託された思い2
確かに周りに水気がない割には空気がベタッとした感じはある。
「いや、何回か来てるけどこんな感じは初めてだな」
「あとよぅ、ちょっとだけ変な臭いがするんだけど毒とかじゃなさそうだけど……」
「あっ、たしかにちょっと臭うね」
臭うという言葉にルフォンと言い出したのと別の人狼族ケルクが賛同する。
変な臭いとは何だろうか。
少し意識して嗅いでみると竜人族の鼻ではほんのりとしか感じられないけど何かの臭いがたしかに感じられた。
今まで作業に夢中で気づかなかったけどこうベトっと汗かくのは湿度のせいだし、何か変な臭いもしていたようだ。
でもなんか嗅いだことある臭いな気がするんだよな。
「どっかからか漏れてきてるのか?」
リュードのそんなつぶやきを受けて人狼族の3人が鼻をひくつかせて臭いの元を探す。
「うーんとね、こっち……かな」
ルフォンがフラフラと採掘場所の奥の方に向かっていくのでリュードもとりあえず付いて行ってみる。
「近い……」
何もないように見えるところで立ち止まると四つん這いになって鼻を地面に近づけて嗅ぎ出す。
「あっ! ここだ……」
「ルフォン!」
「ルフォン! シューナリュード!」
臭いの元を見つけて勢いよく顔を上げたせいか、突如として手をついていた地面が崩れ、油断していたルフォンはそのまま吸い込まれるように穴に落ちていく。
とっさにルフォンの服を掴むも穴はさらに広がって足元が崩れ落ちリュードもルフォンとともに落ちていった。
「ルフォン掴まれ!」
強引にルフォンを引き寄せると抱き抱える形でルフォンを守ろうとする。
真っ暗で周りも見えず後どれほど下までどれほどなのか、上からどのぐらい落ちたのか全く分からない。
落ちていることだけが今わかる唯一のこと。
何にしても永遠に落下が続くわけでもなく、すぐにでも地面に激突してもおかしくはないのだから何か対策を取らねばリュードが抱えるルフォンはともかくリュードは即死しかねない。
ヴェルデガーのように慣れていれば瞬間的に考えて魔法を使えたのかもしれないが今のリュードに適切な魔法をイメージする余裕も発動することもできない。
だから本能で扱えるただ一つの方法を取った。
直後、3度の衝撃。
「ヴッ……ルフォン、無事か?」
「うん、私は大丈夫だけどリューちゃんは……?」
「少し待ってほしい……」
リュードは落ちながらとっさに竜化をした。
全身に生えた鱗に魔力を通して硬化させてダメージを軽減させた。
怪我や骨折はないみたいだけど衝撃までは殺せず背中を打ち付けて呼吸が一瞬できなくなるほどだった。
見えないながらカバンからポーションを取り出して飲む。
ダメージが激しすぎて竜化も解けて体も動かせない。
ルフォンはそんなリュードの上に乗ったままペタペタと体を触って怪我ないか確認した後、離れるのも不安なのかそのままピタリとリュードにくっついた。
暗闇で目が使えないと他の感覚が鋭敏になる。
上に乗っているルフォンは柔らかいしほんのりと甘い良い匂いがして、上半身に乗っているためかパタパタと振られている尻尾が巻き起こす風がふわりとほほに当たる。
どこがとは言わないけど体の一部が元気になってしまいそうでこれもまた辛い。
「……そろそろ動けそうだ」
「まだ休んでてもいいんじゃない?」
「そうもいかないよ。みんなも心配してるだろうしね」
痛みが落ち着き頭が冷静になるにつれ自分が置かれている状況が何となく分かり始め、なおかつ分からないことが出てきた。
とりあえず骨折などはなく打ち身だけで済んだようだ。
どれほどの高さから落ちたのかは知らないけれど滞空時間からすると相当高いはず。
改めて竜人族の体の丈夫さに感謝する。
ルフォンはリュードの上から退けてくれたけど離れるのは不安なのか裾を掴んだまま。
「光よ」
手に魔力を集めるようにして呪文を唱えるとポワッと光の玉が手のひらの上に出来て周りを照らし出す。
