最後の力比べ4
抽出作業で細かい世話が必要だから残念ながら量産されはしなかったけどね。
これぐらいの苦味なら他の物を使って苦味を誤魔化せるのも良いけど、リュードは苦味がある方がお茶っぽくて好きなのでそのまま飲んでいる。
体の治癒は怪我も少ないので上級ポーションでなくても事足りる。
今度は別の水筒を取り出してゴクゴクと飲む。
これはポーションではない。
水と塩とキラービーという魔物のハチミツ、レモンのような果汁を混ぜた、いわば経口補水液のようなものである。
キラービーハチミツは滋養強壮効果があり体力回復効果が見込める。
今は少しでも体力を回復させておきたい。
その間も力比べは進んでいく。
村長は打倒候補の1人、竜人族の青年と戦った。
リュードとウォーケックの戦いに影響を受けたのか戦いは激しくなっていて、打倒候補の1人も村長相手に激しく攻め立てはしたが届かなかった。
それぞれみんなが自分の力を示すように苛烈な戦いを繰り広げる。
トーナメント方式になり運がよくリュードは村長とは別の山になった。
残りの打倒候補2人もなんと村長と同じ山に名前が書かれた。
打倒候補ではないとはいえ油断はできないが特に強敵に当たることなくリュードは勝ち進んだ。
反対側も波乱は起こらず決勝、残りの対戦相手は1人というところまできた。
当然残りの相手は村長。
「よくここまで来たな」
新たな挑戦者の出現に村長も珍しく嬉しそうな表情をしている。
決勝まで来れたのは村長が他の打倒候補を全部潰してくれたのが大きい。
他が弱いわけではないけど打倒候補達に比べたらはるかにやりやすい相手達だった。
打倒候補達を倒してきたにしてはあまり疲れているようには見えない村長。
打倒候補たちと激しくやりあったはずなのに。
元々表情が乏しい人だから顔では体の状態がどうなのか判断がつかない。
「最近はここまでくるのが同じ顔ぶれでな、退屈していたのよ」
不敵に笑う村長は明らかに気分が高揚していて戦いが待ちきれない様子である。
「是非胸を借りるつもりでいかせてもらいますよ」
「胸を借りるとは不思議な表現だな。これまで見たシューナリュードの実力に油断ならないことも分かっている。胸を借りるどころか倒してもらいたいものだ」
この世界に胸を借りるという表現はないのだが気分が高まって思わず口に出てしまった。
かくいうリュードも早く村長と剣を合わせてみたいと思っている。
「始め!」
もしかしたら号令よりも少し早かったかも。
リュードは一気に村長に駆け寄ると思いっきり剣を振り下ろした。
避けずにしっかりと剣で受けてくれることはもはや当然のように分かっていて、押し切れないことも分かりきっていた。
剣と剣がぶつかって火花が散り、村長の額すんでのところまでで剣は止められてしまった。
思いの外押し込めたけれど無傷であることに変わりはない。
「では行くぞ!」
背中がゾワっとする殺気。力任せにリュードを押し返す。
バランスを崩さないように自分からも後ろに飛びのいて力を逃す。
多少距離が空いた。今一度仕切り直しだと思った瞬間だった。
その巨体からは考えられない速さで村長が目の前に現れた。
大きな村長がさらに巨大化したと錯覚させられ、刃もすでに眼前に迫っている。
リュードは村長とは違って流石に真正面から受けるマネはするわけにはいかず、普段通り重たい一撃を受け流すことに集中する。
パワーはこの村の誰よりも強い。
上手く受け流したのに受け流した手がビリビリと痺れる。
なのに回転も早く一撃必殺の攻撃が次々と飛んでくる。
片手剣なので双剣だったウォーケックの攻撃よりは遅い。
それでも速さは十分であって代わりにパワーがあってウォーケックの時のような速さ重視なやり方ではなくしっかりと一撃一撃防いでいかないと非常に危険。
距離を取ろうにも隙がなく、また一歩の大きさも違うのであっという間に詰められてしまう。
今のところ防御に大きな問題はないけれどしっかりと防御する分反撃は出が遅くあまり威力が乗らず村長も容易く受けてしまう。
一定以上の実力者になると魔法も魔人化も無しではなかなか決め手に欠けこう着状態に陥ってしまう。
ウォーケックに対して接近戦、拳で攻撃することはやってしまっているから通用しないだろうし、そもそもウォーケック相手に通じても村長なら顔面殴ってもそのまま斬り返してきそうで試すのも躊躇われる。
体力的にはまだまだ余裕がある。
あっちは打倒候補達を相手にして体力は削られているはずだと持久戦も覚悟する。
顔を見る限り疲労は一切見えないけど。
「ふぐっ!」
油断したつもりはなかった。
長い足から繰り出される、それだけで人が1人殺せてしまいそうな強力な蹴り。
剣を差し込み飛び退くことで威力とダメージをかなり軽減したけど自分の体が軽い物でもあるかのように宙を舞う。
まさかこんな手を使ってくるなんて!
