増える尻尾2
戦いにおいて適切に引き際を見極めて生き残ってきたウィドウの冒険者としての引き際も見据えて動かなきゃいけない。
ウィドウだけではないケフィズサンのメンバーも冒険者の中で見ると高齢といえる人たち。
第二の人生をどう生きるかを考えることは大切なことである。
プラチナランクやゴールドランクまで上がることができれば稼ぎも大きくなる。
散財せずに貯めておけば第二の人生が安定するまで余裕で生きていける。
プラチナランクなら引退後でも引くて数多なので生きてさえいれは心配は少ないだろうけれども。
おそらく人柄も良いウィドウやケフィズサンのメンバーなら冒険者ギルドや貴族なんかから声がかかるはずだ。
「なんだかしんみりとしてしまったな」
冒険者の旬は短い。
ウィドウの話を聞いてリュードたちも思うところはある。
「そこに関して聖職者はいいよな。
大変なこともあんだろうが生活の心配は俺たちより少ないからな」
その点において聖職者は戦いに出ることをやめてもやることはある。
教会で働けば衣食住に困ることはなく、神聖力を必要とする場面は意外と多いので求められる場所もある。
特に使徒や聖者にまでなると教会内で重宝されるし現場レベルでも長くやっているし、上の役職にも就くことができる。
「お前らはまだそう言ったことを考えるには早いか。
もう少し俺が若ければ共に活動することを誘っていた」
「いえ、今からでも貯めるもんは貯めてのんびり人生も夢見てますよ」
「はははっ、それはいいな!
俺の若い時はとにかく有名になりたい、金を稼ぎたいと思っていたもんだがな。
余計な欲に囚われないでいられる冒険者は結果的に多くの人を助ける優秀なものであることも多い。
リュードがそうした性格なのも神の思し召しってやつなのかもな」
「少し意味は違うと思いますがリュードさんは確かに神のお導きのような存在ですね」
「ははは……」
神の導きはあながち遠いものじゃない。
ケーフィスのお願いを受けて、情報を与えられてここにいるのだからある種の導きの言っていい。
神様にお願いされてここにいますなんて言ったらどうなることだろうか。
曖昧な笑みを浮かべてリュードは誤魔化す。
「にしても無事に帰ることが必要にゃ。
もうこのダンジョンいやにゃあ〜」
ため息混じりにニャロが言う。
ウィドウが引退するにしてもまずはダンジョンを攻略して生きて帰らなきゃならない。
寒さと雪の変化のない厳しくて飽きのくる環境に精神的にも肉体的にも疲弊する。
出てくる魔物も一筋縄じゃいかない。
ここまで崩れることなく戦えているので犠牲になった人もいない。
少しでも油断するとあっという間にダンジョンに消えることになる。
吹雪いたりするし、日が出ずうっすらと明るい微妙な天気も気分を盛り下げる。
「引退するならあったかいところに行きたいな。
寒いところはもうこりごりだ」
「暑いところはイヤだけど寒いところもイヤだにゃ」
「終わりはまだ分からないが……また少し進んだみたいだな」
今度の変化は分かりやすい。
少し離れたところからでも見えていたので分かってもいた。
近づいてみても見たまんまのもので間違いなかった。
「こんなものでもあると少し安心してしまうな」
緩やかな斜面は平坦になり、雪原にはいつしかポツポツと木々が生えているようになっていた。
枯れ木ではなく葉が生えていてその上に雪が積もっている。
さらに進んでいくと木々が増えていき景色は白と茶色と緑の冬の森林になっていた。
生命を感じさせない雪景色だったダンジョンで雪の中でも強く生きる常緑樹の生命を感じるのはちょっとだけ安心する。
打って変わって視界は開けた雪原に比べて悪くなった。
環境が変わるたびに新しく魔物が出てきた。
また新しく魔物が出てくるかもしれないとみんなが警戒する。
「ん……あれは…………キツネ?」
密集してきた木々を眺めながらどう動くが考えていると遠くの方に動くものがチラリと見えた。
よく目を凝らして見てみると超大型犬ほどの大きさのキツネがリュードたちの方を伺うように見ていた。
雪のように真っ白なキツネ。
キツネはリュードたちに見られていることを気づくと顔を背けて奥に走り去ってしまった。
モフモフしてて可愛かったななんて思うリュードは重症かもしれない。
戦いもせずに行ってしまった。
そのことにほんのりとした不安を感じる。
遠くて力の程は分からないが少なくともすぐに襲いかかってこないような知性や知恵を持っている。
また厄介そうな相手。
見た目だけの比較ならキツネがこれまでで最も弱そうだけどダンジョンってやつは奥に行くほど敵は強くなる。
油断はできない。
「ん?」
「ん」
全身モフモフとは今はちょっといきませんが可愛いミミなら負けませんよ?
