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 異世界脱出作戦

作者: 鶴っと亀太郎

 俺は平凡な高校生・川島卓(かわしますぐる)

 平日は学校に行き友達と喋ったり陸上部をそれなりにやったりしながら休日はアニメや漫画やラノベやネット小説を見て過ごす男だ。

 「部活終わったし早く帰ってアニメ見ないと!」

 平日は学校に行かないといけないので当然録画しているアニメは見れない。

 何しろ日本は局を問わなければ毎日朝昼晩アニメがあるので録りためたアニメがいっぱいある。

 だからこそ陸上部で鍛えた足を活かして一秒でも早く家へと帰るのだ。

 「今日は何見よっかな~?アクションにするかラブコメにするか……」

 早くしないと親父が帰ってきて見る時間なくなっちまう!テレビが取り合いになるのは家族がいる者の宿命なのだ!!

 自立したらアニメを録画しまくってやるが今は我慢の時である!

 「この先を行けば家へと着く!待ってろまだ見ぬアニメ達!」

 曲がり角を進み我が家へと直行しようとしたその時蒼白い光が足下を照らし出した。


 「な…なんだ!?」


 足を動かすもいつの間にか間抜けな姿で宙を浮いていた。


 「おいおいこれってまさか……」


 この光景…この展開には覚えがある!ネット小説で幾度も採用されてきたこの展開はーーーーー

 

 「異世界召還ってやつかーーー!?」


 その一言を最後に蒼白い光に飲み込まれ俺は姿を消した。



 「ん……」

 蒼白い光が晴れたのをまぶたの奥から確認し目を開けると目の前には高貴なドレスに身を包んだ女性とその隣には剣を携えた女性がいて周囲には騎士が数人程待機していた。

 この並び方とかもう何度見たわかんね…最早様式美だわ。


 「ようこそおいでくださいました勇者様!(わたくし)はこのカール王国の王女・スフィーリア・フォン・カールと申します」


 はいでたー!異世界召還したのは一国の王女って展開~!!


 「呼び出した理由は他でもありません、現在我がカール王国は魔王軍の侵略を受けており今は持ちこたえていますがとても厳しい状況なのです」


 そして呼び出した理由は魔王軍との戦争~!!ネット小説じゃお腹いっぱいな展開だよちきしょう!!でも見たくなっちゃうのは何でだろ?


 「それでは先ずは魔力量の測定をさせていただきますわ」


 スフィーリアの隣にいる女性が異世界物で定番の水晶玉を出してきた。


 「測るの?」

 「はい、大事なことですので」


 流れはわかっているので水晶玉に手を置く。

 呼び出しておいて魔力低けりゃポイか?そんな展開したら隠されたスキルが発動して俺を追放したーーーーー


 「これは!」

 「おお!」


 俺が触れた水晶玉は眩く輝き部屋全体を照らし出した。

 成る程こっちのパターンね。


 「素晴らしい魔力のですわ!」

 「これなら旅に出しても問題ありませんね」

 

 スフィーリアの隣の女剣士?がようやく喋ったよ。

 さすがに名前気になるし聞いとくか。


 「あのスフィーリア様?そちらの方は?」

 「これは失礼、彼女の名はフローラ」

 「以後お見知りおきを」


 フローラが軽く頭を下げる。


 「それでは早速フローラと共に魔王軍の退治に向かってください!」

 「え!?今から!?」

 「何か問題が?」

 

 大有りだこのバカ王女!何処の世界に呼び出していきなり外向かわせる王女がいるんだ!!まあネット小説だと結構いたけど俺にはしてほしくないのよそれ!!


 「俺来たばかりなのでせめて城で一泊してから改めて行きたいのですが……」

 「彼の言う通りです、ここは一泊だけでも……」

 「確かに」


 フローラが耳打ちしてスフィーリアを説得している。


 「わかりました、では一泊だけお泊まりください」

 「ありがとうございまーす」


 『一泊だけ』をやたら強調して釘を刺してくる。

 呼び出して早々放り出す気満々とかふざけんなよ王女様!


