海上決戦1
ドランダラスが来た次の日、ギルドからクラーケン討伐の依頼が大々的に発表された。
クラーケン討伐のための船や船に乗っている間の食糧までもが国持ちで、使い捨てのコマ扱いではなくちゃんとした戦力として見られて第3、第4騎士団との合同作戦。
当然のことではあるけれどこの国で活動する冒険者はこの国の者も多い。
漁に関わる家のものや海での討伐依頼の経験者も他に比べて多くて海戦に強い冒険者たちと言える。
直接クラーケンと戦ったことのある者などいないがこの国にとってのクラーケンは厄災と同じ。
代々色んな人がクラーケンに対する恨みつらみを口にして、それをみな聞いて育ってきている。
今こそその恨み晴らさんと志願する冒険者が続々と集まった。
直接対決だけでなく船での作業手伝いなんかも募集していたがクラーケンは強力な魔物であるので最低ランクはブロンズから参加することができた。
リュードとルフォン、そしてエミナの3人はドランダラスの直接スカウトなのでアイアン+にも関わらず参加を許された。
まだアイアンになったばかりで実力不足のヤノチとダカンはお留守番ということになった。
まさかエミナまで行きたいというとは思わなかったけれど魔法使いで船から攻撃できるエミナなら危険は少ないと判断して連れて行くことになった。
クラーケンが移動を開始する前に戦いたかったので募集は短い期間しか出されなかったのだが思っていたよりも人が集まった。
屈強な海の男たちといった冒険者が多い中、見知った顔もあった。
「バーナード、エリザ!」
スナハマバトルで決勝を争ったライバルの2人である。
「おっ、チャンピオンじゃないか。
君たちも依頼に参加するのか?」
「はい、バーナードさんたちもですか?」
確かバーナードたちは冒険者を引退しているものだと聞いていたのだが。
「この町の危機に黙っていられるわけがないだろ?
君たちの実力はスナハマバトルの時に見させてもらったからな。
この依頼はうまく行きそうだな!」
バーナードは白い歯を見せて笑う。
大きな杖を持ち、軽めの鎧を身につけた出立ちのバーナード。
知らなかったらどう戦うのか見た目で判断することが難しい格好をしている。
「お2人がいればこちらも心強いです」
「やめてくれ。
引退して久しいし私はゴールド−だ。
魔のゴールド−、壁を越えられなかったのさ」
ほんの少し悲しそうな目をするバーナード。
実力は十分にありそうだったのにそれでも越えられなかった壁。
いつまで経っても消せない−にバーナードは冒険者をやめてしまったのだ。
「それでも誰かのため、何かのためにまた武器を取られる勇気は凄いと思いますよ」
一度最前線から退いていたというのにクラーケンという強大な魔物と戦うために再び武器を手に取る。
中々出来ることではない。
「ありがとう」
リュードの素直な褒め言葉にバーナードが照れ臭そうにする。
「船が来たぞー!」
いつか来たりしクラーケン、この時のためにヘランド王国は準備をしてきた。
国を挙げて着々と用意をしてきていつでもクラーケンと戦えるようにしてきたのだ。
その中の1つがクラーケンに耐えうる巨大戦闘船の造船である。
クラーケンは大きな商船ですら簡単に壊してしまう。
足場や移動の方法となる船がやられてしまえばどれほど人を揃えたところで戦えない。
従来の帆船ではクラーケンを相手取るには小さすぎるし人を搭載するのにも限度がある。
そこでヘランド王国ではとにかくデカく、より頑丈な巨大な戦闘船を時間をかけて研究し、作り上げた。
いろいろな国から物が集まる特性を利用して様々な木材を試したり他国の技術を学んだりした。
そんな技術の粋を集めた巨大戦闘船。
しかもそれが3隻。
金属で補強された巨大な船体は甲板が広く戦いやすいようになっている。
大きいということは水に沈んでいる部分もそれだけ深い。
