静かな森の不穏な気配1
「未来の超有名冒険者ラストの始まりの1ページ!」
やる気満々のラスト。
ラストに仕えていたヴィッツはラストに仕えるはるか昔に世界を旅して回っていた。
当然冒険者としても活動していて、よくラストにその時のお話や聞いた話をしてくれた。
ヴィッツ自身の話はなんの変哲もない普通のお話であった。
きっと話すにあたって多少は盛って大袈裟に話していた部分もあっただろう。
そのようなお話でも母が亡くなり、周りに牽制され始めてなかなか外に出られなくなったラストにとっては目を輝かせて聞く少ない楽しみの一つであった。
自身の話だけでなく世の中にある英雄譚のような冒険者の活躍の話もしてもらった。
楽しい話ばかりではなく、大変な話や辛い話も聞いたけどみんなそれを乗り越えていっていた。
だからラストも諦めずに乗り越え、努力しようという心意気が育った。
いつしか自由であり自分らしく生きる冒険者に憧れを抱いていた。
今、ラストは冒険者になった。
信頼でき、何事でも乗り越えられる仲間と一緒に。
「うりゃあ!」
ラストは弓矢でなく剣を手に持ち、1番前に出て戦う。
醜悪な犬の顔をした二足歩行をした魔物、コボルトをズバッと切り裂いてみせる。
「周りにもちゃんと気を配るんだ!」
リュードが後ろから魔法でラストを支援する。
手のひら大の水の玉がラストの後ろに迫るコボルトの腹部に直撃して木に叩きつけられる。
ルフォンがその隙にさっくりとコボルトにトドメを刺す。
ラストは自由の身なのでムチにこだわる必要はない。
むしろ剣に強い憧れがあったのでこうして剣も使えるようになりたいと熱望した。
ラストはリュードに弟子入りを懇願して、リュードもまだ弟子を取るような域でないと困惑しながらもそれを受け入れた。
低ランクの依頼は練習にちょうどいい。
ラストにはメインを張ってもらい、みんなでフォローする様に戦っていた。
弓矢を使っていた時よりも前に出る分視野が広く保てず、今もコボルトに後ろを取られかけた。
ムチもそれなりに距離を取れる武器なので実戦における勝手の違いに慣れるのはまだもうちょっと時間が必要だろう。
ついでにリュードも魔法の練習をする。
雷属性を極めたとは言い難いが魔法は使えば使うほど魔力の量やそのコントロールなどが上手くなっていく。
体は衰えるが魔力は使えば一生伸ばせる。
さらに雷属性だけではどうしようもない時や相性的な問題だってこの先出てくることだろう。
雷属性が電気という性質を持つために細かい魔力コントロールや出して置きっぱしにするような練習をあまり得意としないという側面も他の属性を練習する理由であった。
今やっているのは水属性の魔法。
メイン属性が雷属性なので水との相性は悪くない。
それに電撃に物理的な能力を加えることは難しいが水なら物理的な攻撃もできる。
世の中のトレンドとしては火なのだろうがこちらも電撃と同じく物理的な能力を持たない属性なので、焚き火に灯せるぐらいの火が扱えればいいか思っていた。
そんな練習中な魔法だけどだいぶ様になってきて、ルフォンとデルデも上手くやってくれてコボルトの討伐は成功した。
「いい感じだな」
「ふっ……才能しかない自分が恐ろしいわ……うえっ」
コボルト討伐の証としてミミを切り取る。
ここは1番初心者となるラストがやるのだけど戦闘中でもなく改めて冷静にミミを切るとなるとちょっと気分は良くないのだ。
けれど冒険者として大事なことだから慣れてもらわねばならない。
偉そうな言葉を言うラストだけど実際のところ動きはかなり良い。
まだ経験不足で弓矢を使っている時のクセが抜けていないけれど十分実戦でも戦えるレベル、少なくともアイアンクラスではない。
「どれもこれも先生の教え方がいいからだな」
「そのとーりでございます、せんせー」
ついでに良い機会だしなんとなくでやっていた冒険者のイロハもラストに叩き込む。
最初に会った時にはテントの張り方すら分からなかったラストもいつの間にか小慣れたもので外での生活も問題なくなっていたけれど細かいところはリュードたちがやっていた。
みるみると吸収していくラストの才能やセンスは非常に良かった。
リュードも教える側として言葉や実際にやってみて示したりと工夫して教えるようにしてまずまずの先生をやっていた。
剣の方も真面目でリュードの教えを実直に守って日々成長している。
ラストに教えているのは竜人族の力押しな剣ではなく、師匠であるウォーケックに習っていた柔らかく素早い剣になる。
ラストが扱うなら力重視なものよりもそっちの方がいいと思ったのだ。
「ふーむ、しかしそうした戦い方をするならもう少し剣は細身の軽いものがええかもしれんな」
ラストの戦い方を見ていたデルデがアドバイスをしてくれた。
自分が戦うことは得意でなくとも武器を作るためには他人がどう戦うのがいいのか分かっていなければならない。
その人に合った武器を作るために他者を見る目は誰にも負けないのだ。
ラストが今使ってるのはごく一般的な剣。
旅に出る時にラストが自ら買ったものでこれもやや軽い方に入るがなんの特徴もない初心者用の剣である。
ただデルデから見るともっと質の良い軽い剣の方がいいのではないかと思っていた。
それほど剣に振り回されているのではないけれどもっと小回りが効いて軽くて取り回しのしやすいものがラストには合っている。
「なるほど……まあ、これは練習用にって買ったものだからね……」
「まあまだ発展途上でお前さんの剣も変わっていくかもしれないから一概には言えんがな」
せっかくドワガルにいたのだ、こんなことならドワガルで剣の一本でも買っておけばよかった。
アドバイスを受けたのは今だし、ドワガルにいる時は弓を作ってもらったので今更な話だけど。
「別に今でも悪かない。
ただそうした方がもっと良いかもしれないという話だ」
「デルデさーん……」
「いやだ」
「まだ何も言ってないでしょーが!」
「どうせ剣を作って欲しいとか言うのだろう?
ワシに剣を打って欲しいならもっと腕を上げることだな!
……リュードが欲しいというなら作ってやらんこともないがな」
「えー……ひーきだぁ。
私だって才能はあるでしょ?」
なかなか高飛車な発言であるがラストに才能があるかないかで言ったらかなり才能がある方だ。
そこはリュードもデルデも認めるところだ。
「ふん、上等な才能はあるな。
しかし天才かまでは分からんし、才能があってもそれを伸ばせない奴らも大勢いる。
こう……ワシに電撃でも走るような印象がなければハンマーは振るわん」
「リュード、電撃やっちゃって!」
「なんでだよ!」
「年寄りを殺す気か!」
電撃でも走るようなと言う比喩表現に本当に電撃を流そうとしてどうする。
「才能で言えば弓の方が上かもしれなんな。
剣も上等だから悪くはないが使ってきた歴史もあるだろうな。
ただワシは弓は専門外だがな。
矢尻なら作ってやれんこともないが」
「まあ……それなら」
笑うデルデ。
弓の方が本職なのはラストも理解している。
弓の方なら武器を作ってもよいと言われてラストも悪い気はしない。
剣の方だって才能なしではないのだから、今からでも努力を続ければデルデの方から剣を作らせてくださいと言わせることだって出来るはずだとラストは思った。
全てにおいて傑出した才能の持ち主であることなどあり得ないのだからある程度はしょうがない。
「……ラスト」
「なーに?」
「ほれ、こんなのはどうだ?」
リュードは不意に取り出した剣をラストに差し出した。
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