父親になるってこんな気持ちなのかな1
神物はマジックボックスの魔法がかかったカバンなり袋なりに入らなかった。
なので周りから見えないように布で包んで普通のリュックの中に入れて持ち運んでいる。
そのリュックを背負うのはリュード。
「やはりリュードは神の子にゃ〜」
「うるさい、ニャロが持てよぅ」
「女の子にそんなこと言っちゃダメにゃ」
「なんだって俺が……」
「だってリュードの方が神聖力に強いからお願いするにゃ」
「俺自身には神聖力なんか微塵もないのに?」
本来なら聖職者たちが持つべき神物。
それをリュードが持っているのには理由があった。
神物からは神聖力が溢れている。
強すぎる力はどうしても不都合を生みがち。
聖職者たちは神聖力を普段から扱うので神聖力に対して耐性があるはずなのに神物を長時間側に置いておくと具合が悪くなるのだ。
神聖力酔いとでもいうのだろうか。
そうした症状や病名があるのか誰も知らない。
けれど不調の原因が神物にあると分かってからは交代で持つようにして、聖職者じゃない人は具合が悪くなるのが早く聖職者は割と具合が悪くなるのが遅かった。
その中でも平気だったのがリュード。
長時間神物を持っていてもケロリとしている。
なので今はリュードがメインで神物を持っている。
リュードの体調が悪くならないようにみんなも持つけど多くの時間をリュードが持つことになったのだ。
そんなに重たいものでもないけど神物を持っている重圧はちょっとだけある。
しかもニャロが神物を持っていてもなんともないリュードのことを神の子なんて言い出した。
「リューちゃん、神の子、イケメン君にゃ」
「天罰!」
「にゃー!
いたいにゃー!」
リュードをバカにした天罰としてニャロの頬をつねる。
神聖力はリュードにないが今回の活躍に、神に呼ばれたり、なんか知らないけど謎の子コユキにパパと慕われている。
リュードが神の子でなくても並々ならぬ才能を持った天才である。
「あっ!
アンタら!」
こうして真っ白な世界を進んでいって人の気配が見え始めた。
魔物が来ないか巡回していた冒険者が雪の向こうから来るリュードたちに気がついた。
どこかに走り去ってしまったので知り合いだったかすらわからない。
これまで人工物も全く見えないところを歩いてきたから家が見えるだけでホッとする。
町中を人々の視線を浴びながら移動して冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドの前では数人の人たちが待っていた。
「ああ、本当に帰ってきた!」
そのうちの1人はダンジョンブレイクを防ぐためにダンジョンの魔物を倒す討伐隊を率いていた冒険者だった。
リュードたちと別れてからそれなりの日数が経っていた。
プラチナランクの冒険者でもダメだったのかと討伐隊に参加した冒険者の間でも諦めムードが漂っていた。
そんな中で1人も欠けることなく(むしろ1人増して)帰ってきた。
興奮して、もう目が潤み始めていた。
結果がどうあれ無事に帰ってきてくれたことだけでも大したものである。
「ま、まさかとは思うが……」
リュードたちの顔は負けて逃げ帰ってきた人の顔ではない。
否が応でも期待を抱いてしまう。
「そのまさかだ」
「ほ、本当か!?
これは大ニュースだ!」
「あっ……」
顔を真っ赤に高揚させて冒険者はどこかに走っていってしまう。
ダンジョン攻略を叫びながら。
「お待ちしておりました!
