか不安がある。
だからといって五尾の尻尾を持つ獣人族がいるかどうか分からない真人族の中にいてはコユキは浮きすぎる。
どこの世でも異なったものに対する偏見や違いから起こるすれ違いなんかはある。
コユキが絶対に安全に過ごせる場所というものがあると言い切れない。
それにコユキ自身の問題もある。
親のように慕うリュードたちがいるから今は大人しいがそうでない場である時にコユキは大人しく生活していられるだろうか。
ダンジョンの中では恐ろしいぐらいに強かった。
致命的な攻撃を避け、集団でやっと勝てたボスだった。
そんな本性が出て来たら止められる人は少ない。
ケーフィスもリュードにコユキを頼むと言っていた。
あとはやっぱり、接するうちの情がある。
「つ、連れていっちゃダメ、かな?」
「……ルフォン?」
「分かってるよ、旅がそんなに簡単なことじゃないって。
でももうほっとけないよ。
私コユキのこと守るしちゃんとお世話するし……それにリューちゃんはパパで、私とラストはママ、なんだよ?」
ルフォンがウルウルとした瞳でリュードを見つめる。
ルフォンももう完全にコユキに情が移ってしまっている。
自分をママと呼んで、リュードをパパと呼んで、そして抱き上げれば笑顔を向けてくれる。
冷たくできる方がおかしいというものだ。
ルフォンも心優しく面倒見は良い方だ。
子連れでする旅が楽じゃないことは重々承知ではあるけれどリュードとならコユキを連れても旅は出来るはずだと思った。
珍しく自分の意見を主張するルフォン。
まず1人意見は決まった。
「どこかに預けたりなんて出来ないよ……」
「私も!
私も……コユキといたいな……」
伏し目がちに考えていたラストも顔を上げる。
「私さ、リュードとルフォンと出会って誰かを助けることの大切さを知った。
もちろん大変なことだってことも知ったけど私が誰かを助けられるなら助けたいって思うようになったんだ。
コユキは私をママって言ってその小さい手を伸ばしてくる。
その……あんまり2人みたいに旅で役立ててないけど私も頑張るからさ。
私もコユキと一緒にいたい!」
「ラスト……」
ルフォンとラストは同じ気持ちだった。
芽生え始めた母性だろうか。
「…………うん、前向きに考えよう」
ただリュードも同じ気持ちだった。
コユキと離れたくないと思ってしまう自分がいる。
「リューちゃん……!」
「リュードォ!」
合理的に考えて旅を続けるならコユキは連れていくべきじゃない。
でも合理的に考えて旅をしているのではない。
誰かが取らねばならない責任なら自分が取ろう。
コユキがどこか気に入ったり、コユキを預けるのに相応しい場所があるならそこに預けることもちゃんと考える。
ただ今はどうするのが正解なのか分からない。
ならばここで得られた縁を大切にする。
幸いにして金は腐るほどある。
こんな金持ちになる予定はなかったけどコユキが負担にならない程度の財力は持っているのだ。
ただもう一度ケーフィスに会って問いただす必要はあると思う。
「そうだな……」
連れていくために何が必要か。
考えてみるとそんなに障害はない。
必要なもので考えられるのは身分とかそんなものだけどそもそもこの世界において身分はあまり重要ではない。
どこかに留まるなら必要かもしれないけど旅をしている上ではどこの誰とかそんなことあまり気にされない。
もうちょっとコユキが大きくなれば冒険者として登録すれば冒険者のコユキとしての身分は得られる。
家名が必要ならリュードやルフォンのものを名乗ればいい。
必要なのはそんなものではない。
旅をする上で必要なのは自分を守る手段である。
それは同時に身を立てる方法でもある。
子供であるコユキにそれは酷な話だが今からでも何かを身につけておかなきゃいけない。
ではあるが何か連れていくのに用意しなきゃいけないものなんてないなと思い至る。
一応他のみんなにも話して許可は取っておくことは必要でもほとんど任されている状態だからいきなり拒否する人もいないはずだ。
「いや、でも……」
リュードの手を取って頬を押し当てているコユキ。
柔らかな頬がリュードの手の形にプニリと歪んでいる。
なんだかとても幸せそうな顔をしている。
もしかしだらコユキは寂しかったのかもしれない。
1人姿の違う魔物であり似たような姿をしたものはいない。
それでいながら人はコユキのところまで到達せずダンジョンの中で囚われて生きていると言えるのかも怪しく日々を過ごす。
今のコユキは生きている。
食べて寝て甘えて。
コユキが笑っているとリュードも胸が温かくなる思いがする。
身を立てる方法もありそうだ。
聞いてみなきゃ分からないけどもし上手く行くならコユキはリュードたちの旅にとって重要な役割を担うことになる。
(カッコいい……)
(……うわぁー!)
「……どうした?」
「な、なんでもない!
……ねっ?」
「う、うんうん!
何でもないよう!」
「なんだ?
……まあいいか」
ベッドに腰掛けて優しくコユキを見下ろすリュード。
普段とは違う慈愛に満ち溢れた表情をしている。
この瞬間を切り取って絵画にしたい。
そんなことを思うほどリュードは穏やかで、2人は思わず顔を赤くしていた。
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