相性よく、愛称がいい1
次の日からサキュルラストはすっかり大人しくなってしまった。
リュードに近づかなくなり、たまに目が合えばすぐに逸らされてしまう。
何か悪いことでもしたのだろうかと自分の行動を思い返してみる。
朝になってこうなっていたから思い返すほどの行動もない。
生まれた時からお仕えしているヴィッツにもその原因はわからない。
しかしリュードには思い当たる節はあった。
夜に起きた出来事といえば、サキュルディオーネに呼び出されたことがあった。
サキュルラストの祈りはちゃんとサキュルディオーネに届いていて、見守っていることがわかった。
それだけ熱心に祈っているのだから神託の1つぐらい下してもおかしくない。
何か言いやがったな?とリュードは思った。
サキュルラストの変化にみな戸惑いを覚えるけれど何があったか聞いても何も答えない。
最初は距離も取っていたサキュルラストだったけれど徐々に落ち着いてきて、まだ若干そうしたそぶりは残っていても前のように戻ってきた。
無理に聞き出すよりも時間が解決してくれるのを待った方が良いとサキュルラストのよそよそしい態度には誰も触れなくなった。
そうして旅を続けていると1つ目の大人の試練の場所に到着した。
1つ目の大人の試練はトロルのダンジョンであった。
サキュルラストの領地内にあって、管理は国が行っていて普段は冒険者に開放されているダンジョンである。
サキュルラストの領地内ということもありここで何かをしてくる可能性は低いとヴィッツは話していた。
ただし、もう何かされていると同時に言ってもいた。
このダンジョンに出てくる魔物は名前の通りトロル。
愚鈍で知能が高くない魔物であるが再生力が高く分厚い体で攻撃も通りにくい。
普通に切り付けただけではすぐに回復してしまって戦いが終わらない。
弱点を速攻で狙っていく必要があるのである。
初心者の冒険者が戦える相手ではない。
つまり簡単な方なダンジョンではなく、大人の試練として出してくるには高難度なものなのである。
もっと他にもあるだろうにトロルのダンジョンを大人の試練にしてくるのはおそらく誰かしらの恣意的な操作があるのだろう。
「王国行政官のコルトンです。
私がダンジョンに同行させていただきます」
ダンジョンの入り口に留まって時間を潰し、はいクリアしました、なんて許されるわけもない。
ちゃんとやり遂げたことを確認する必要がある。
ダンジョンであればボスを倒したと証明するための立会人が王国から派遣されていた。
手は出さないがダンジョンの中に同行してきて戦いぶりを見届けるお役人がコルトンである。
そのつもりは本人にないのかもしれないけれど少し眉を寄せてムスッとした不機嫌そうな顔をしている。
もしくはいかにも小さな不正も見逃しませんって気合でも入っているかのよう。
「いってらっしゃい、リューちゃん」
「お気をつけてください、領主様」
ダンジョンの中は大人の試練なのでここまで同行してきたルフォンとヴィッツもダンジョンの外で留守番となる。
2人に見送られながらコルトンも含めたリュードたちはダンジョンの中に入っていく。
ダンジョンの中は洞窟になっていて空気がヒンヤリと感じられる。
不思議なものでダンジョンの中には魔光石という光る石があって、外の明るさと中の明るさは大きく変わらない。
道の広さは広い。
ダンジョンに出てくる魔物がトロルで、トロルは体の大きい魔物であるのでそれに合わせて広くなっている。
このダンジョンについては領地内でもあるし、ヴィッツが調べてきていた情報を事前に聞いていた。
なのであまり警戒することなくズンズンと進んでいく。
「見えてきたな、トロルだ」
道の先に一際大きい空間とトロルの姿が見えた。
座り込んでぼーっと地面を眺めるトロルが1体。
聞いていた通りの醜悪な見た目をしている。
ゴブリンがデカく成長したようにも若干思えるがゴブリンは知能がありその他の能力が低いがトロルは再生力とそれに任せた力に特化しているので全く違う魔物である。
行動でも観察しようと思ったけどあまり見ていたくもないのでさっさと攻撃することにした。
「私が視界を奪うからあとはお願いするね」
サキュルラストは背負った自分の武器を手に取った。
サキュルラストの武器は身の丈ほどもある弓であった。
一度弓を引かせてもらったことがあるけれどあの細腕のどこにそんな力があるのか疑問に思うほど強く弦が張られていた。
リュードがトロルにバレないギリギリまで近づいて、サキュルラストがその強弓に矢を番えて目一杯引き絞る。
「行って!」
リュードが走り出すとサキュルラストが矢から手を離す。
空気を切り裂き、リュードの横を通り過ぎていった矢はほぼ真っ直ぐに飛んでいき、トロルの目に深く突き刺さった。
いきなり視界を奪われ、鋭い痛みが走ってトロルが悲鳴をあげる。
矢を抜こうとするが潰された目の側からすでにリュードは接近していた。
トロルがリュードに気づいた時にはもうリュードは剣を振り切っていた。
座っていたことも味方してトロルを切ることは難しくない。
いかに再生力に優れていようとも首を切り落とされては再生もできない。
何が起きたのかも分からないままトロルはダンジョンに還っていったのであった。
「やるじゃん、シューナリュード!」
トロルは初心者向けの魔物ではない。
けれどリュードも初心者ではないのだ。
トロルの相手するのは初めてなので緊張はしたものの、問題はなさそうだと思った。
サキュルラストの正確な射撃もあって簡単に倒すことができた。
「サキュルラストもな」
「あっ」
「ん?」
「あ、いや、なんでもない……」
何か言いたげな顔をしてサキュルラストが言葉を濁して顔を逸らす。
気になる。
でもせっかくまた打ち解けてきたのに変に距離を置かれたくない。
特に今言う必要のない用事なら無理に聞き出すことはしない。
サキュルラストは落ちた矢を拾い、誤魔化すように先を急ぐ。
正確で、トロルにも深々と刺さる威力の矢をサキュルラストは簡単に連続で放ってみせる。
リュードに当たる様子もなく、安心して前に出ることができる。
このトロルのダンジョンはある意味不思議な作りをしている。
見た目こそ洞窟状のダンジョンなのだけれど実はただの一本道になっている。
道と広い部屋を何回か繰り返す作りで部屋を進むたびにトロルの数が増えていく。
トロルに慣れさせてくれるような変なダンジョンなのである。
5つ目の部屋のトロルは5体。
数は多いけどトロル同士に連携はなく、動きも早くはないのでそれほど苦労することもなく倒すことができた。
トロルに苦労するのはトロルを一撃で倒せる威力や技量のない人でリュードにはちゃんとトロルを仕留められる力があった。
ルフォンだったら武器がナイフなこともあってちょっとだけ大変だったかもしれない。
5体のトロルを倒したリュードとサキュルラストは少し休憩をとった後さらに先に進む。
一本道ダンジョンなのでただ進んでいく。
5つ目の部屋の先にあったのは大きな扉であった。
ボス部屋である。
思いの外早かったなと思うけど他でもないリュードと意外と優秀なサキュルラストだからこその早さだった。
「それでは私はボス部屋の前で待っています」
ボス部屋は多くの場合入ると扉が閉まってしまう。
扉もないボスや閉まらないものもあるけど基本はボス部屋は倒すか倒されるかしないと開かないのである。
一緒に入ってボスの討伐に失敗してしまったらコルトンも巻き添えを食らうことになる。
そんな間抜けなことはしない。
コルトンは扉の外で待つ。
扉が再び開いてリュードたちが出て来れば成功で、出てこなければ失敗。
それでよく、分かりやすい。
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