熱き砂浜の戦い7
「泣いても笑ってもこれが最後の戦い!
スナハマバトルの優勝者はこの直接対決によって決まります!」
ウェッツォの煽りの言葉も応援の歓声も4人には届いていない。
コートに立った4人の集中は高まっていて他のことはもはや見えていない。
先行のサーブは総合ポイントで劣るバーナード・エリザペア。
「行くぞ!」
バーナードが持つとラベックのボールも小さく見える。
軽く上に投げたラベックのボールをバーナードが打つ。
バーナードの強力なサーブ。
最後の戦いが始まった。
前世の体だったなら対応することも難しかったろう。
スピードもパワーもあるサーブをリュードが反応して上げる。
「ハァッ!」
「トンデモナイ娘さんだな……」
反応ができなかった。
リュードが上げたボールにルフォンは砂を強く蹴って飛び上がって叩きつけるように腕を振り下ろした。
上げ方は決して上手いとは言えなかったのにルフォンは恐ろしい身体能力と反射神経でもってボールを相手コートの隅に叩き落としてみせた。
荒々しい力技にバーナードもエリザも反応することができなかった。
しかしバーナードとエリザも負けてはいない。
ルフォンの強烈なアタックに対応し始めてお返しとばかりに返してくる。
一進一退の攻防が続く。
時には力で、時には技術での攻撃にリュードとルフォンも苦しむ。
砂にまみれて負けじとボールに食らいついてリュードが上げて、ルフォンがどんな状況からでもアタックを返す。
バーナード・エリザペアのようなスマートさはないがリュードが持ち前の身体能力でとりあえずボールを上げればルフォンが打ってくれる。
互いが互いに譲らない戦い。
一瞬たりとも気の抜けない状況が続いていた。
「ぬおおおっ!」
「バーナード、ルフォンの強力なアタックを受けきれないー!」
けれどやればやるほどルフォンは研ぎ澄まされていく。
戦いの最中にルフォンは成長し続けていた。
バーナードの伸ばした腕に当たったラベックのボールは威力を殺しきれずに大きく後ろに飛んでいってしまった。
「これでシューナリュード・ルフォンペア、マッチポイントです!」
先にマッチポイントを迎えたのはリュードとルフォン。
長い戦いも終わりが見えた。
体力に自信があったのに1日中砂の上で動き続けたせいで疲労がすごく、体が重く感じられる。
ここに来てサーブはバーナード。
まだバーナードの目には強い意志を感じ、勝負を諦めてはいない。
「うおおおお! 負けるかー!」
バーナードの渾身のサーブ。
パワーを重視したその一球はリュードの真正面に飛んできた。
「こっちだって!」
腕を引いて威力を殺そうとするけどボールの勢いが強すぎる。
リュードの体がわずかに後ろに押されるほどのボールをなんとか上にあげる。
「バーナードの放ったサーブをリュードが上げたっ!
