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ケーフィス教の悲願1

「ようこそいらっしゃいました。


 わざわざご足労いただきましてありがとうございます」


 人が良さそうに柔らかく笑う中年の男性オルタンタスは立ち上がって深々と礼をした。

 お城の裏手近くにあるレストラン。


 貸し切りの札がかけられていて限られた客しかいないので店の中は広く感じられる。

 貸し切ったのはケーフィス教。


 そしてリュードたちはそこにご招待いただいた。

 くれぐれもラフな格好でお願いしますなんて言うから普通の格好できたのに思い切りドレスコードのありそうなお店でビビっている。


 貸し切りだからいいんだろうけど事前にそんなお店だと伝えてほしかった。

 恐る恐る中に入るとダリルを始めとした数人の人がリュードたちを待っていた。


 その中で始めに挨拶をしたのがオルタンタスであった。

 枢機卿ヒョルド、大司教オルタンタス、使徒ダリルと一般信者がここにいたら気を失ってしまうのではないかという人たちが集まっていた。


 今この国にいるケーフィス教のトップの方々である。


「お招きに預かり光栄です。


 ……なんでそんなガチガチになってんだよ?」


「いやいや!


 枢機卿とか普通にすごい人だかんね!」


 旅に関してはリュードたちよりも疎いがラストはこれまで政治的にトップの立場にいた。

 周りの人の補助が大きくお飾り的なところもあったが仕事は真面目にこなしていた。


 政治と切っても切り離せないものとして宗教がある。

 血人族の国なので血人族の神もたたえているが他の種族も多く、かつ真人族も排他しているわけではないので色々な宗教がある。


 特別宗教にへりくだることはなくても余計な火種を抱えて良いことなどない。

 失礼のないように宗教についてはよく学ばされた。


 普段職責が上の人は来ないのだけど領地に視察などの理由で職責が上の人が来ることになるとラストたちも気を使ったものだ。

 今はイチ個人であり、ケーフィス教でもなんでもないので対等な立場なはずだけどそういった過去があるから緊張はしてしまう。


 対してリュードは何も思わない。

 勉強不足なのではなくリュードはケーフィス教の信者でもなく別宗教にも入信していない。


 目の前にいる人たちが宗教の上の人たちなのはわかるけれどもただそれだけなのである。

 あくまで対等な個人。


 年長者や知り合って日の浅い関係であるという敬意は払うけどラストのように緊張する相手ではないと思っている。


「お座りください。


 是非とも楽に話しましょう」


 オルタンタスもリュードの態度を不快には思わない。

 むしろ堂々として良い青年だと思った。


 座って軽く自己紹介をする。

 職責はヒョルドの方が上だが今回はオルタンタスがメインで話を進めるようだ。


 しかしヒョルドの方もニコニコとしていていいおじいちゃんな感じである。

 ケーフィス教は全体的に雰囲気が明るくていい。


 ケーフィスって感じがする。


「あなたがダリルの言う天啓のお方ですね?


