託された思い5
次に向かったのは1つ上の階の1番奥の一際大きな部屋。
物置なのか大小様々な箱が所狭しと積んである。
「こっちの小さい箱はね、遺品なんだ」
よく見ると手のひら大ほどの箱には1つ1つ名前が書いてある。
「それであっちの箱はこの船でも高価な物、武器とか魔具とか魔物の素材とかそんなものだけどね。
お金もいくらかあるからそっちの方は貰っておくれよ。
こっちの遺品の方なんだけどね……出来れば遺族に返して欲しくて…………」
当然といえば当然の願いだと思う。
「その、ダメ、かな?」
「私……」
「分かってる」
くいっとリュードの服を引っ張ったルフォンの表情を見れ何を言いたいのか分かる。
ここで断るほどリュードも冷血漢ではない。
「ゼムト、それも引き受けるよ。
元々旅に出るつもりだったんだ、すぐに行くとはいかないけど1つ目的としてはいいだろう」
「ありがとう」
「リューちゃぁん……」
ルフォンの顔もパアッと明るくなる。
感情移入しちゃってるな、これ。
「と、いうことで! この量を両手に抱えてもっていくのは無理でしょうから、最大の特典をジャジャーンとあげちゃいます!」
そう言ってゼムトが取り出したのは大きめの麻の袋。
「これはなんとなんと、空間魔法が付与されていてこの部屋の荷物全部入れてもまだ入っちゃうぐらいの優れもの!
この大きさの空間魔法なら国宝クラスのマジックアイテムなのだ!」
「ほーん」
「いや! リアクションの薄さ!」
「そう言われてもなぁ……」
実際問題リュードにはマジックボックスの魔法がかけられたカバンがある。
容量も結構デカいしカバンの方がスタイリッシュなのでわざわざ袋を腰から下げて持つかなと考えれば持たない。
確かに貴重品なのでルフォンにならちょうど良いかもしれないと思ってルフォンを見てみるとルフォンはルフォンで凄さがわかってない。
確かにこの量の荷物が入り切るのか不安だったから助かったといえば助かった。
「これむっちゃ凄いやつなんだけどな……」
うなだれて全身でショックを表現するゼムト。
凄いことは分かるし役に立つことも重々承知していてもリュードの持っているものが同等の働きをするため驚きは少なかった。
容量で考えると袋の方が多そうなので実際は袋の方が凄い。
凄さを分からせてやると部屋の荷物を袋に放り込んでいき、ルフォンのリアクションを得てやっとゼムトは機嫌を持ち直した。
なんやかんやと部屋の荷物を収納してみせた袋を1度名残惜しそうに撫でた後グッとリュードの方に突き出してくる。
「子供なんかもいた奴には遺品を渡してほしい。家族がいなくて、親族なんかもいないような奴のはどうか……この遺品を埋葬してやってくれ
一応名簿見たいのも入れたからさ」
受け取った袋には袋分の重さしか感じられない。
それしか感じられないはずなのに、どこかとても重く感じられた。
「いろいろ勝手に話を進めたけど僕からはこんなところかな。あんまりこんなところに若い子を長く留め置くのも悪いからね」
「それで俺たちはどうしたらいいんだ?」
まだスケルトンがいることは分かっている。
殺してくれというのなら1体1体……1人1人倒していけば良いのかな。
「そうだね……君たちを外に出すために僕は浮遊の魔法を使うからある程度飛んだら魔法でこの船ごと僕たちを殺してほしい。
僕が延命を施したけどこの船ももう本来なら死んでいてもおかしくないんだ。休ませてあげたい」
「…………」
「ちょっと難しかったかい?」
「魔法で燃やせばいいのか?」
「そうだね。
出来れば盛大に燃やしてくれるといいけど、きっと魔法を解いたらこの船は簡単に燃えるから小さな火でも大丈夫さ」
「出来るか分からないが俺の扱える全力でやってみるよ」
正直なところ、リュードの魔法はまだまだ剣に比べて未熟だった。
