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 六頭引きの馬車が、ゆっくりと動き出した。

 馬車の中にはリーンが一人だけ乗車している。

 セイは、御者のフィーホと並んで御者台に収まっていた。


 町を出るまでの短い道のり。

 その途中途中に、停留所があるのだが、誰もいなかった。

 それどころか、時には停留所以外の場所で手を上げて馬車を止め、乗る者もいるのに今回はさっぱりだった。

 いよいよ町の出入口が迫る。

 その時だった。

 出入口のすぐ近くに人が立ち、馬車へ向かって片手を上げているのが見えた。

 フィーホは馬車を停める。

 客だった。

 上品そうな、しかしどこか強そうな雰囲気をまとう女性だった。

 歳の頃は、二十代半ばくらいだろう。


「席は空いてるかしら?」


「えぇ、空いてますが。

 よろしいので??」


 フィーホの返答に、女性は首を傾げる。

 どうやら、盗賊団諸々の情報を知らないようだ。

 フィーホは説明した。


「あら、そうなの」


 女性は、軽く驚いたようだった。

 しかし、


「そうとなれば、尚のこと向かわなければなりません」


 そう返した。

 女性が説明してくる。


「実は、イーストウッドで夫が働いているんです」


 その夫に会いに行くのだという。

 意思は固いようだ。

 女性はさらに、セイを見て続けた。


「そちらの方は護衛でしょう?

 護衛がいるなら安心です」


 セイもこれには苦笑した。


「貴婦人にそう言って頂けるとは」


 セイの返しに、女性の顔が強ばった。

 しかし、それ以上女性がなにかを言うことは無かった。

 逆にセイが続けた。


「しかし、騎兵隊の護衛でもない、ただの冒険者の護衛でもよろしいと?

 それに、馬車は揺れますが大丈夫ですか??」


 女性は、さらに顔を強ばらせたまま頷いてみせた。

 セイは、フィーホを見る。


「念の為、二人に毛布を渡してくれ。

 積んであるだろ?」


 フィーホは頷く。

 彼は御者台から降りて、馬車のドアを開け女性を乗せた。

 それから、毛布をリーンと女性に渡す。

 また御者台に戻り、馬車は町を出た。


 草原を駆け抜け、荒野へ入る。

 馬車は街道をひた走る。


「しかし、夜にはまだまだ早いだろ。

 なんで毛布なんだ?」


 フィーホが訊ねた。


「念の為だ。

 気持ち悪い、お節介と言われそうだが。

 女性が体を冷やすのはよくないだろ」


「まぁ、たしかに」


「ところで、ジョン、じゃなかった。マリオンだ。

 マリオンとヴァルマ一味か。

 マリオンはともかく、ヴァルマ一味には遭遇したくはないな」


「マリオンのこと知ってるのか?」


「昔、親父さんに良くしてもらった。

 農場によく遊びに行った。

 友人と言って差し支えない程度には、交流があった。

 マリオンがこんくらいのちびっ子の時にも会ってる」


 そこで、セイは遠くを見る。

 昔を懐かしむように、目を細める。


「……俺が、マリオンを牢獄に入れたんだ」


「それは、またなんで」


「……まぁ、色々あったんだよ。

 でも、だからこそ、アイツがまず復讐に来るのは俺だと思ってたんだ」


 会話はそこまでだった。

 また人の姿が見えたのだ。

 荒野のど真ん中で、こうやって旅人に遭遇するのはさして珍しくない。

 ましてや、その人物が大きく手を振って馬車を停めようとしていた。

 つまり、客である。

 しかし、油断は出来ない。

 客に見せかけた強盗ということも考えられるからだ。

 ましてや、今は盗賊団騒ぎが起こっている。

 フィーホはセイを見た。

 とりあえずセイがいるのだから、何かあっても大丈夫だろうと考え、フィーホは馬車を停めた。


「乗れるか?」


 それは、青年だった。

 二十歳前後ほどの、青年。

 その青年の顔を、フィーホは知っていた。

 そして、それはセイも同じだった。


「こんなところで何やってやがる、指名手配犯?」


 セイが声を掛けると、青年――脱獄して指名手配中のマリオンが目を丸くする。


「え、セイさん!?」


 乗客の女性二人も、何事かと馬車の窓から様子を覗う。


「こりゃ、驚いた。

 まさかセイさんに会えるなんて」


「世間話はどうでもいい、なんでこんなとこにいるんだ?

 ジョン・ウェイン?」


 ジョン・ウェインというのは、マリオンの本名である。


「馬が怪我をしてね。

 イーストウッドまで行きたい。

 乗れるかい??」


 セイに答えつつ、マリオンは御者のフィーホへ訊ねた。

 フィーホはと言えば、まさかこんな風にお尋ね者に遭遇するなどとは思っていなかったからか、コクコクと頷いただけだった。

 セイが警戒していないのを見て取ったのだ。

 脱獄犯のお尋ね者ではあるが、危害を加えるような悪いやつではないのかもしれない。

 フィーホはそう考えたのである。


「それは良かった」


 マリオンことジョンは人好きのする笑みを浮かべる。

 それから、馬車の屋根へ荷物を投げる。

 フィーホがそれを落ちないよう固定する。

 一方、セイが御者台から降り、乗車しようとしていたジョンを呼び止める。


「お前、何しにイーストウッドまで行く気だ?」


「セイさんには関係ないでしょう。

 見たところ、セイさんは護衛ですか?

 そういえば、タチの悪い盗賊団が暴れてるとかなんとか聞きましたねぇ」


「…………」


「安心してください。

 貴方にも、他の方々にも危害は加えません。

 あぁ、そうだ。

 なんなら俺も攻撃魔法が使えますし、そこそこ剣の腕には自信があります。

 これから先、タチの悪い盗賊団にもしも襲われるようなことがあれば、護衛のお手伝いくらいならできますよ?」


「……お前、まさかとは思うが」


 ジョンの言葉を受けて、セイはなにか言おうとする。

 しかし、


「準備出来ました!

 お客さん、乗ってください!」


 そんなフィーホの言葉が投げられ、会話はそこで終わったのだった。


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