始まる悪魔の大会2
「お前たちはどうして奴隷になったんだ?」
先ほど率先してウバに質問をしていた真人族の男。
同じ馬車に乗せられた男は早速口を開いた。
左目の上に小さな傷があり青色の髪を後ろで縛っている。
体つきも鍛えられていて、この国の男性っぽさがない。
「なに?」
「言いたかなけりゃいいんだけどよ。
俺はちょっと背伸びをしたら依頼に失敗しちまってさ。
魔物にやられて仲間もみんな失っちまった。
しかもよ、依頼主がきったねえ奴で、契約書の内容が失敗した時は一人一人に賠償金を請求するって小さーく書いてあって、生き残った俺1人に全員分請求しやがった。
それで借金を返せず奴隷行きさ」
この世界では奴隷という身分があるのだけど合法的な奴隷というものもある。
リュードやトーイのようないきなり人権を剥奪された奴隷だけでなく、借金や犯罪行為などによって奴隷身分にされる人が一定数いるのである。
主に借金で首が回らなくなった人が合法奴隷となるのだけど合法奴隷でも人権がないわけでなく、合法奴隷を非道な扱いをすると奴隷を管理している冒険者ギルドや商業ギルドから制裁を受けることになる。
「……俺たちは攫われて奴隷にさせられたんだ」
「はぁ?
今時そんなことする奴……いるんだろうな。
あんたらがそうだってんなら」
人を攫って奴隷にすることは違法としている国も多い。
それほど世界が綺麗でないことは冒険者であった者なら誰でも分かっているけれど、そんなことをしている人がまだいることに驚きが隠せない。
「そりゃ……なんて言ったらいいか分からないな。
自己紹介もまだだったな。
俺はウロダ。
大会が始まったら敵になるか味方になるかも分からないが今は同じ奴隷仲間だ、よろしく頼むよ」
「俺はシューナリュードだ、よろしく」
「ト、トーイと申します。
よろしくお願いします」
「しっかし人攫いで奴隷ねぇ……
例の大会があるからそんなことやってんのかね?」
「……なるほど、確かにそうかもしれないな」
ウロダのような合法奴隷がいるのに人攫いから違法な奴隷まで買う理由が腑に落ちる。
その大会のために奴隷が欲しかったのだと考えると理由が分からなくもない。
合法奴隷は大体の場合何かを失敗した人がなるものだから不安材料がある。
違法な奴隷はどんな人が保証はされないが優秀な人な可能性がある。
とりあえず色んな人を揃える意味で人攫いから奴隷を買ったのだろう。
そうまでして欲しい優勝賞品とはなんなのだろうか。
「今時綺麗な国の方が珍しいけどよ、こんなドロドロした国も珍しいよ」
特殊な価値観に加えて、黙認された男奴隷と男奴隷を競わせる貴族の遊びまである。
ウロダが世界の国々の内情に精通している人ではないけれどこんな国はそうそうあるものではないと断言してもよい。
他にも何人か乗せられているのでそれぞれ簡単な身の上話をしたり、自己紹介したりをする。
合法奴隷と違法奴隷が半々といった感じで残りの人はみな細い感じの人であった。
移動が続くがリュードたち奴隷は何もしない。
当然野営などの時間もあるわけだがそうした準備にも駆り出されることはない。
手伝おうとするとむしろ座っていろと怒られてしまう。
首輪にあるのが魔力を抑制し、魔法を使わせない効果があるだけなので身体能力や意識に制限をかけられはしない。
抵抗する意志を持てることはもちろん首輪ではそれを止めることができない。
作業に参加させて何か武器になるものを隠し持たれたり、魔力が使えなくてもいいからと逃げられでもしたら嫌なので何もさせないのだ。
一生魔力を使えなくてもいいからと覚悟できる人は多くないと思うが万が一の可能性も警戒はしておく。
リュードは首輪を触る。
何かの金属で出来た首輪は小さい鍵穴があるだけでなんの変哲もない。
指を突っ込んで内側を触るとザラザラとした感触がある。
少しデコボコとしていて、内側に魔力を抑制する効果を発揮する魔法を刻んであるようだ。
壊せないものでもなさそうだとリュードは思う。