空高くラベックが上がるー!」
上手く勢いを減じきれなくて上に上げることが精一杯だった。
もっとルフォンが打ちやすいように上げられたらよかったのに。
でも、上げられればそれで十分。
「任せて」
ルフォンの目にはラベックのボールしか見えていない。
ここまでの全てを活かすように、ルフォンは大きく飛び上がった。
「やああああ!」
「はああああ!」
頂点まで行って勢いを失って落ちてきたラベックのボールと勢いよく振り下ろされたルフォンの手が重なる。
下への強力な力をもらってラベックのボールがバーナード・エリザペアのコートに向かう。
誰もが飛び上がったルフォンに視線を向けて顔を上げる中でエリザが一瞬早く我に帰った。
かなり高いところから打ち下ろすことになったのでボールが到達するまでに時間があったことも幸いしてエリザはルフォンのアタックに反応できた。
コートの端ギリギリを狙ったルフォンのアタックにエリザが飛びついて腕を伸ばす。
完璧なタイミングで打ち下ろされたボールはバーナードのパワーにも負けていない。
意地でボールを腕を当てることは成功したものの、その行方までコントロールできはしない。
エリザの腕にぶつかったボールは大きく跳ね上がりコートの後ろに飛んでいく。
「バーナード!」
「どりゃあー!」
バーナードも走ってコートを飛び出して、ボールを追いかける。
エリザの努力を無駄にするわけにいかないとバーナードがボールの下に腕を差し込もうと飛びかかる。
必死に伸ばした腕。
無情にも指先は届かず、ほんの少し先にボールは落ちた。
「…………あ、あまりの勝負に私も言葉を失ってしまいました。
決着がつきました。
ルフォンのアタックを返し切ることができず、ボールはコートの外に落ちてしまいました。
熾烈な戦いに勝利したのはなんと、シューナリュード・ルフォンペア!」
ドッと会場がわく。
「リューちゃーん!」
「おっと」
リュードの首に手を回して抱きつくルフォンは喜びを爆発させた。
尻尾がちぎれんばかりに振られていて、それを見てリュードも勝ったのだと実感が湧いてくる。
少し遅れてようやく喜びが溢れてくる。
「あのね、私頑張ったからさっきバーナードさんがエリザさんにやってたみたいに、してほしいなって……」
「やってたみたいってなんのことだ?」
色々していたからどれのことかわからない。
「ほっぺにちゅってしてたでしょ?」
旗取りでの競技でルフォンが勝った時の不自然な態度。
その理由がわかった。
バーナードは息止め対決のときに勝ったエリザに対して頬に軽くキスをした。
言葉で褒める代わりにおめでとうというスキンシップ。
ルフォンは限界まで息を止めて苦しい中でもその光景をバッチリ見ていたのであった。
負けたことも悔しくて、勝ったら絶対に自分もああしてもらうんだとひっそりと心の中で強く思った。
旗取りの時も勝ったのでそうしてもらおうかと思ったのだが恥ずかしくて言い出せなかった。
勝った喜びとこれが最後のチャンスなのでルフォンは思い切って言ってみた。
旗取りの時だったならすぐにオッケーした。
しかし今は1競技の中ではなく、完全に全部が終わって、しかも優勝してみんなの注目の的になっている。
抱き合っているだけでもドキドキして、周りの目がちょっと怖いことになっている人もいるのに、人前で頬とはいえキスするのは勇気がいる。
「ねぇ、ダメ?」
後でしてやるなんで言葉を言う前に懇願するように見つめてくるルフォン。
何かの気配を察した観客たちが歓声の声を少し落として2人の様子を見守る。
「ルフォン」
頭を撫でるのとはハードルの高さの違う、難易度の高い行為。
だけどルフォンはこのスナハマバトルの中で非常に頑張った。
リュードは持ちうる限りの勇気を振り絞ってルフォンの頬に優しく口づけをした。
「よく、やったな」
ボボボと、ルフォンの尻尾の毛が逆立って大きくなる。
顔も真っ赤になり、フニャリと表情が崩れる。
単に頬に口づけしただけなのだが周りから見ると普通にキスをしたように見えた。
歓声にヒューヒューと2人を冷やかすような声が混じる。
「これにて全ての競技が終わりました。
最後に表彰式と……」
「きゃあーーーー!」
なかなか難しい雰囲気を司会のウェッツォが一度上手くまとめて次に行こうとした。
けれど女性の悲鳴が聞こえてきて会場に緊張感が走る。
ざわつく会場。
観客の後ろの方から聞こえてきた悲鳴の理由はすぐに分かった。
「魔物だー!」
観客が多く周りが見えないが男性の声がして、魔物が出てきたことが伝ってきた。
海の方に出たのか、それとももう浜辺に出ているのか。
「エミナ!」
「はい、ここにいます!」
「俺たちの荷物はあるか?」
「もちろんここに」
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