見た限り今まで1度たりとも村長が肉弾戦なんてやったことはない。
一瞬、ほんの一瞬村長が笑って見えたのは気のせいではなくリュードがウォーケックにしてみせた顔面パンチの肉弾戦に対して自分もやれるのだぞというイタズラ心みたいなもの。
リュードが殴ってやろうかなんて考えたのが分かったのかもしれない。
宙を舞う刹那の時間の中、どうするべきか次の手を思案する。
どう着地するか、それよりも早く村長の攻撃がくるかもしれない。
不完全な体勢ではちゃんと受け流すことも出来ず、出来たところで二の手三の手にも対応が出来ない。
戦いは微妙な均衡の上に保たれていてダメージを受ければ簡単に均衡は崩れ去る。
それどころか1発KOもあり得るのだ。
回避も出来ないーーならば。
空中で勢いをつけてグッと一回転。
村長が想定している着地点から少し離れたところに向かい、その修正に数瞬かかり着地の方が先になる。
ただ体勢を整えて対峙する時間はもちろん無くて村長はしっかりとリュードの移動を踏まえて剣を振るっている。
リュードはあえて村長の剣を真正面から剣の腹で受け止める。
着地直後にほんのわずかに飛び上がった状態で。
本当に地面から足が離れるぐらいだったので村長も周りで見ているみんなもリュードが村長の重たい一撃でぶっ飛んでいったと見えただろう。
間違ってはないのだけどそれがリュードの狙いだ。
村長も確実に捉えたはずなのに軽い手応えに困惑した。
特別力を込めたわけでないのに勢いよくリュードが吹っ飛んでいった。
あえて村長の力を利用して飛ばされることで一度距離をとった。
リュードは自分で狙った通りの動きのため簡単に着地してサッと体勢を整えることが出来て、その上村長との距離も空けられた。
今度はリュードの番だ。
リュードも体勢を整えられたけど村長も当然に一呼吸置けたので仕切り直しとなる。
始まった時と同じくリュードは村長に向かってまっすぐ駆け出す。
後2歩というところで左にズレて回り、村長の側面から剣を振り下ろすが単純な変化では村長を惑わすこともかなわず普通に防がれてしまう。
当てただけの攻撃で視界を上に向けて剣で遮ることを目的としただけなのだから予想外でもなんでもない。
剣を振り下ろす時にはもうリュードは次の行動を始めていた。
(消えた……!)
村長の目にはリュードが消えたように映っていた、いや映っていなかったというべきか。
左右に移動した様子はない、上も剣を防ぐために見ていたのだから違う。
村長の頭にはリュードがスライディングで詰めたり後ろに回ろ込んでいた戦い方が浮かんだ。
体勢でも低くして後ろに回り込んだに違いない。
経験から一瞬で判断を下した村長は振り向きざまに横なぎに剣を振ったが振り向いた先にもリュードは見えず剣にも手応えはなかった。
「ぬうっ!」
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