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「……そんな」
目の前の光景に、フィーホは絶句した。
日が傾き始めている。
その太陽が照らすのは、荒らされた畑と壊された小屋の数々だ。
盗賊に襲撃された後だった。
「盗賊団がいる時点で、この可能性も考えるべきだったな」
苦々しくセイが言った。
その時だ。
母屋から人が出てきた。
こちらは、何故か破壊を免れたようだ。
「フィーホ、それにセイじゃないか!
どうした、こんなところを駅馬車が通るなんて珍しいな。
手紙でも届けに来たのか??」
それは、この農場の主だった。
セイと同年代、五十代前後の男である。
「どうした、はこっちのセリフだ。
いや、今はそれどころじゃないんだ。
実は……」
フィーホが農場主へ返しつつ、事情を説明する。
農場主は、たいそう驚いて、
「そりゃ大変だ!
すぐ場所を作る。
母ちゃん!!母ちゃん、大変だ!!」
叫びながら家の中へ戻って行った。
しかし、すぐに顔を出して、
「おい、手伝ってくれ!!」
そう言ってきた。
家の中も荒らされていた。
しかし、元々家具も少ない上、金目のものも無かったからか荒らされるだけだったようだ。
その中でも被害が少なかった部屋の1つを、農場主の妻が提供してくれた。
その部屋に、マリアを移動させる。
マリアの様子を見て、農場主の妻が鋭くフィーホへ指示を出した。
「フィーホ!
お医者様を呼んできて!
たしか、ギブリさんの家に馬と牛を診に来てくれてるはずだから!
ギブリさん家はわかるわね?!」
「わ、わかった!!」
フィーホが家を飛び出す。
続いてセイも出ていこうとして、農場主の妻に止められる。
「アンタはここにいな!!
そこの若いの!!」
農場主の妻が、ジョンを見て怒鳴るように指示を出す。
「アンタがフィーホを護衛しな!!」
「は、はい!!」
有無を言わせない迫力に、お尋ね者である少年は従うしか出来なかった。
そんな2人の背を見送った後、不思議そうに農場主の妻を見ていたセイに、農場主が声をかける。
「そういや、話したこと無かったな。
妻は【魔眼保持者】なんだよ。
【鑑定眼】って目を持ってる」
「あ、そうなのか。
やけに的確に指示をだしたなと思ったら。なるほど」
【鑑定眼】というのは、その名の通り鑑定に特化した魔眼のことだ。
「お陰で詐欺に引っかからずに済んでる」
農場主が言った時、またも妻から鋭い指示が飛んできた。
「あんた達、すぐにお湯を沸かしな!!
わかってると思うけど、大量に!!」
その指示通りに、二人は動いた。
その中でオロオロとしている者がいた。
リーンだ。
「あ、あの私は何をすれば」
リーンはセイに声をかけた。
農場主の妻が、そんな彼女の肩を掴んでマリアを寝かした部屋へ引きずっていく。
「アンタはこっち!!」
「え、ええええ?!?!」
リーンは戸惑いつつも、あっという間に部屋へ引きずり込まれてしまった。
そこからリーンは、農場主の妻の指示に従って動いた。
セイ達が沸かした湯を運んだりバタバタと忙しそうに動き回る。
そんな中だった。
もう何度目になるのか、沸かしたお湯を取りに来たマリアの顔が青ざめていた。
「セイさん!セイさん!!
大変、マリアさんから水が!!」
「マジか。破水したか」
「はすい??」
「いよいよ生まれそうってことだ」
「そんな、お医者様は?!」
「まだだな」
「なんで、そんな落ち着いていられるんですか!!」
「うち、子供二人いるから。
つーても、最後の出産に立ち会ったの、二十年前だけどな」
そこに口を挟んできたのは、農場主だった。
「お嬢さん、うちはもう皆成人して家を出たが、五人子供がいる。
いよいよ産まれるって言っても、破水して実際に産まれるまではそれなりに時間がかかるんだ。
皆、それぞれ生まれるまでの時間が違ったよ」
リーンを安心させるように、農場主は言った。
セイがリーンに替えのお湯を持たせ、彼女の背中を叩いた。
「医者が来たらすぐに知らせるから」
セイの言葉に、リーンは頷いてお湯をもって部屋へ戻って行った。
程なくして、外から馬車の音が聞こえてきた。