毒草を探せ1
イェミェンを取りに行くけどそれをプジャンに悟られてはいけない。
目的を隠しながらそこに行く正当な理由が必要である。
けれど今回運はラストに味方をしていた。
イェミェンの群生地があるところはラストの大人の試練であるダンジョンから近かった。
ダンジョンを攻略できないなんてこともいけないので下調べはしたけれどダンジョンそのものの難易度は高くなかった。
ラストにぶつける難しいダンジョンがなかったのか、もしかしたらペラフィランでラストを亡き者にできると思って適当にやった可能性もある。
道中の妨害もなく順調そのものでダンジョンまで来ることができた。
「遅かったですね」
コルトンはすでにダンジョン前で待ち構えていた。
横にテントなどが設置してあるところを見るとかなり早めにきて待っていたのかもしれない。
下手すると数日待っていたこともありうる。
「お兄様にご挨拶申し上げる必要もありましたんで」
「ああ……まあ、そのようなこともありますね」
これに関してはコルトンが悪い。
時間も差し迫っているのでダンジョンにまっすぐ来ると勝手に思っていた。
今回はラストにも立場というものがあって、ただの大人の試練とは少し違うことを失念していた。
「それでは大人の試練に挑みますか?」
「はい、やります」
「……わかりました」
コルトンとしてもこんなところさっさとおさらばしてベッドで寝たい。
けれどついたばかりだし多少の休憩でもするだろうからその間に荷物をまとめておこうと思ったのに、まさか本当にすぐに入るとは予想外だった。
いつ大人の試練に挑むのかの判断はコルトンに裁量はない。
逆に挑戦を邪魔してはならず、荷物を片付けるので少し待ってくださいなんてことも言えない。
ラストが挑むというならコルトンは大人しくついていくしかないのである。
ラストとリュードがダンジョンの中に入っていき、コルトンは自分の剣とチェック表を持って後を追いかけた。
「それでは参りましょうか」
入ってから少し待つ。
3人が戻ってくる気配はなく、ルフォンたちも動き出した。
向かうのはダンジョンの裏にある山。
イェミェンを探しに行くのである。
イェミェンは鮮やかな赤紫をした葉っぱの植物で見た目だけなら分かりやすい。
ただどこに生えているかの情報はなく、手探り状態で歩き回って探さなければいけない。
「……やはりこちらにもきておりますな」
「そうだね」
プジャンの屋敷に立ち寄った後ぐらいからだろうか。
どことなく視線を感じるようになった。
人がいる町中では分かりにくかったけれどこうして町を出て外を歩いているとよく分かる。
監視がついている。
それもおそらく1人2人ではない。
複数人いて交代交代で昼も夜もなく監視を続けている。
監視するならラストの方だろうと思っていたけれどルフォンたちにもしっかりと監視の人員を割いてきた。
監視がなかったらもっとさっさと探すのだけどそうもいかない。
「片付けますか」
「そうだね、そうしよっか」
「物騒な提案をしましたのにサラリと受け入れてしまわれますね」
「私だって旅をしてるんだよ?
世界が綺麗なだけじゃないってちゃんと学んでいるんだ」
「結構なことですがどのような旅をなされてきたのか興味が出てきますね」
きっとラストに同様に監視を片付けようなんて言ったら複雑そうな顔をしてどうにか他の方法はないかなんて尋ねてくることだろう。
戦うことやなんかへの抵抗や心配があるからだ。
それなのに同年代のルフォンはヴィッツの言葉にニッコリと笑ってみせた。
これなら監視している方もなんの会話をしているのか分からない。
どうやって監視を倒そうか。
これが問題である。
町中ならもっと簡単に建物の角とか利用できるものもあるけれど木が少なめの山の中では中々奇襲するのも難しい。
どうにか相手の目を逸らしたい。
「あちらに見える木ではいかがでしょうか?」
「あれぐらいならいけるかな」
細い気が多い中でも太めの木。
2人はその木の後ろに回り込んで、出てこなかった。
「……おい、まさか!」
それほど太さがある木でもなく、通り過ぎるのも一瞬のはずなのに2人が木の後ろから出てこない。
まかれたのではないかと思って男たちは木の後ろを確認しに行ってしまった。
「くそっ、どこに行った!
探せ、まだそう遠くには……」
「誰をお探しかな?」
「な、どこに……」
声が聞こえて、振り返る間も無く男の胸から剣が飛び出してくる。
ヴィッツが後ろから心臓を1突きにしたのである。
「監視がバレていたのか!」
ルフォンとヴィッツに割り当てられた監視役は2人。
もうすでに1人がやられてしまった。
剣を手にかけた男は目の前のヴィッツのことしか頭になかった。
しかし剣を抜くこともできずに男は地面に激突して気を失った。
本人は何が起きたのかも分からなかった。
木の上に潜んでいたルフォンは飛び降りて重力の力も借りて鷲掴みにした男の頭をそのまま地面に打ちつけた。
姿こそ見せなくても監視がバレてしまうようなお粗末な監視役ではルフォンたちに敵うはずもなかった。
「あっ、私がやったのに」
「女性の手を煩わせるわけには参りません」
ヴィッツが地面に顔をめり込ませて気絶する男にとどめを刺した。
これでルフォンたちを監視するものはいなくなったので気兼ねなく動くことができる。
「外は危険ですから。
魔物に襲われてしまうこともあるでしょうね」
プジャンならルフォンたちが監視役を片づけた可能性には気づくこともあるだろう。
ただもう監視しているものはいないので何があったのかはルフォンたちしか知らずに闇の中。
外にいる以上は魔物に襲われることもあるので一概にルフォンたちがやったとも言えない。
一応の言い訳は立つ。
そもそも監視をつけていて、それがいなくなったのはお前らのせいだろと文句をつけることができたらする言い訳だけど。
文句を言ってくる可能性は限りなく無いに等しいけど万が一を考えて証拠も残さない。
ヴィッツは魔法で死体を燃やして身元も死因も分からなくさせておく。
「それでは本格的に探しましょう」
毒草でしかもあまり情報がないということはきっとそこらへんで簡単に生えているものでない。
ルフォンたちはとりあえず山の上の方に向かった。
色が独特なので視界に入れば分かる。
見える場所にあれば発見できるし、見えなかったら確認しにくそうな場所の目処をつけてそこから潰していこうと考えたのであった。
「うーん、見えないね」
赤紫色をしていればルフォンの視力なら簡単に見つけられる。
「若くて目がよろしいルフォン様でお見えにならないのなら私で見えるはずもありませんな」
山の上に来たけれど山もなだらかで思っていたよりも高くないので見渡せる範囲も広くない。
キョロキョロと周りを見てみたけどそれらしいものは見えなかった。
山は木が多くないのだが上から見てみると何箇所か木が密集しているようなところがある。
きっとあるならああいうところだ。
何となく木々が密集しているところを目に焼き付けて、順に巡っていくつもりでルフォンたちは移動を開始した。
目を皿のようにしてイェミェンを探しているけれど一向にそれらしい葉っぱはない。
やはり素人がそうした薬草や毒草を見つけることは難しいことなのかも。
それともイェミェンについての情報も少ないので事前に調べた赤紫という色に関する情報も正しいかもわからない。
実は色が違ったりする。
季節によって色が変わる葉もあるのだから今は赤紫ではないなんてこともあり得る。
そんなことを考えながら歩き回っていた。
最後まで読んでいただきましてありがとうございます!
もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、
ブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。
評価ポイントをいただけるととても喜びます。
頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張りたいと思います。
これからもどうぞよろしくお願いします。