父親になるってこんな気持ちなのかな2
「ウィドウも似合ってるじゃないですか」
「似合っていてもそれが好きな格好とは違うんだよ」
「まあ、そうですね」
試着が終わって服を微調整すると次は宴の前にまずグルーウィンの王様にお目通りである。
この国は一神教。
なかなか特殊な宗教で他の神を認めていないとなっている。
そしてその神は氷神。
グルーウィンは氷神信仰の国である。
すべての生命は氷より生まれるという価値観を持っていて氷があり、それが溶けて水になり世界に広がり、生命も生まれてくるみたいな話だったとリュードは本で読んだことがあった。
歴史を辿るとこの寒い大地で不満を持たずに生き抜くために氷に感謝することから始まった宗教である。
今では他にも神様がいることは当然の考えが多いが他の神様は氷神が生み出した氷神の子である神様で氷神であるらしい。
氷神信仰にあまり興味もなく神学にも精通していないリュードはよく分かっていない。
というか他の人に聞いても分かっていなかった。
アルフォンスだけは何か語りそうな雰囲気を醸していたので聞かなかった。
いかにも真面目そうな男性だが宗教学の研究も行なっているらしい。
そんな氷神信仰の国であるグルーウィンの王様は氷子と呼ばれている。
氷神信仰は特に聖派を攻撃するものでもないが他の神を認めていないスタンス上仲良くもしない。
ダリルたちはあくまでも冒険者パーティーに所属する聖職者であって協会に所属しているのではなく、布教活動など一切は行わない。
聖者や使徒であることは隠してただの冒険者風として振る舞う。
聖者や使徒である人は活動することも多いのでもしかしたら知っている人もいるかもしれないが表立って何かをしていない限りは向こうも事を荒立てない。
こうして真っ白な集団となった一行は氷子に会うことになった。
一国の王様だろうがリュードは緊張しないが他の人たちはややこわばった表情をしていた。
ウィドウはどちらかと言えば面倒そうな顔。
この中での代表はウィドウなのでウィドウが対応することになるからである。
「よく来てくれた。
私はフロスティオン。
この国の氷子、言うなれば王である」
透き通る氷を思わせるような明るいブルーの髪、光の加減によっては黒にも見える深いブルーの瞳。
異なった青を持つ中年の美しい女性がこの国の王である氷子だった。
「我々の頭痛の種であったダンジョンを攻略して消してくれたこと感謝いたします。
いつからか攻略不可と呼ばれ、魔物の討伐すらままならず、ダンジョンブレイクを起こすかもしれないと人々に不安を与えていた存在をあなた方は解決してくださいました。
すでに名誉はあなた方の手にありますが名誉だけで人は生きてはいけないもの。
我が国とギルドとで共同し、毎年褒賞金を積み立てて参りました。
それらはすべてあなた方のものです」
極寒のダンジョンは攻略不可ダンジョンであるために攻略を促すための褒賞金が設けられていた。
毎年それは上乗せされていき、今では莫大な金額になっていた。
攻略した人数もさほど多いとは言えない。
1人頭で割ったとしても相当な金額になるものだった。
一生遊んでいても暮らせるだけのお金が手に入る。
全く関係のない国に行って領地と爵位を買って部下に仕事を任せて至って生きていけるぐらいにはなる。
もちろん国にもよるが。
ちなみに世界には他にも攻略不可ダンジョンはあるが他のダンジョンも毎年褒賞金を積み立てている。
極寒のダンジョンよりも悪名高いところは非常に長いこと褒賞金が積み立てられていて攻略すれば王になれるとまで言われている。
国を買えるほどに積み立てられているというのだ。
実際国なんか買えないと思うけどものの例えとしては面白い。
「ダンジョンが攻略されて無くなったことを正式に発表して祝うための宴を開こうと思っている。
是非ともみなさんには参加していただきたい。
我々はダンジョンの消滅を確認したがギルドの方ではまだ承認が下りていない。
数日中には承認が下りてギルドの方から褒賞金が支払われることでしょう。
そしてもう1つ。
どうでしょうか、望まれる方がいらしたら我が国に迎え入れたいと思うのですが」
これが本題だなとリュードは思う。
当然の話で攻略不可ダンジョンを攻略したものを自国に引き入れたい。
単に逃げ回っていても生き延びられるものではないのが攻略不可ダンジョンだ。
それを攻略してきたとなれば末端であろうと実力は保証されているようなものである。
1人でも攻略不可ダンジョンを攻略した冒険者がいるとなれば国としても大きなカードであり、他国を牽制できる。
国民もそんな人がいる国だと安心することができるのだ。
優秀な人ならその血統も欲しい。
さらには1人でも抱えられれば攻略不可ダンジョンを攻略した他のメンバーとの繋がりも維持は出来るし、支払われた褒賞金も結局はいくらか国に返ってくるとかさまざまなメリットがある。
グルーウィンは国の役職や領地、爵位まで大抵の条件を飲むつもりで提案してきた。
貴族もいるが圧倒的に平民の身分が多い冒険者に対しては破格の条件。
けれど悪魔の方が条件は良かった、なんてリュードはちょっとだけ思った。
「今すぐに答えを出すことはない。
この提案はこの場限りでなく例え10年先でも有効であることは今から言っておこう」
急いては事を仕損ずる。
寛大な心を見せフロスティオンはその場締めくくった。
「一応聞くけど2人はどうする?」
寝る子は育つという。
どこかに預けるのも不安なので一緒に連れて行ったが空気を読んで大人しくしていたコユキは疲れてしまって部屋に戻るなり寝てしまった。
解散となって窮屈な白い服を脱いでリュードとルフォンとラストは集まった。
今後の活動について話し合うためだ。
ひとまず話の分かりきった質問を1つ。
フロスティオンからの提案について。
グルーウィンに所属するかどうかである。
「いやいや、この国に居るつもりはないよ?
ま、まあリュードが一緒にってなら考えないこともないけどさ」
「私はリューちゃんと一緒にいる。
だからリューちゃんがこの国で落ち着きたいっていうなら私もそうするよ」
「うん、まあ、そうだよね」
答えとしてはこんなことが返ってくるのは分かっていた。
「でもあれかな?
ここは寒いしリュードの好みじゃなさそうかな?」
「まさしくだな。
それに俺はまだまだ旅を続けたい。
ちょっと休むことはあっても腰を落ち着けるのはもっとずっと先だな」
仮に暖かくて心地の良い気候であってもこの国に、あるいはどこかの国に落ち着くつもりはない。
暖かくて心地がいいなら竜人族の村でいい。
寒いという時点でリュードにとっては選択肢にもなり得ない。
「じゃあ今後も旅を続けることで決まりだね!」
ルフォンとしてもリュードと旅をすることは楽しくて幸せだ。
どこかでのんびりするのも悪くないけど隣で共に行くこの時間はとても大切なものである。
「それよりもさ、問題って……言っていいのかな?
その子だよね」
ラストもリュードたちと旅を続けて行く気満々。
だけど目下の問題があるとため息をついた。
リュードたちが抱える1番の問題とはベッドですやすやと眠るコユキである。
正体不明の少女。
魔物という可能性もまだ排除しきれない。
けれどもリュードをパパと呼び、ルフォンとラストをママと呼ぶ。
ここに来るまで一緒にいてとても良い子だったし、もうすでに情が湧き始めている。
そういえば最初の時より少し大きなったようなと思いながらリュードがコユキの頬を指先で撫でるとくすぐったそうに微笑んだ。
誰が触っているのかわかっているようだった。
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