少しばかり無茶すれば首輪を破壊して魔力を取り戻すことができそうではある。
問題となるのは逃げるべきタイミングの方である。
リュードの格好は未だに上半身裸。
金も武器もない。
戦いにおいては魔力が戻れば魔法が使えるので最悪武器がなくても構わないが上半身裸でお金がないとただのヤバいやつになってしまう。
この国で上半身裸の男がそこらをうろついていたら逮捕でもされてしまう。
他の国でもギリギリアウトになりかねない。
トゥジュームなら確実にアウトだ。
せめて体を隠せるものか服でも欲しい。
何というささやかな願いだろうか。
そしてもう1つは地理的な情報がないことが問題である。
ルフォンたちは今どうしているか。
多分探してくれていると思う。
ただ見つけることも楽なことではない。
とりあえず逃げたところでルフォンたちとは合流することも難しい。
今いる場所も分からなければこの国は通り過ぎていくぐらいのつもりだったので地形に関してはかなり記憶がおぼろげである。
どこに逃げるかも分からなければルフォンたちの居場所も分からない。
逃げられないのではなく、逃げた後の計画を立てられないから逃げない。
ルフォンたちのことを考えると寂しさや懐かしさを感じる。
ルフォンの作ってくれる温かい料理がまた食べたい。
奴隷に出されるのはウバとウバの連れた私兵が食べ終わった後の残りになる。
食事を出してもらえるだけありがたいのだけど具もないスープでは口寂しさも感じてしまう。
わびしく奴隷で身を寄せ合って食事を食べる。
奴隷は全部で5人。
本当は6人いたけれど筋肉奴隷がリタイアしたまま帰ってこなかったのでこのまま5人でいくのだろう。
合法奴隷である人は低ランクの冒険者だった人で、もう1人は人攫いに攫われた奴隷でどこかで使用人をしていた人らしい。
正直なところ動けそうな人はウロダぐらいだとリュードは思う。
奴隷で蜂起して兵士たちを制圧することはほとんど無理である。
奴隷がそんなことをすれば次はない。
筋肉奴隷がどうなったのか末路は知らないが自由放免とはいかない。
無理に行動を起こす時ではない。
何もしなくていいなら楽だし大人しく従っておく。
でも分かりやすく無遠慮に監視をされていては気が休まらないなとリュードはスープを一気に飲み干した。
何もしない、何もさせてもらえないまま、馬車に揺られること数日が経った。
何もすることがないので話題すらもなくなり無言でみな方々をただ見つめる。
「これは……よくないな」
古びた看板が窓から見えた。
マヤノブッカと書かれた看板に都市の名前が見えて、ため息混じりにつぶやいた。
この都市の名前はリュードも知っていた。
行きたいところを地図上でピックアップするのと同様に行きたくないところ、避けるべきところもピックアップをする。
マヤノブッカは行きたくないところ、あるいは避けるべきところとしてリュードはピックアップしていた。
どうしてマヤノブッカが避けるべきところであるのかというとマヤノブッカという都市は治安が最悪なのである。
マヤノブッカは緩衝地帯に存在する都市であった。
複数国の間に存在していて明確な支配者が存在せずにどの国にも属さない無法地帯となっている。
どの国からもアクセスがしやすく、攻めやすくて守りにくい地形でありながら便利な位置にあるために戦争のたびに支配者が変わった。
結局マヤノブッカはどの国でも簡単に手を出せてしまうために手を出せなくなってしまったのである。
最後まで読んでいただきましてありがとうございます!
もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、
ブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。
評価ポイントをいただけるととても喜びます。
頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張りたいと思います。
これからもどうぞよろしくお願いします。