冒険者にお任せあれ5
「第3下がって第10と交代!
そこ、気をつけろ!」
「悪い、助かった!」
一方でリュードは忙しかった。
なぜならドワーフの指揮を任されていたからである。
リザーセツに従う気があまりない以上リュードがドワーフの指揮を取ることが適切。
周りの状況を広く捉えて上手くミスリルリザードを分断してドワーフに負担になりすぎないように指示を飛ばしていた。
目まぐるしく状況が変わっていくので頭がパンクしそうになりながらもリュードはドワーフのフォローをするために戦いもしていた。
あまりにも混戦で雷属性の魔法は使えなかった。
電気の性質も持っているのでリュードに余裕がなく、敵味方入り混じっている状況下では他の人にも電撃が伝わってしまう可能性があった。
もうちょっと余裕があればこれまでの鍛錬や加護のおかげでコントロールできるけどなんせ忙しすぎる。
戦っていて分かったのは意外と蹴りが有効なこと。
四足で地面に這いつくばっているミスリルリザードの腹部はそんなに硬くなかった。
なので蹴り上げるようにして腹部を狙うとダメージを与えられた。
そこで慣れてきたドワーフにも少し変わった指示を出してみた。
これまでは盾を使っての体当たりでミスリルリザードの気をひいてもらっていたけれど盾を斜めに傾けてミスリルリザードの下に入れてひっくり返してもらえないか試してみた。
「いいぞ!」
予想外の攻撃にミスリルリザードがゴロリと転がり腹を見せる。
そこにリュードが剣を突き立てると背中よりもはるかに容易く剣がミスリルリザードの体を切り裂いた。
ミスリルリザードの数が減れば減るほどリュードも楽になる。
ドワーフの方にも油断や隙、疲れが生じて攻撃を受けるものが出てきているが致命傷なものはいない。
このまま減らしていけば思ったよりも早く片付くかもしれない。
「リュードォ!」
鼓膜が破れそうなほどの大声。
そして隕石でも降ってきたのかと思った。
地面が陥没して逆くの字に曲がったミスリルリザードの体。
やったのはダリルだった。
ドワーフの壁を飛び越えてミスリルリザードにメイスを思い切り振り下ろした。
単純な力押しなやり方だが硬くても潰れるものは潰れる。
斬撃よりももしかしたら打撃の方が有効だったかもしれない。
「あっ、あの方は……」
後方でケガをしたドワーフの治療に当たっていたユリディカがダリルを見て驚きに目を見開く。
「ワハハッ、遅れてすまないな。
私も参戦しよう!」
「助かるよ!」
硬いミスリルリザードが逆に折れ曲がって死ぬほどの力なんてリュードには想像できない。
ともあれ心強い味方が来てくれた。
少しずつ確実にミスリルリザードを倒していく。
減っただけ楽になり、疲れはしたが戦いの経験は蓄積されて戦いやすくなる。
ミスリルリザードが敵わないと判断して逃げ出そうにももう遅かった。
盾を持ったドワーフに囲まれて突破することもできずに他のミスリルリザードがやられて誰かが来るのを待つのみとなった。
倒した数をリュードはしっかりと把握していた。
「ふんっ!」
27体目のミスリルリザードがダリルに殴り飛ばされて宙を舞う。
その先にいたのはリュード。
「リューちゃん!」
「リュードやっちゃえ!」
「あとは任せた!」
「最後なら、いいよな?」
リュードが剣に魔力をまとわせる。
終わりならと全力で剣に魔力を込めて、雷属性に変化させる。
真横に走る雷の閃光。
ミスリルリザードは真っ二つになって地面に落ちた。
「……終わりだ!