 お会いできて光栄です」


 自己紹介も済んで料理を頼みオルタンタスが改めて深く頭を下げ、ヒョルドとダリルも同様にリュードに礼をする。


「い、いえ、そんな……」

 丁寧すぎるぐらいの態度にリュードがあわてる。

 楽にと言うのに楽じゃないのはオルタンタスたちの方だ。


「今回気兼ねなくお話できますように多少無理を言ってこの店を押さえましたので。


 教会に呼び出すよりは重たくないと思いました」


「お気遣いに感謝します」


 リュードも丁寧に返す。

 対等であるのだ、相手が丁寧に接するならリュードも丁寧に接する。


「それでは早速ですが本題に入りましょう。


 ……本当にテレサさんを何とか治すことができるのでしょうか?」


 楽にとか気兼ねなくとか言うがどうしても緊張感のある空気になってしまう。


「このようにお聞きしますと疑ってしまっているように聞こえてしまうかもしれません。


 しかしこちらも手を尽くしてテレサさんを助けようとしているのですが何の手かがりもなく、改善の兆しもみられない。


 他の神を信仰する宗教も協力して方法を探しているのですが……」


 オルタンタスがゆっくりと首を横に振る。

 これといって成果はない。


 そもそもここまで重たくなったのも謎なのだ。

 降臨は強力な代わりに代償がつきまとう。


 しかしそれは命を奪うものではない。

 乱用までされなくとも過去に使われることは度々ある降臨魔法であるが代償も様々だ。


 長期的に神聖力が弱くなったり使えなくなったりすることもあれば体の倦怠感や筋肉痛のような痛みを伴ったりすることもある。

 過去の事例では一月ほど眠り続けた例もあったがそれもある時にパッと目を覚ました。


 重たいものもあったけれど過去の例ではどれも症状は快方に向かっていった傾向にある。

 しかしテレサの場合は逆である。


 段々と代償が重くなっている。

 寝る時間が伸び、起きる時間が短くなっている。


 このままでは永遠に眠ってしまうのではないかと思えるほどにだ。

 こうした代償の症状は過去の記録にもない。


 ある程度までいけば治るだろうという意見もあるがテレサの姿を見た人たちはそう楽観視はできなかった。

 神聖力でも治療はできず何も分からない八方塞がり。


 ただ様子を見ることしかできないと困り果てていたらダリルに神託が下った。

 ダリルがウソをつく男ではないので神託が下ったというなら本当だろうがリュードが本当に神託で言われた相手なのか疑いは残る。


「大丈夫です。


 それに言っておきますが俺にはテレサさんは治せません」


「なんと……」


 もちろんリュードにテレサを治す術など持ち合わせているはずがない。

 リュードの作るポーションで治せるなら話は別だがリュードのポーションにもそんな力はない。


「ただ治すための方法、治すために必要なものはわかります」


「それは本当か!」


「ダリル、落ち着きなさい!」


「むう……すまない」


 大きな声を出して立ち上がるダリル。

 ルフォンがあまりの声の大きさにミミを押さえる。


 リュードもちょっと耳がキーンとしてる。


「コホン……それで必要なものとは?」


「テレサさんを治すために必要なものは神物です」


「し、神物だって……?」


 オルタンタスとダリルが顔を見合わせた。

 困ったような複雑な顔をしている。


 ダリルは少し絶望したような、そんな表情を浮かべている。


「神物……なるほど、そうか」


「分からない話ではない。


 しかしそれでは治せないと言っているのと変わりがない」


 ヒョルドが渋い顔をして長いため息をついた。


「すまないね……表立っては知られていないことですが我々はケーフィス様の神物を持っていないんです。


 手の内から失われて久しく、その行方はわかっていないんです。


 数百年前の真魔大戦の時に失われて以来探しているのですが今や神物を見つけることは我々の悲願ともなっています」


「神物が必要ではテレサは……」


 ドヨンとした重たい雰囲気に包まれる。

 ちょうどその時にスープが運ばれてきた。


 非常に持ってきにくそうだったけどためらっているとスープが冷めてしまうので勇気を出した店員さん。


「まあお食べになってください。


 神物が必要だと分かっただけでも前進だ」


「ただ、まだお話は終わってませんよ?」

 

「なに?」


「神物の在り処もわかっています……大体の場所ですけどね」


「な、なんと、それは本当か!」


 ヒョルドが口に運びかけていたスプーンを落とした。


「おおよその場所……詳細は調べてみないと分かりませんけど」


「もちろんそれで構わない!


 ああ、神よ!


 私の世代で神物を取り戻す機会を得られるとは!」


 3人が目をぎらつかせてリュードに詰め寄る。

 長らく失われていた神物を取り戻すことはケーフィス教にとっての悲願である。


 大まかな場所を知れるだけでも大発見なことであった。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます!


もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、

ブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


評価ポイントをいただけるととても喜びます。


頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張りたいと思います。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] そう言えば凄い前に回収して欲しいって頼まれてたね。 聖者がどうとかダンジョンが出来てるからとか。
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