大人になるために6
最悪結婚してもいいし、大領主の座を明け渡したっていい。
全てを上手く乗り越えられ、自分のことを権力だとか、嫌らしい目で見ないならそれでいい。
そんな時に会ったのがレヴィアンだ。
真人族の国に囲まれていて獣人族も多いことを知った獣人族の国から接近してきて国交が正式に樹立した。
遠い距離にあるので国交が出来たと言ってもその内容は薄いものであるのだが互いの技術交流などが行われることになった。
そうして話された内容の1つに移住希望の獣人族がいれば国に連れて行くことも許可された。
先に獣人族の国の方で集めた血人族を送り届け移住希望者を護衛して連れてくるためにレヴィアンが獣人族の国から派遣されてきた。
魔人族の国が多いところには血人族の国はなく、またティアローザには獣人族も多い。
長い歴史の中でこの国に住む獣人族はほとんどがこの国の生まれであるが中には獣人族の国に行きたいと思っている人は一定数いる。
獣人族の国の王子のレヴィアンはすでに権力を持っていて婚姻するつもりはない。
多少サキュルラストをそのような目で見ることはあっても基本は紳士的である。
能力については獣人族の中では赤獅子人族は優れている方で、レヴィアンそのものも次の王になるべく努力をしてきたので決して弱くはない。
よく言えば実直、悪く言えば頭が回る方ではないことは確かなのだけれど女性の真剣な頼みを断る人でもなかった。
こんな時期に来たことも何かの巡り合わせ。
神に祈った助けてくれる人がレヴィアンなのではないかと思って、サキュルラストはドアを蹴破ってお願いをしに行こうと思っていた。
ドアを蹴破ったのは周りから見てそんなお願いごとをしていないように見せるためであり、これで怒るぐらいなら諦めようと思っていた。
そしてそこにいたのがリュードであったのだ。
部屋に入った瞬間頭がクラリとするほどのニオイを感じた。
直感した。
この人こそ神が遣わしたサキュルラストを救うための人なのではないかと。
実際神様にリュードの行動をコントロールすることなんて出来ないので全部が全部偶然の産物。
リュードがこの国に来たのも、レヴィアンが決闘をふっかけて部屋に連れてきたのも、その時にサキュルラストが来たのもたまたまタイミングが重なった奇跡。
けれども確かにリュードは血人族ではないので血縁関係にもなく、サキュルラストのことを客観的に美少女だと思ってもそう言った対象として見ていない。
大領主なんてめんどくさそうなものになるつもりもなければ能力もピカイチ。
さらに、リュードを金や権力、脅しで動かすことはまず出来ない。
仮にサキュルラストの兄たちがリュード接触しようとしてきてもリュードはなびかないのである。
まさしく神かがり的な人材。
探していた人物にピタリとハマるのがリュードである。
「お願い!
ラストを助けてほしいの」
「お願いします!」
「…………少し考えさせてくれ」
思っていたよりも複雑で込み入った事情。
仕方ないのだけれど踏み入った話まで聞いてしまった。
特に悪いことをしていないサキュルラストが命の危険に晒されてしまっているとまで聞かされて断るにも断れない。
ただやはりリュードは今1人で動いているのではないので好き勝手になんでもやっていいのではない。
「あまり時間もないから早めに答えを出してくれると嬉しいわ〜
行きましょう、ラスト」
レストがサキュルラストを連れて部屋を出ていく。
最後に執事が深く礼をしてドアを閉めていった。
「はぁ〜!」
リュードは手足を投げ出してベッドの上に横になった。
めんどくさそうな気配は感じていた。
知らん人にわざわざ頼むぐらいだから変なお願いなことは薄々勘づいていたのだが想像よりも重たそうな話であった。
話を聞いているだけで気疲れしてしまった。
「どうするの、リューちゃん?」
ルフォンは執事に聞いた知識をメモに書き残す手を止めてベッドに寝転がるリュードを覗き込む。
「どうするったってなぁ」
正直な感想ここまで聞いておいて断りますさようならじゃ終われない。
断ってさっさと国を出ればサキュルラストがどうなろうと結果を知ることもなく旅を続けられるだろう。
今後関わることもないので上手くいったのか失敗したのか好きなように想像できる。
ただし大体こんなもの上手くいったろうなんて楽天的に考えて忘れることができないものである。
一筋の涙を流してしまったサキュルラストの悲しそうな顔を思い出して、良心の呵責に悩まされながら過ごすことになる。
敵対した相手には非情になれてもこんなところじゃ非情になりきれはしないのだ。
「ルフォンはどう思う?」
いきなり結婚しろなんて言ってきた相手。
ルフォンもサキュルラストの結婚しろ発言やレストの愛人発言のせいで2人をやや毛嫌いしていた。
命の危険があることはサキュルラストだけに限ったことではない。
協力することになれば命の危険はおそらくリュードにも及んでくる。
ないとは思うのだけれど大人の試練を乗り越えた先に何かと理由をつけて結婚を迫ってくる可能性だってある。
ルフォンが難色を示すなら断ることだってやぶさかではない。
「私は助けてあげてほしいかな」
即答。
思いもがけない言葉がすぐに返ってきた。
助けてあげてほしい。
それはリュードに対するルフォンの思いの1つであった。
ルフォンにとってリュードとはヒーローでもあるのだ。
困っている人が放っておけず、悪い人がいたら倒し、弱い者を助ける。
リュード自身はそんな自己犠牲に満ち溢れた竜人族ではないと思っているけれどルフォンにとってはそうなのだ。
困っている人を放っておけないのはそうだし、悪い人も大体困っている人とセットなので倒したりすることもある。
そして困っている人はほとんど弱い人なのである。
結果としていろんな人を助けてはきているのは間違いのないことであった。
そんなヒーローなリュードと並び立ち、共に歩んでいく。
そのためには困っている人がいたら放っておかず、助けられる人がいるなら助けるのである。
リュードには優しくてヒーローでいてほしい。
いきなりリュードと結婚するだとか愛人にしてほしいだとか第一印象は最悪だった。
リュードは魅力的で強いので仕方がない面があるとはルフォンも思う。
誰にでも優しくしちゃうリュードもリュードで魅力的すぎちゃうから悪いのだ。
そしてサキュルラストの話も一応聞いていた。
大人の試練とやらで命を狙われるだけでなく、その後の結婚についてまで左右されてしまうといった事情が分かった。
女の子にとって結婚は大事なこと。
大人になるためにその後の結婚相手まで決まってしまうなんてこと許せない。
強いリュードに頼らざるを得ないことは理解したので助けられるなら助けてあげたい。
そうルフォンは思っていた。
リュードは拒否しなくても多少渋るくらいのことはするかと考えていた。
それをあっさりと助けてあげてほしいと言われて覗き込むルフォンの顔を見つめる。
「……そんなに見つめられると恥ずかしいよ」
ポッとルフォンの頬が赤くなる。
村を出るときはまだまだ子供っぽいところがあったのに随分と成長したものだ。
「ルフォン」
「なぁに?」
「ありがとう」
「ううん、ちゃんと助けてあげてね……私はちゃんと待ってるし…………その、後でご褒美でもちょうだい」
恥ずかしさを誤魔化して、ルフォンはまたメモ作業に戻る。
ご褒美をちゃっかり要求するところも成長している。
オデコにチューぐらいはしてやろうか。
流石に口には恥ずかしいけどそれぐらいならリュードも恥ずかしさに耐えて出来る。
ルフォンに対して温かい愛おしさを感じながらリュードは何がご褒美にいいかを考えた。
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