そのお話ぜひともお聞かせください!」
冒険者の他にギルドの前で待っていたひとたち。
それはこのギルドの職員やギルド長であった。
最初にリュードたちに気づいて走り去った男が冒険者ギルドに伝えていて、職員総出での出迎えとなった。
「はははっ、大歓迎だな」
それどころか騒ぎを聞きつけ町の人たちも集まり始めている。
「ふむ……このままでは収拾もつかないな。
どれ、ここは1つ……」
ウィドウは咳払いをすると集まってきた人たちにグルリと視線を向けた。
「攻略不可ダンジョンと呼ばれた極寒のダンジョン……プラチナランクの冒険者、このウィドウ・アダランが攻略した!」
噂でザワザワと広まるよりも堂々と宣言してしまう方が早くていい。
期待した人々の目に応えるように発されたウィドウの言葉に人々が喜びを爆発させた。
ダンジョンの利用者やドロップ品などで多少の利益は生み出すが攻略不可ダンジョンであることの不安はみんなの中にあった。
ダンジョンブレイクの話はどこからか聞こえてくることもあっていつかそうなるのではと思って生きていた。
知らない隣の人と抱き合い喜び合う。
こうなればもうあとはほっといてもしっかり盛り上がってしっかり大人しくなるだろうとウィドウは思った。
ギルド長に招き入れられてギルドの中で落ち着いて報告する。
せめてダンジョンの中のことが分かればと思っていたけれど攻略を成功させ、さらにダンジョンは無くなって完全に心配は消滅してしまった。
話に聞くとダンジョンの魔物は強力で仮にダンジョンブレイクを起こすとかなり危険なところだった。
報告を終えるとギルドで1番良い宿を押さえてくれていて、そこに泊まることになった。
まさしくVIP待遇である。
すぐにでもテレサのところに向かいたいがそうもいかない。
ダンジョンが消えたと言う話を簡単に鵜呑みにするわけにもいかない。
リュードたちがウソをついているなどと考えられもしないが調査は必要だ。
報償金を渡す必要もあるのでギルドの方でダンジョンがあった場所に人を派遣して調べる間町に留まることになった。
ついでにダリルの回復も待った。
降臨の反動でほとんど動けないぐらいだったダリル。
リュードが持っていた使わない槍2本に布を結びつけて担架とかソリもどきにしてダリルを引きずって運び町に着く頃にはなんとか歩けるぐらいになっていた。
今は宿で大人しく過ごして日常生活できるぐらいにはなっていた。
リュードたちは英雄扱いだった。
聖者や使徒である聖職者たち、そして高ランク冒険者パーティーであるケフィズサンのみんなは割と経験があって声をかけられることにも慣れている。
けれどリュードたちはそんな経験もないのでかなり気まずいというか照れ臭かった。
調査も終わって極寒のダンジョンの完全消滅が確認された頃にはグルーウィンの国中にダンジョン攻略の報は駆け巡っていた。
リュードたちはグルーウィンの首都で行われるダンジョン攻略を祝う宴に招待された。
神物を持っているんでと断ることもできずに行くことになってしまった。
まだまだダリルの体調も万全ではないし、ここでグルーウィンに逆らって良いことなど1つもない。
グルーウィンの首都である氷都ツンダロまで馬車での移動となり国から依頼された冒険者が護衛して野営の準備までしてくれた。
食事はルフォンのものが良かったななどとウィドウが呟いていたとかなんとか。
首都までの各都市で大歓迎を受けて、上宿に泊まる。
そうして至れり尽くせりで運ばれてグルーウィンの首都ツンダロに着いた。
ツンダロに着くと護衛は冒険者から国の兵士にバトンタッチ。
グルーウィンの首都ツンダロには氷宮と呼ばれる透明度の高いクリスタルをあしらったお城があってそこで宴が開かれることになっていた。
「ひゃああ……」
目の回る忙しさ。
体を採寸されて服を作る。
宴まで時間がないらしく装飾品の合わせなども急ピッチ。
白を中心とした服装を一行は用意されて宴のために試着する。
「呼びつけておいて格好まで指定するとはな……」
「我々は普段から白いですからあまり違和感がありませんね」
ウィドウは普段から暗めの色の服を好む。
黒い系統の服が多くて、ややだぼっとした緩い服が好きだから白くてぴっとしたスーツのような服はあまり着こなさない。
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