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村の寄り合い所にて、少し休憩となった。
フィーホとセイは、村人から盗賊団の噂などを仕入れる。
それも一段落し、二人も休憩を兼ねて寄り合い所にお茶を飲みに来た。
その時だ、
「あの、今回は護衛としてセイさんを雇っていますが。
普段は雇っていないんですか?」
そんな質問が、リーンから出たのだ。
話を振られたフィーホは、不思議そうに首を傾げた。
「あ、その、今回は盗賊団が暴れているということでセイさんに護衛を頼んだのですよね?
普段から護衛の方を雇ってはいないのですか?
道中、魔物とか出るでしょう?
どう対処されてるのかなって不思議で」
そう問われる。
「あぁ、そのことですか。
幸いなことに、俺が行き来している街道は、凶悪な魔物の出現は少ないんですよ。
治安も基本的にいいですし。
なので、護衛を雇うのは今回のような時くらいです」
他の駅馬車が走る街道では、護衛を雇うのが普通だ。
御者台には、御者と武器を持った護衛が乗っているものである。
しかしフィーホが言ったように彼が普段行き来している街道は治安が良い。
魔物の襲撃も皆無といって差し支えない。
そんなわけで、護衛なんて必要ないのだ。
あちこち開拓され始めてからというもの、魔物の数は減り続けているのがその理由である。
盗賊の襲撃事件ですら、この二、三十年は起きていない。
だから、普段は護衛はつけないのだ。
そう説明すると、リーンは納得したようだった。
「なるほど」
ジョンが小さく呟いた。
「本当に怖いのは、どっちなんだろうな」
「え?」
「なんでもない、こっちの話だ」
そんな三人を他所に、貴婦人マリアは優雅に出されたお茶を口にする。
カップを置いて、マリアはジョンとリーンを見る。
次に、新聞に目を通しているセイを見た。
視線に気づいて、セイがマリアを見た。
マリアはすぐに視線を空になったカップに戻す。
「……何か御用でしょうか?」
恭しく、セイがマリアへ声をかけた。
その所作は中々様になっている。
それもそのはずで、セイは若い頃貴族の令嬢の護衛なんかも請け負っていたことがあるのだ。
「いえ、その」
気まずそうに、マリアはジョンとリーンをちらりと見た。
「あの方は、その」
セイもその視線を追って、二人を見た。
そして、
「あぁ、ジョンですね。
脱獄した指名手配犯ではありますが、大丈夫ですよ。
アイツのことは、ちびっ子の時から知ってます。
少なくとも、女性に手を上げるような無頼漢ではないです。
むしろ、優しいやつです。良い奴です。
腕っ節も強いので、万が一盗賊団に襲われても貴女方を守ってくれますよ」
あえて、そう説明した。
「そう、ですか。
えぇ、そうですね。
彼は紳士です」
思い当たることがあったのか、マリアは微笑んだ。
だが、少しだけ落胆したように見えた。
しかし、一方でセイは難しそうな表情をジョンとマリアに向けたのだった。
そんなセイへ、マリアは不思議そうに聞き返した。
「ジョン?」
マリアの返しに、セイはすぐピンと来た。
おそらく、彼の名前が違っていることに気づいたのだ。
「あぁ、アイツの本名ですよ。
マリオンってのは、呼び名なんです」
セイはそう説明した。
休憩を終え、一行は次の町へと向かう。
そこで今日は一泊する予定となっていた。
その道中でのことだ。
「不穏で物騒で不景気で。
嫌になるよなぁ、ほんと」
セイはフィーホへ話を振った。
「盗賊団のことか?」
フィーホが言葉を返す。
「それもある」
「も?」
「見てみろ」
セイが村で手に入れた新聞を懐から出し、フィーホへ渡す。
セイは普段はあまり新聞を読まない。
仕事に必要な情報も、それ以外の情報も冒険者ギルドの酒場に入り浸っていれば、いくらでも手に入るからだ。
より確実な情報が欲しければ、それこそ情報屋にでも行って金を積めばいい。
しかし、大きな街でなければ情報屋も冒険者ギルドも無い。
結果的に、情報を仕入れるには噂話か、新聞からになってしまうのだ。
「ふむふむ……」
フィーホが新聞に目を通す。
新聞の見出しには、この大陸でも最古の王家である【フィリンシバル家】の第二王女の病死の記事が載っている。
その次に大きな記事は、【ヴァルマ一味】の悪行についてだった。
どうやら、あちこちの開拓村が狙われ焼かれているようだ。
記事は、
【イーストウッドにその魔手が伸びるのも、時間の問題だろう】
そう締めくくられていた。
フィーホは、今乗せている客三人について考えた。
この三人の目的地は、イーストウッドである。
お尋ね者のマリオンこと、ジョンはまだいい。
自分の身は自分で守れるだろう。
しかし、残りの二人はそうはいかない。
「まさか、貴婦人を二人も護衛することになるとはね」
あとでジョンには、諸々言い含めておく必要があるだろう。