一定以上の魔法も使えるし村の同年代やあるいは多少上と比較しても腕前はある。
ヴェルデガーは村一番と言っていい魔法使いでリュードも魔法に憧れてちょいちょい練習はしていても、悲しいかな周りの環境が魔法向きじゃなかった。
練習する魔法も便利な生活に使える魔法から主に身体強化系の魔法の比重が大きい。
魔法の行使は意外と難しく1人コツコツと練習するのみではなかなか伸びるものも伸びないというものだ。
村全体が剣の腕を重んじる脳筋気味だから剣を握っている時間の方がはるかに長い。
「じゃあ上に行こうか。君たちを心配している人たちもいるみたいだしね」
なんの魔法を使おうか。
甲板に出るまでの間自分に扱える魔法や本で見た魔法を思い出しながらどの魔法ならこの大きな船ごと綺麗に事を片付けられるかを考えた。
やはり火をつける必要があることやアンデッド化してしまっている船員をちゃんと弔うことを考えると火の魔法だろう。
「ただなぁ」
リュードはあまり火の魔法が得意でない。
魔法の練習は村はずれか開けた場所として川のそばまで行ってやっていた。
それでも周りは森。
木でいっぱいの中で下手に火の魔法を放てば大惨事になりかねない。
火がつかないようにコントロールすることも可能だが万が一コントロールを外れた時が大変。
だからその対策も兼ねてリュードは逆に水の魔法がやや得意になっている。
「さてとみんな集まるんだ」
甲板に出るとゼムトがスケルトン達を集める。
多少リュード達に倒されて減ったと思っていたのにまだまだスケルトンが下から上がってくる。
どこにこんなにいたのか。
「ふふっ、結構いるだろ?
準備はいいかい? 忘れ物はないかい? ハンカチは持った?
それじゃいくよ…………」
杖を掲げるゼムト。しかし待てど暮らせど魔法を使う気配がない。
「まさか……本当に君なのかい……」
ゼムトが振り返る。そこにはガイデンかもしれないと紹介されたスケルトンが立っている。
ガイデンが前に出る。
どうにも会話をしているようだけれどスケルトン同士にしか分からない意思疎通方法なのか、声は聞こえない。
「ここまで来てなんだけど、もう一つ頼み事をしてもいいかな?」
「内容による」
落ちてからそう時間が経っていないだろうと思うけれどもあまり遅くなってもいけない。
上の連中が諦めて引き上げてしまうとリュードとルフォンはほとんど道具もなく2人で帰らなければいけなくなってしまう。
「分かった、ちょ、ちょっとだけ待って」
ガイデンの頭に杖の先をつけて何かをするゼムト。
魔力を感じるので魔法を使っていることは分かる。
「聞こえるか、客人よ」
ゼムトとは違う低い声。
「私はガイデン・マクフェウス。元は騎士団長だったのだが今は見ての通りのスケルトンだ。
見たところ君は若いが立ち振る舞いに隙がない。相当腕が立つ……そう見込んで頼みがある。
私と戦ってくれないか」
スケルトンではなく武人として死にたい。
眼球のない目がリュートを捉える。
「……いいですよ」
さほど時間のかかる頼みでもない。
それにこんな頼み断っては男が廃る。
甲板の荷物をスケルトン達が片付ける。やはり非力なのか1人でも持てそうな物でも2体3体で持っていたりしていた。
ガイデンはどこからかスケルトンが持ってきた盾を持ち、剣を抜いて待っている。
立ち姿はスケルトンなのに風格を感じさせ、ヒリヒリとした戦う前の空気になり始める。
「準備オッケー」
すっかり甲板は片付けられ、縁を描くようにスケルトンに囲まれる。
「いつでもかかってくるといい」
対面するはガイデン。
かつて一国の騎士団長にも上り詰めた男。
「いくぞ!」
リュードは床板を強く蹴ってガイデンに向かって走り出した。
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