5
フィーホが次の町への手紙などを受け取り、荷物の確認をしている間。
セイは、ジョンを呼んだ。
「なんですか?」
「万が一にも俺がどうにかなったら、お前があの貴婦人二人を守れ。」
「はぁ」
ジョンは、なにを突然に言い出すんだこのおっさん、という顔をした。
「いいか?
それこそ、命にかえても二人を守れ。
できるな?」
「……特別な事情を抱えているんですか、あの二人?」
ジョンが当然の疑問を投げた。
「事情を抱えていない人間なんていないさ。
それと、マリアさんだが。
体調が悪そうだったらすぐに報告してくれ」
「わかりました」
そして、一行は村を出た。
村を出て、今日、宿泊する予定の町までの道中。
フィーホは、ふと気になってセイへ訊ねた。
「イーストウッドに着いたら、マリオン、いやアンタに倣ってジョンと呼ぶことにするか。
ややこしいし。
セイさんはジョンをどうするつもりなんだい?」
「どうするって?」
「脱獄した指名手配犯なんだろ?
とても、そうには見えないが……。
捕まえないのかい?」
「さて、ね」
セイは短く返した。
「なら、このまま放置するのか?」
他に話題も無いので、フィーホはこの話を続けることにした。
フィーホから投げられた言葉に、セイは空を見上げる。
憎らしいほどの晴天だ。
「……何も起きなければ」
ぼんやりと空を見上げたまま、セイはそんなことを口にした。
「そう、何も起きずにイーストウッドまで行くことが出来たなら、それもありだな」
「放置するのか」
「いいや、捕まえて報奨金をもらう。
なによりも、ジョンの安全を考えるならその方がいい」
「安全?」
「フィーホ、お前は、ヴァルマ一味の悪行はについて、どの程度知ってる?」
「……大物賞金首ってことくらいしか、知らないな」
フィーホの返答に、セイは喉の奥でクククと笑った。
「強盗、殺人、婦女暴行等など。
悪事の限りを文字通り尽くしてる連中だよ。
数の暴力にも頼ってるから強い強い」
「あんたでも適わないか」
「無理だな。
普通にやりあった場合、多勢に無勢だ。
最初の方で多少抵抗出来ても、押し切られて殺されるのがオチだ。
それはジョンも同じだ。
だから、刑務所の中がジョンにとって一番安全なんだよ」
「………相変わらず、お節介だなセイさんも」
「自分の子供と同じ歳の子供が死にに行くのを、見過ごせないだけだ。
あ、あと話が変わるんだが」
「うん?」
「次の町に着いたら、医者を探してもらえるか?」
「医者?」
「マリアさんの体調がどうにも気になる。
もしかしたら、ってこともあるからな」
「あぁ、わかった。
腕のいい医者を知ってる。
着いたら連れてってやるよ」
フィーホの言葉に、セイはホッと安堵の息を吐き出した。
その次の瞬間だった。
セイ達の馬車へ、無数の弓矢が降り注いだ。