楽しみの秘訣1
ダンジョンは入り口から一方向に伸びているのではない。
仮に今進んでいるところを門から北だとすると東西南の方向にもダンジョンは広がっている。
安全に討伐をして確実に帰ってくるために討伐は奥まで進みすぎない。
門から進んで来て最後の旗まで来た。
ここまで来ると討伐隊は引き返す。
抜いた旗の支柱を回収しながら途中にいるレッドットベアを倒して戻る。
そうして門まで戻ってきたら回収した支柱を一度外に出して新しい旗をまた持ってくる。
そしてまた別の方向に向かう。
門を中心として放射状に6方向に旗が立ててあるので行って帰っての討伐を6回繰り返すことになる。
旗はいざとなったらリュードたちも帰ってくる時に目印にすることもあるかもしれない。
時間はかかっても討伐隊への協力は惜しまない。
レッドットベアも慣れてくるとそんなに脅威でもなくなった。
第二波があって結局30体ほど倒すことになった群れが1番大きかったみたいで以降の群れはどれも最大でも10体前後までしかいなかった。
討伐隊もリュードたちにあまり負担をかけないようにと頑張ってくれていたので5往復でもそんなに大変じゃなかった。
「ありがとうございます!」
過去1番楽で、過去1番大量だったとベテラン冒険者は言った。
6方向目の討伐の最後までやってきた。
割と倒したからか6方向目ともなるとレッドットベアの数も少なめだったが総量で見るとこれまでで1番ドロップ品の量が多かった。
ドロップ率やドロップの内容で見ても運が良かった。
ダリルたち聖職者も多くいたおかげで死者もなかった。
「このまま先に進むと次の魔物が出てくる場所になるらしいです」
討伐隊はこのまま引き返していくがリュードたちはダンジョンを攻略するために進まねばならない。
ここでお別れとなった。
「こちらお礼などとは言えませんが足しにしてください」
戦闘としては多かったがリュードたちやケフィズサンのおかげで素早く戦いが終わり、むしろ想定よりも早くスマートに討伐予定が終わってしまった。
天候も荒れず穏やかだったので多めに持ってきた物資が余ることになってしまった。
帰りの分を計算し、そこに余裕を持たせてもまだ多い。
だから余剰分をリュードたちにあげることにした。
ダンジョンを攻略するのに食料は大事だ。
何日かかるか、どうなるかも分からない。
討伐隊としても攻略してもらえれば嬉しいので少ないが感謝の気持ちを込めたお礼である。
「命があれば帰ってきて何度だって挑むことはできます。
私たちがプラチナランクの冒険者を心配するのはおかしいかもしれませんがどうかお命は大切になさってください」
「もちろんです。
生きて帰ってきたら酒でも飲みましょう」
「その時はプラチナランクの奢りで良い酒をお願いします」
「ははっ、生きて帰ったお祝いに奢ってくれるのではないですか」
「攻略したら店を買っても有り余るほどお金がもらえるのでお祝いに、奢ってください」
短い間だが寒さに耐え背中を守り合って戦った。
ベテラン冒険者とウィドウがどちらともなく手を出して握手を交わす。
食料を受け取り討伐隊とリュードたちはそれぞれの方向に向かって進み出した。
ここからは目印もない。
雪原の中に目指すべきものや方向を示すものもない。
過酷な旅が始まった。
赤い簡単な旗でも白い世界に別のものがあると意外と安心したものだったなと今更ながらに思う。
後ろに足跡がなければ進んだことさえも分からなくなりそうなダンジョンの中をひたすらに進む。
一体なぜ、誰がこんなところに神物を隠したのか。
もっとまともなところに隠してくれれば良かったのにと思う。
見つかりにくい、探さないと言われればそうかもしれない。
雪原のど真ん中に神物を埋めといたなんて気づける人はきっといないはずだ。
何を思って雪原に神物を埋めたのか問い詰めてやりたい気分。
ちょっとした苛立ちはレッドットベアにぶつける。
幸いなことに小規模な群れにしか合わず戦闘も苦にならない。
ドロップ品としては魔石や皮が多く続いて爪や牙、そして肉と続いて稀に胆が落ちた。
皮は結構落ちるけど肉類はドロップ率低めのようで1群れで1個ぐらいのドロップ率。
皮なんかと一緒に落ちることもあって一応ドロップ品も拾っておいてある。
「正直に話してくれ」
リュードは舐めていた。
プラチナランクの冒険者の勘や観察眼というものを。
「君たちは何を隠している」
「そ、それは……」
リュードはウィドウに詰められていた。
それどころかダリルやニャロもリュードのことをジーッと見ている。
見られている対象はリュードとルフォンとラスト。
つまりいつもの3人である。
「君たちは食事を楽しんでいない!
その理由、教えてもらおうか……」
周りへの気配りもまたリーダーとして必要な能力である。
よく周りの様子を観察して必要なことや物を見抜いて適切にフォローしてあげるのが大切だ。
長いことパーティーのリーダーをやってきたウィドウは冒険者としてだけでなくこうしたパーティーのリーダーとしても優秀。
みんなの様子を見ていてウィドウは気づいてしまった。
リュードたちが食事の時にテンション低めであることに。
変わり映えのしない景色、警戒を解けない状況の中でも安らぐことができるのが食事である。
唯一の楽しみと言える食事の時間なのにリュードたちは少し冷めた目をしている。
確かに持っている食料では華やかな食事とはいかないだろう。
そうであってもささやかな幸せを感じるのが人ってものだ。
そこでウィドウは考えた。
食事が楽しみでない理由がある。
お腹は空いているから食べる。
特に嫌いなものがあるわけでもないし3人が同じく嫌いなものがあるというのもおかしい。
もしかしてこいつら普段から何かもっと食事をお楽しみにしているのではないか。
気配りというか、目ざとい。
それを堂々と聞いてくるウィドウもウィドウだけどそれを聞かれてリュードも動揺を見せてしまったのがいけなかった。
そんな質問想定してなかったが味気ない食事に辟易としていて油断をしてしまっていた。
今現在は料理と言える料理ではない。
焚き火は体を温めるためにあるし、料理のために占領もできない。
物を炙って温めるぐらいはできるけどそれ以上は難しい。
贅沢しているつもりなんてないけどルフォンの作ってくれる料理には遥か及ばないと思わざるを得ないのだ。
それを見抜かれてしまったリュードたちだがどう答えたらいいものか迷う。
「……分かった」
「ウィドウ?」
おもむろに立ち上がったウィドウは自分のテントに行った。
そして何かの袋を持って出てきた。
「ほれ」
「えっと?」
袋を差し出すのでとりあえず受け取ってみた。
ずっしりとした重みがあってジャラリと聞こえてくる金属音には聞き覚えがある。
聞かずとも中身が何か分かった。
「これって……」
「金だ」
「ええっ!?」
「金なら払う。
そんな顔をしていたということは飯をもっと楽しむ秘訣があるのだろう?
教えてくれ。
いや、美味い飯を食えるなら食わせてほしい!」
例え味気ない食事でも楽しみしているが美味い物を食えるならその方がいいに決まっている。
リュードは手にかかる重みから中の額を想像するが結構な金額だと思う。
とんでもない交渉術に焦るリュード。
みんなは黙っておもしろそうに事の成り行きを見守っている。
「ん?
足りないか?
ならもっと……」
「いやいや!
足りないなんてことはないですよ!」
「では教えてくれ!」
「う……」
ただ秘訣なんて大層なものではない。
腕のいい料理人と料理できる環境を整えられるなんていう話なのだ。
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