リュードの服の裾を引っ張りルフォンが頭を差し出した。
「いきなり何してんのさ?」
ルフォンに邪な心を見抜かれた。
ホッキョクギツネ可愛かったななどと他の人とは違うことを考えていたのを完全にルフォンは理解していた。
ルフォンに負けたリュードは大人しくルフォンの頭を撫でる。
髪も柔らかくて気持ちいいのだけど時折触れるミミの毛は髪と違ってケモノの柔らかい毛をしていてよりフワフワしている。
リュードの変態ぶりを知っているルフォンだから見抜けた変態的思考だった。
ウィドウなんかは今考えを巡らせてキツネがどんな戦いをする魔物が考えている。
それなのにリュードは手触りを考えていた。
よく見抜けるものだと思うがルフォンからすればバレバレ。
「ん?
……ほれ」
「いや、別にそんなんじゃないし……まっ、いっか」
リュードはラストの頭の高さに手を差し出した。
頭を撫でろと言っているのではない。
でも拒否するものでもなく、撫でてもらえるなら撫でてもらいたいのでリュードに近づいて頭を手に近づける。
「……若いとはいいな」
敵が姿を現したのにこののほほん感。
悪くない。
奥さんと積極的なスキンシップを図ったのはいつ以来だろうとふと考えた。
不思議とイチャつきたい気分にさせられた。
ご機嫌ルフォンとご機嫌ラスト。
思わぬところでエネルギー補充が出来た。
「……敵が来るぞ!」
目を細めて木々の隙間から奥を注視する。
木々の間を縫うようにキツネが数匹走ってくる。
改めて見るとかなりデカい。
キツネはもうちょっと小さいイメージだったのに撫でごたえがありそうなサイズ。
「いや……ちがっ!」
ルフォンに睨まれるリュード。
撫でようなんて思っていないぞ。
「速いな!」
ほとんど音もなく走ってくる白キツネ。
まだ直線的なのでどうかは判断しきれないが今のところレッドットベアやスノーケイブよりも足は速そうだ。
ダリルが駆けてくる白キツネに合わせてメイスを振り下ろす。
地面を殴りつけたメイスが雪を舞い上がらせる。
けれどメイスは白キツネには当たらなかった。
「ぬうっ!」
「ダリル!」
メイスをかわして反撃に転じる白キツネの爪がダリルの胸を切り裂いた。
金属の胸当てをしていたのにそんなものがないようにあっさりとダリルの体にまで爪が届いた。
「くらえ!
……おあっ!?」
ブレスが白キツネに火の玉をぶつけた。
顔に直撃してブワリと一瞬白キツネが火に包まれるがそのままブレスに突っ込んでくる。
「チィっ!」
「悪い、助かった!
コイツら火が効かない!」
横からリュードがブレスに迫る白キツネを切りつけたがサラッとリュードの剣をかわす。
炎が消えるが白キツネには焦げ目の1つもなかった。
力強さはないが攻撃の鋭さが凄まじくまともに攻撃が当たると危険だ。
その上白キツネには火炎耐性があるようだった。
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