この周りを照らすだけの魔法は詠唱が簡単でリュードでなくても簡単に使えるぐらいのものである。
いきなりの光に慣れるまで時間がかかるが少しずつ目が慣れてきてようやく周りの状況というかどんな場所にいるのかがわかった。
倒れている時にも手が触れていて分かっていたけれど周りは木に囲まれた空間にいた。
当然木といっても森にいるわけではなく床、壁、天井が木を材料とした人工的に作られた部屋にいるという意味である。
上を見上げると天井に大きな穴と向こうに広がる暗闇。
無事に済んだのは固い地面じゃなくこうして床板を破壊して落ちたためにダメージが多少軽減されたからだろう。
そしてここにきて人狼族の3人が言っていた変な臭いをリュードが感じることも出来、リュードにはその正体も何となく予想がついていた。
「ここは……船か」
不規則にわずかに揺れ動く体、部屋に転がる樽や木箱。
そして前世で嗅いだことのある臭い。これは海の臭い。
総合すると船の上にいるのではないかと推察した。
「船? 船ってあの?」
「んー……多分ルフォンが考えてるやつとは違うもっとデカイ船だと思う」
海は村から南にあるけれど南までは距離もあるし町もないからまずそちらにはいかず臭いも届かないのでルフォンが臭いを知らなくても無理はない。
そして船もここまで来るのに使ったような川を渡るための小舟ぐらいしか見たことなく大型の船があることも分かってない。
村から出たこともない人の中には海の存在すらしない人だって多くいる。
まあ今大型の船の中にいるというのもリュードの予想でしかないわけだしまだ状況は分かっていないに等しい。
とりあえずと思って部屋にある樽や木箱を見てみたけどどれも中身は空で綺麗なものだった。
仮に船だとして、山の中から落ちてどうして船があるのか。
なぜ相当衝撃も大きな音もあったはずなのに誰も来ないのか。
船だと仮定しても説明できないことが多い。
「ルフォン、部屋を出てみようと思うけど武器だけは構えておいてくれ」
「分かった」
何があってもおかしくない。
槍を休憩している時に手放していて置いてきてしまったリュードはマジックボックスから剣を取り出しておく。
ドアは小さく軋む音を立てて開く。
廊下にも明かりはなく真っ暗。
どっちにいっていいかも分からないからひとまず右に進み、途中の分岐は無視して真っ直ぐ進み続ける。
「うわっ、キモチワル……」
運が良く階段を見つけられて上がっていったのだが2階分上がって甲板に出たところで奴らがいた。
「どうやら友好的じゃ、なさそうだな」
カラカラと音を立てて動く骨。
魔の魔力に当てられて意思を持たない魔物とかした人の骨、スケルトンが甲板にワラワラと存在していた。
光が見えているのか知らないけどこちらに反応したスケルトンたちは持っていた武器を構えてリュードたちに対峙してくる。
20体はいるスケルトンを前にリュードは少し吐きそうな気分がしていた。
動く骨が気持ち悪くないわけがない。
逆にルフォンは魔物としてしか見ていないようで平気そうだけど前世の記憶があるとこういったところで不都合がある。
元は多分人とはいえ、こうなってしまっては分類は魔物になる。
油断すれば殺されて、時間が経つと同じようにスケルトンになってしまうかもしれない。
やるしかないのだ。
「いくぞ!」
「うん!」
ジリジリと距離を詰めてくるスケルトンにこちらから打って出て先手を加える。
ルフォンにも光が届くよう左手に発生させている光の玉に魔力をさらに加えて光を強くしてからリュードは適当に1番前にいるスケルトンに剣を叩きつける。
盾で防ごうとしてきたけど力が弱くそのまま押しつぶされるようにスケルトンはバラバラに砕け散った。
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