大干潮の影響も出始めているのだが、そもそも港はそこまで大きな船を停泊されられるように作られていない。
巨大戦闘船を港に近づけると船底が座礁してしまい港に着く前に乗り上げてしまう。
そこで巨大戦闘船には直接乗り込むのではなく港から普通の船に乗り、それに乗って巨大戦闘船まで行って乗り換えることになっていた。
どこかに戦争でも仕掛けるのかという物々しい戦闘船に乗ってみると大きいだけあって安定していた。
「リュード!」
ほとほと縁があると思う。
第3騎士団がいると聞いていたからいるとは思っていた。
そんな予感もしていたし、もしかしたら向こう側の気遣いがあった可能性もある。
船を乗り換えたリュードたち冒険者を迎えてくれたのはアリアセンを始めとする第3騎士団だった。
アリアセンは副団長であるしこうした雑務の指揮も現場でこなしていた。
リュードたちを見つけて嬉しそうに手を振るアリアセン。
ルフォンとエミナも同じく手を振りかえすがリュードだけは複雑な気分であった。
「おい、あの2人って……」
「バカ、こんなところでそれに触れんじゃねえよ」
そんな様子を見て何かに感づいた冒険者の一部が未だに根強く蔓延るよからぬ噂を思い出してしまう。
コッソリとあいつらを海から捨てる妄想を自分の中で繰り広げて気分を落ち着かせる。
アリアセンたち騎士団の案内で船内に充てがわれた部屋に向かう。
およそ4人1部屋で豪華とはいかなくても一応部屋ぐらいの広さはあった。
次々と部屋に案内されていく中で中々呼ばれないリュードたちは最後に3人になってしまった。
これまでは男女分かれての部屋だったのにどうするつもりかと思うとリュード、ルフォン、エミナは同じ部屋に通された。
しかもどことなく他の部屋よりも広い感じがする。
アリアセンが知り合いだからとえこ贔屓していい部屋に3人を割り当ててくれたとは思えない。
「やあ、元気にしていたかい?」
リュードが頭の中で考えていた思い当たる節がちょうど目の前に現れた。
変な気を回してくれたのはやはり王様であるドランダラスだった。
隣の部屋のドアが開いてすぐにこちらにドランダラスが現れたような気がするけど気のせいだろうか。
「お久しぶりですね。
こんな逃げ場のない前線に来て大丈夫ですか?」
ここは海の上。もし大事があったらこの国は王様を失うことになる。
船を準備することや冒険者を雇うといった責任は果たしたのだからここまで来ることはない。
「大丈夫だ。
私に何かあったら滞りなく息子が王位を継ぐことになっている。
何より兄は自ら兵を率いてクラーケンと戦ったのだ。
私が安全な陸からぬくぬくと結果を待ってはおるまいて
それに自慢ではないが私もこの国では屈指の魔法使いだったのだよ!」
まだ元気そうなのに王位を譲る準備をしてきたとは相当な覚悟である。
けれどもガハハと笑うドランダラスから悲壮な雰囲気は感じない。
そんな準備をしてきたけれど全てを無に返す。
つまりはクラーケンを討伐して勝って帰るつもり満々なのである。
「君は希少な唯一の雷属性の使い手だからな。
少しでも船旅の疲れを軽減するために君には最大限のもてなしをさせてもらう。
当然精神的負担も軽くするために君の彼女たちも同室なのは当然だ!」
ありがたいっちゃありがたいから素直に受け入れておく。
エミナの方は彼女じゃないんですなんて一々説明するのも面倒なので笑顔で流しておく。
顔を赤くしたエミナもまんざらではない表情を浮かべていて訂正するつもりがないようだし。
知らん冒険者と相部屋になるならルフォンとエミナと一緒の方が絶対にいい。
嫉妬される可能性もあるがまず同室なことなんてバレはしないだろうし。
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