不死の軍隊2
ダンジョンの管理については大領主や国が管轄しているものなのであるが魔物の対処などは冒険者の方が心得がある。
冒険者の方が衛兵よりも多いし指揮系統が2つあるのは望ましくないので冒険者ギルドが今回について主導することになった。
必要なことは状況の把握と適切な準備。
備蓄や武器の倉庫、町の武器屋などを回って何がどれほどあるのかを確かめて必要だと思われるところに運ぶ。
足の速い冒険者を選んでダンジョンの方に偵察に向かわせている間にギルト前では炊き出しが行われていた。
絶対にこんなこと口に出しちゃいけないのだけど月明かりの元大鍋で大量に作った汁物は意外と美味しく、乙なものであった。
そうしていると教会の方でも話がまとまったらしく大量の聖水が運ばれてきた。
あんなもの持っては逃げられない。
町が落ちれば作った聖水なんか無駄になってしまうのだから出し惜しみなんてしていられない。
冒険者の数は多いけれど状況は良くない。
ラストのためにダンジョンが封鎖されることが決まっていたので高ランクの冒険者はこの町にあまり残っていない。
スケルトンに手慣れている人は多いけれどみな中程度のランクの冒険者が多かった。
武器の手入れやなんかをして過ごしていると偵察に出た冒険者たちが戻ってきた。
顔は険しく、話の中身を聞かなくても良くないことが分かってしまう。
正確な数も把握できないほどのスケルトンの大群が町の方に迫ってきている。
アンデッド系の魔物で足も速くないスケルトンの歩みは遅くてまだ若干の余裕はある。
中にはスケルトンの上位種であるスケルトンメイジやスケルトンナイトもいて、その後ろにはダンジョンのボスであるデュラハンもいた。
デュラハンは大きな剣を持ち、黒い鎧できたような馬に乗っていた。
黒いオーラにも見える魔力をまとい、通常のデュラハンよりも強そうであった。
さらに悪いことにはスケルトンたちはダンジョン産であり、武器を持っている個体も多い。
危険度は想像をはるかに超えることが報告された。
進行の速度から見てスケルトンが到着するのは夜が明けた頃だと思われる。
「……ラストのせいじゃない」
こうなったのは大人の試練のせいだ。
大人の試練として使うためにダンジョンが閉鎖されたのでダンジョンブレイクが起きた。
閉鎖したために町に滞在している冒険者も少なく最悪の状況。
ラストの顔を見れば何を考えているのかリュードには分かった。
勝手に責任を感じて暗い顔をしているラストの肩に手を置く。
これはラストのせいではない。
管理していることの意味はこういった事態を起こさないようにするためである。
仮に封鎖しているとしても適宜中の魔物を狩ったりしてダンジョンの維持は行う。
それに全く放置していたとしてもダンジョンブレイクなんて簡単に起こるものではない。
町の様子を見るにそんなに長いこと封鎖していたものではないようだし、大人の試練で短期間放置したからダンジョンブレイクが起きたと考えるのは無理がある。
何かダンジョンブレイクを短期間で引き起こした原因がある。
リュードはそう考えていた。
ダンジョンに何かをしようとした。
あるいは何かをしていた。
まさかラスト憎さに自分の領地でベギーオがダンジョンブレイクを起こさせることも考えにくい。
ダンジョンに手を加えようとして失敗したのではないか。
ダンジョンは人がそう簡単にコントロールできるものではないから。
報告を受けてジグーズは考えた。
防衛し切るのは難しいかもしれない。
外はまだ暗いけれど手遅れになる前に町の人を避難させる。
戦力は減るけどいくらか冒険者を道中に置いて町の人を警護させて近くの町まで引かせることを決断した。
準備をしていた町の人たちはそれほどパニックにもならなかった。
冷静にではなかったけれど大きな問題もなく持てる荷物を持ってスケルトンたちが迫る方とは逆の門から続々と出ていった。
