始まる悪魔の大会3
明確な支配者はいないが時の支配者層は存在する。
無法地帯に近い町にも関わらず歩いている人に女性がそれなりに見受けられる。
これは今マヤノブッカにおける実質的な支配者はトゥジュームであるからである。
何かのきっかけで容易に支配者が変わりうるので今現在はトゥジュームであるぐらいの意味しかないが。
各国の法や統制の及ばない都市。
奴隷を使ってイベントを開くにはうってつけの場所だ。
「あれは……」
窓から見える巨大な建築物にリュードは目を奪われた。
「あれはコロシアムですね」
「コロシアムだって?」
町の中心の方にある円形の建築物。
かなり大きくてどこかでみたことあるような形をしていると思ったがトーイが何なのか教えてくれた。
教科書かなんかで見たことがある古代の円形闘技場である。
「ここは昔交通の便の良さから宿場町や娯楽を提供する町として発展しました。
けれども今でもそうした側面はありますし、マヤノブッカで提供される娯楽に関しては特に表でできないようなものが主流らしいですけどね」
馬車が止まって下される。
そこは宿の前で、そこからもコロシアムのことが見えていた。
完全にマヤノブッカの中に入ってしまっている。
これまで町中でリュードたち奴隷を下すことはなかったのだがマヤノブッカで奴隷を咎める者などいないので、堂々と下ろしてもらえることができた。
窮屈だった馬車からようやく解放されて体をグーっと伸ばす。
これ以上進むと他国に入ってしまう。
他の国でトゥジュームの貴族が奴隷を使った大会をやるとは思えないのでここが目的地と見ていいだろう。
「昔は合法奴隷だとか剣闘士と呼ばれる戦う専門の人がいて、コロシアムで戦いを見せ物にしていたらしいです。
人々が熱狂し、大きなお金が動く場所だったみたいですが今はどうなんでしょうか……
見たところコロシアムは綺麗そうですし、例え都市が荒れても戦いを見せ物にすることは人気があってやれそうなので、今でもやっていそうですけど」
「なるほどね」
「喋ってないで早く来い!」
一々上から目線。
イラッとすることこの上ないがウロダによると奴隷の扱いとしてはまともで優しい方だと言う。
荒いのは言葉遣いだけで暴力的なことはない。
一々上から目線ではなく一々暴力なクズも奴隷を買う奴には珍しくない。
特に違法な奴隷なら酷い目にあわされることだって可能性としてないものでもないのだ。
合法奴隷なら合法な分保護された権利があるが違法奴隷にそれはない。
貧相でも飯を提供し、荒く怒鳴りつけるが殴りはしない。
良い扱いではないが、奴隷という身分で見ると悪くない扱いなのである。
「お待ちしておりました、レディコルソタス。
そちらの方々が今回の参加者でいらっしゃいますか?」
宿の前に変な仮面を付けた男性が立っていた。
うやうやしくウバに一礼するとその後ろにいるリュードたちにチラリと視線を向けた。
「そうよ」
「複数人の参加者がいらっしゃいますのでお一人、お気に入りの方をお選びください」
「……そうね。
あなたよ」
「……俺?」
「そう。
若いし体つきもがっしりしてるわ。
それに未だに反抗的な目をしている」
お気に入りとは思えない理由で選ばれたのはリュードだった。
奴隷たち1人1人に腕輪が付けられていく。
首輪の次は腕輪かと舌打ちしたい気分を我慢して腕を差し出す。
装飾品ばかり増やさないで是非とも服が欲しいものだと思う。
腕輪には数字が書いてあり、333がリュードの腕輪に刻まれていた。
その数字になんら意味もないものであるはずなのにゾロ目であることに何かの意味を感じてしまう。
腕輪にはいくつかの窪みがあって他の奴隷の腕輪には白い石が1つ窪みに嵌め込まれたがリュードの腕輪には赤い宝石が1つ嵌め込まれた。