俺たちの勝利だ!」
リュードが勝鬨を上げるとドワーフたちが盾を放り投げて同じく喜びの声を上げる。
魔物に対して負け続けだったドワーフにとっての初めての勝利。
結果死者はおらず、ミスリルリザードという貴重な魔物を大量にゲットすることもできた。
喜びもひとしおである。
「だぁ……疲れた……」
まだやることはある。
周辺の警戒、調査やミスリルリザードの処理など気は抜けない。
けれど頭を回しながら戦うことがこれほど疲れるものかとリュードは思った。
「お疲れ様」
「みんなもお疲れ様」
「素晴らしい戦いだったぞ!」
「お褒めに預かり光栄です」
「ほら、功労者を労ってやろう」
ダリルがリュードの肩に手を置いて神聖力を流し込む。
ぽわっと淡い光がリュードを包み込んで体の疲労が楽になっていく。
頭が感じる疲労はまだ残っているけれどかなり体が軽くなった。
「ありがとう、ダリル」
「あれだけのことをしていたのだ、これぐらいは当然だ」
神聖力を持つ聖職者は神聖力による強化支援や回復が出来る。
ユリディカは今回回復の方に専念していてくれていたけれど疾風の剣のメンバーを強化しながら戦うのが本来のスタイル。
リュードもいつかこうした神聖力を持つ仲間がいれば戦いの支援も戦闘中の回復も楽になるなと思った。
リザーセツの指示をリュードが代わってドワーフに指示して戦後処理をした。
ミスリルリザードをドワガルに運んで地面に血がついているので一度焼き払う。
少量ならともかく大量の血ではそのままにすると他の魔物が寄ってきてしまうからだ。
一通りの処理を終えたリュードたちは寝た。
やっぱり疲れていたら寝るのがいい。
次の日ミスリルリザードの配分について話し合われた。
鉱山にいた魔物だけど鉱山で倒したのではないから全ての権利が冒険者にあるのではない。
参加したドワーフ側にも権利があって、盾を持って戦ってくれた貢献度は高い。
なのでドワーフで半分、リュードたちで半分。
疾風の剣とリュードたちでさらに半分となった。
ドワーフ13、疾風の剣7、リュードたち7である。
ドワーフたちは勝利とミスリルリザードが手に入ったことに喜んでいるけどリュードを始めとして冒険者たちの顔は明るくなかった。
鉱山に一度棲みついたはずのミスリルリザードが移動することが起きている。
予測していなかった事態。
ミスリルリザードがいた鉱山は今空なのか、それとも何か別のものがいるのか。
まだ異常な事態が怒ることも想定して警戒を怠らず見回りを増やした。
不安に思っていたが鉱山に向かっていた冒険者たちが帰ってきた。
ミスリルリザードの鉱山とは違うところに行ったので不測の事態が起こってはいないだろうと思っていたけれどやはり心配はあった。
ただ冒険者たちも鉱山を奪還して帰ってきたのではなかった。
向かった鉱山は広く、中にいた魔物も多かった。
最後まで倒し切ることも出来なくはないけれど無理はせずに一度戻って万全の備えをすることにしたのだ。
戻ってきた冒険者にミスリルリザードの話をするとひどく驚いていた。
ドワーフと協力したとはいえこの人数でミスリルリザードを討伐し切ったのはにわかには信じ難い話だった。
1つ状況に変化があった。
どうするのか話し合って、今攻略している鉱山は奪還しきってしまい、ミスリルリザードの方の鉱山は改めて調査を行うことにした。
ドワーフもちゃんと指揮を取れば戦えることがわかったのでドワガルはリュードとドワーフに任せて防衛第一で動くことになった。
冒険者たちは疾風の剣も加わり偵察などを得意とするパーティーがミスリルリザードの鉱山の調査に向かって、残りで鉱山を取り戻してしまうことにした。
ちなみにダリルは単独だけどリュード組と見られていて、ついでにミスリルリザードもいらないと断っていた。
ミスリルリザードが来てダリルも到着したのではなく、前回入れてもらえなかった反省を踏まえてさっさとドワガル前のキャンプで待機していたらしい。
ちゃんと言ってあったので入れたのに、ちょっとした行き違いが生じてしまっていた。
そんなで出発した冒険者たち。
そして祝杯の酒を片手にリュードに迫るドワーフたち。
鉱山の攻略に連れて行ってほしいと思わずにはいられないリュードだった。
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