ヤツが来た2
「いいでしょう。
けれど行くのは俺1人です」
「えっ……」
ガシャンという大きな音にヤノチがビクッとなる。
リュードの思わぬ言葉にルフォンが持ってきたデザートを落としたのだ。
話の途中で抜け出して焼いていたものを持ってきていた。
「リューちゃんどうして!」
怒った表情を浮かべてルフォンがリュードに詰め寄る。
「どうして私を置いていくの?」
こんな風にルフォンが起こるのは珍しいことだ。
「話を聞いていたか?」
「クラーケンって魔物を倒しに行くんでしょ?」
「そうだ。
戦場は海の上、相手は海の魔物だ。
いくら船の上で戦うだろうとは言っても周りは一面水だ」
「うっ……」
ルフォンの瞳が揺れる。
ルフォンは筋金入りのカナヅチ、もし転落でもしたら魔物がいない状態でだって泳げはしない。
離席していたせいか話の全てを把握していない。
「泳げないルフォンを連れて行くのは危険が大きすぎる」
勢いの減じたルフォンにリュードが畳みかける。
不慣れな船の上でルフォンを戦わせるのはリスクが大きすぎるのだ。
決して意地悪で連れて行かないなんていっているのではない。
蔑ろにしているのでもなく危ないことをしてほしくないというリュードの優しさなのである。
「お、落ちないもん!」
しばしの葛藤。
ルフォンが食い下がる。
「リューちゃんが行くところが私の行くところ。
リューちゃんが戦う敵が私の敵なの!
だから私も行く!」
行かなくていいなら行きたくない。
そんな思いもあるのだがルフォンは覚悟を決めた。
「はっはっは、いいじゃないか。
言っただろう、作戦はあると。
雷属性の魔法使いを揃えることはできなかったがその代わりにクラーケンと戦うための作戦はしっかりあるんだ」
ドランダラスがルフォンが落としたデザートを拾い上げる。
フライパンごと落としたデザートはうまいこと飛び出さなかったので無事であった。
「船から落ちる心配のない作戦だ。
彼女も連れて行ってあげてはどうたい?
聞くところによるとルフォンさんもお強いのだろう?」
ドランダラスはフォークを刺してデザートを一口運ぶ。
落ちた衝撃で形は崩れてしまったけれど味に影響はない。
砂糖も1年分もらえたのでリュードが好きな砂糖多めの甘いデザート。
「……分かったよ」
どの道依頼としてギルドで募集が始まれば参加することもできる。
勝手に参加されて目の届かないところにいられるよりは目の届くところにいてもらった方が良い。
「リューちゃん……」
「絶対俺の目の届く範囲にいてくれよ?」
ルフォンはカナヅチの中でも果てしなく水に沈んでいってしまうタイプだった。
気づけば沈んでいってしまう危険な溺れ方をするので例え水に落ちたとしても早めに気づいてやらなきゃいけない。
行くと言われてしまえば断固拒否することができない。
リュードはなんだかんだルフォンに甘いのである。
「一応先に作戦を聞かせてください。
安い作戦だったら一度引き受けましたが今からでも断りますからね」
リュードだけなら本当の最悪の事態として討伐に失敗して船が粉々にされても1人帰ってくる自信はある。
しかしルフォンが来るなら確実にクラーケンを倒して船を無事に帰さなきゃいけない。
「分かった。
作戦はこうだ」
ドランダラスが言った作戦は中々面白いものだった。
聞いたこともない作戦だったが成功の可能性は十分に感じられるものであった。
前代未聞の作戦なだけに失敗する可能性も考えられるのだがドランダラスは構想何十年という自分の作戦に絶対の自信を持っている。
まあ、どんな作戦にも100%はありえない。
どれだけ心配して、どれほど準備をしても変数は存在する。
ある程度のことはその場で臨機応変に対応していくしかない。
上手くいけば怪我人も少なくクラーケンを封殺出来るかもしれない。
ダメだったら早めにルフォンを抱えて泳いででも逃げてみせる。
クラーケンに対する作戦はもう出来上がっているのでリュードはいざという時どう逃げようかを考えていた。
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