ただ避難できない人や避難をしないと残る人もいる。
町を捨てて逃げるわけにもいかないし、みんながしっかりと逃げるまでの時間を稼ぐ必要がある。
冒険者や衛兵たちは覚悟を決めた。
見込みは少なくとも様々なもののためにチッパに籠城することを。
空が明るんできた頃、真っ白の軍隊が見え始めた。
同じくその頃ようやく最後の町を離れる人が門から出発して、チッパの町の門は固く閉ざされた。
死者の軍隊。
リッチでもいなければ統率なんて取られてはいないだろうが向かう方向は同じなので軍隊と呼んでも変わりはない。
一体一体大したことのないスケルトンでも地面が白く見えるほどに集まってみせるとバカにできない。
見えるスケルトンの中にデュラハンはいない。
相当後方にいるのか、まだダンジョン付近にでも留まっているのか。
対してチッパの防衛力は高くない。
城壁に囲まれて一見して防御力が高そうな町に見えるのだけれど城壁があるだけである。
かつてはダンジョンが近くにあるからとしっかりと城壁を管理維持していたのだが過去に一度もダンジョンブレイクなんて起きたことはなくお飾りの城壁になってしまった。
その役割を果たしたことのない城壁は劣化が進んでおり、見た目ほどの耐久性はない。
また、そうした城壁を生かせるだけの備蓄もチッパにはなかった。
ただ耐え抜くだけではとてもチッパの町は長くはなさそうである。
先頭を歩くスケルトンが生ける人の存在に気がついた。
偵察にも出てくれた足に自信のある獣人族の冒険者の男性だった。
1人チッパの城壁の外でスケルトンの大群の前に立ちはだかっていた。
英雄気取りでも何でもない。
1体、また1体とスケルトンが男に向かって走り出す。
男は剣を抜いて詰めてきたスケルトンを2体ほど切り倒すとすぐさま体を反転させて走り出す。
人の全力疾走に比べれば遅いスケルトンだけれど一斉に走り出す光景には圧力を感じる。
真っ直ぐチッパの方に向かうのではなく、かつ全力疾走でもなく男は斜めに走る。
不自然な軌道を描いた男は一度立ち止まる。
男の方に真っ直ぐに向かってきていたスケルトンたちは男に手が届きそうなところまできた瞬間落ちた。
土魔法で作った即席の落とし穴。
底には使わない槍を立ててあり、落ちたスケルトンが槍にぶつかり砕ける。
続々と後ろからくる他のスケルトンに押されて穴に面白いようにスケルトンが落ちていく。
男はスケルトンたちを落とし穴に誘導していたのだ。
今度は逆の方に男が斜めに走り出す。
「行こう」
城壁の上からその様子を見ていたリュード。
用意した落とし穴は3つ。
あれなら3つ全てで成功するだろう。
リュードがいるべき場所は城壁の上ではない。
魔法も使えるのでいてもいいのだけどもっとやるべきことがある。
リュードの予想通り落とし穴は3つとも成功した。
スケルトンが落ち、槍で砕けていき、またさらにスケルトンが落ちてその衝撃で下のスケルトンは砕けていく。
穴に詰まったスケルトンはスケルトンに踏みつけられて砕けてしまう。
だいぶ数が落ちたのだけれども、スケルトンの大群は減っているようには見えなかった。
落とし穴にスケルトンを誘導した男は城壁から下ろしたロープに掴まる。
上の人たちが一気に引き上げて男を回収して、本格的に籠城戦が始まった。
「放て!」
城壁の上から弓矢や火の魔法が放たれる。
一面を覆い尽くすスケルトン。
特に狙いを定めなくても面白いように攻撃が当たる。
より接近されたら今度は上から岩を落とす。
落とし穴を作るのに掘った土も魔法で固めてあるので上から投げ落とす。
スケルトンの頭が砕けて動かなくなり、後ろから来た他のスケルトンに踏み潰されていく。
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