「こちらがお気に入りの証となっております。
皆様腕輪や腕輪に嵌め込まれた石は無くさないようお気をつけください」
裸に赤い宝石の腕輪をしていれば嫌でも目立つ。
宝石だけでも外して捨てたいがこれから宝石が意味を持ってくる可能性があるのでそんなことはできない。
上半身裸に首輪、腕輪という前衛的スタイル。
馬車が宿になっただけで外出も許されないまま2日も監禁状態で時間を過ごした。
部屋な分多少広いので軽くトレーニングでもして時間を潰していると、また馬車に押し込まれて移動となった。
やっぱりかという思いがリュードにはあった。
今度は長距離の移動ではなくすぐに目的地に着いた。
馬車を下りると目の前には巨大なコロシアムがあった。
「これからはあなたたち自身の力で頑張ってください。
優勝すれば富と自由。
忘れないでください」
そっちもしたことを忘れるなよ、そう思いながらリュードたちはウバと分かれて、また変な仮面をつけた男に案内されてコロシアムの中に入っていく。
薄暗い通路を抜けてコロシアムの真ん中にある闘技場に入る。
中はすでに熱気に満ちていて、真ん中の四角いステージのような闘技場を囲む客席では多くの観客が歓声を上げている。
そして闘技場の上ではリュードたちも同じく首輪に腕輪、上半身裸の男たちが血で血を洗う争いを繰り広げている。
もう大会は始まっている。
闘技場の横では死体を荷馬車に投げ込み、血をモップでバケツに集めている。
すでに何戦か終えた後のようだ。
「うっ……!」
トーイが凄惨な光景と濃い血の匂いにやられて嘔吐する。
これからやられることの予想がついてリュードの気も重くなる。
後ろからは続々とリュードたち以外の奴隷も入ってくる。
ほとんどのものが闘技場の上で繰り広げられる光景に顔を青くしている。
大会の様子を見せつけるように少し置かれた後広めの部屋に連れて行かれた。
後からも来ていたが当然先にも来ている奴隷たちが部屋にはいた。
どちらかといえば細い方の人が多く、戦えそうな人の方が少なく見える。
リュードたちも入ってくると部屋はいっぱいになる。
なんだか部屋の湿度が高い気がする。
ある程度人が集まったからか仮面の係員が部屋に入ってきて奴隷たちは並ばされる。
三列ほどに並ばされた列の前を見ると箱の中に手を突っ込んでいるのが見えた。
あれがなんなのかうっすらと分かっていたが列はサラサラと進んでいき、リュードの番になる。
箱に手を入れて中のものを1つだけ引けと言われて、言われた通りにして列を外れる。
箱の中にあったのは紙だった。
列を外れて手に取った紙を確認する。
今行われているのは参加する奴隷たちを組分けするためのくじ引きである。
紙にはどの組みであるのか文字と絵が描かれている。
文字が読めないものもいる。
奴隷になるぐらいの人なら読めない人である確率も高くなるのでそのために絵でも組が分かりやすくなるようにしてある。
細やかな配慮に痛み入るばかりである。
リュードはフェアリー組。
可愛らしいフェアリーの絵が書いてある組になった。
「あっ、同じですね」
横からリュードのくじを覗き込んだトーイも同じものを持っていた。
他の人のを見てみるとゴブリンとかコボルトといったものが書いてある。
ちょっと可愛らしく書かれた絵のためか少し幼稚園の組分けみたいだ。
そして幸いなことにウロダを含めたウバの別の奴隷たちとは別の組になった。
そしてそのまま部屋で待機となる。
ゴブリン組の奴隷が呼ばれ、コボルト組の奴隷が呼ばれ、部屋の奴隷が減っていく。
いつ呼ばれるのか分からない緊張感に自然と鼓動も早くなる。
トーイはずっと青い顔をしたまま時々吐きそうにえづいていた。
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