 その後俺は王国の豪華な夕食を食べた後フローラは俺を部屋へと案内した。


 「ここが今日君が泊まる部屋だ」


 部屋は思ったより天井も高く広かった。

 明日放り出す勇者への手向けの花か?


 「しっかり休んで明日に備えるといい」

 「ありがとうございまーす」

 

 フローラが去っていくのを確認してから扉を閉めた。

 冗談じゃない!明日になったらなんもわからん世界に放り出されるなんて!!

 俺はな!二次元で異世界物は結構見てきたけど別に異世界にきたいわけじゃねーんだよ!!

 俺は現実で悲惨な過去とか特にねーんだよ!今を満喫してたんだよ!

 大体魔王軍倒したとして元の世界に帰れる保証あんの!?どうなんだよスフィーリア王女!!


 「なんとかしねーと」

 

 そうだな……異世界物と言えばスキルだ!スキルを確認してみよう。

 先ずは目の前を指でタッチしてみる。

 端から見ると間抜けな行動だなこれ。


 「どうやらステータス画面は現れないらしい」


 まあ見るからにゲームな世界じゃないもんなこの異世界。

 じゃあ次はあれだ…手をかざして呪文を唱えてみよう。


 「ファイヤ」


 火がでない!いやまて!異世界物だと確かイメージしてから呪文を唱えるんだったな。

 手をかざして今度は炎をイメージしながら唱える。


 「ファイヤ」


 呪文を唱えるも部屋には火花一つ起こらなかった。

 

 「そう言えば呪文これであってんのかな?」

 

 呪文があってなきゃいみねーじゃん!何で聞いとかなかったんだ俺……。

 

 「はあ………」


 このまま俺は元の世界に帰れずわけのわからん世界に旅立ち魔王軍と戦う日々を送ることになるんだ……。

 絶望……その二文字が頭をよぎり俺はその場に座り込んだ。

 座り込んだ拍子に床に手をついた瞬間蒼白い光がぽわっと浮かび上がった。


 「ん!?」


 その光を見逃さなかった俺はすぐさま光を目で追うがすぐに消えてしまった。


 「今の光は…間違いない…俺が異世界来る前に見た光だ!」


 この光を使えば元の世界に帰れるのか!?いやそうに違いない!


 「でもすぐに消えたし……どうしたもんか?」


 ここでやっても上手く行くとは思えない。

 異世界から人を呼んだりするのに何も準備されてない場所でやるのはいくらなんでも危険だな。


 「とくれば俺が行くべき場所はあの部屋だ」


 帰る為の希望が見えてきた。

 

 「そうだ…忘れるところだった……」


 魔力を身体に集中してエンチャントできるか確認しとくか。

 

 「例えば……足に魔力を集中して……」

 

 両足が少し蒼白く光出す。


 「おお…光った」


 どうやら魔力を身体に込めるのは成功したらしい。

 次はどんなもんかチェックしないと…試しにジャンプしてみるか。

 

 「よっと」

 

 ジャンプするとまるで宙に浮いたかのように飛び上がり高かった天井に届いた。


 「これなら脱出できるかも知れない」

 

 俺は試行錯誤しながら脱出作戦決行の深夜まで待った。


 深夜…現実世界と違って電気もないため外では城と城下町は灯火が煌めいていた。

 

 「いよいよか……」

 

 これくらい暗いなら俺も動きやすい。

 この暗さを合図に俺は両手足に魔力を集中して壁をよじ登り天井から移動することにした。

 試行錯誤しながらこうして魔力を扱う練習をして脱出作戦を練っていたのだ。


 問題は騎士の動きだがそれについては心配ないな。

 何せあいつら鎧着こんでバカみたいに音鳴らしてるんだもん。

 笑いが込み上げてくるわ!


 「これなら楽勝だぜ……」


 笑いを堪えながらも俺は俺を召還したあの部屋に移動することにした。


 音を避けながらあの部屋にたどり着くのは予想通り簡単だった。

 だが問題は二つ。

 一つは騎士が二人も見張りをしていたこと。

 もう一つは錠前がかかっていたこと。


 「あいつら倒せるかな?」


 頭殴って気絶してくれれば良いけど……いや考えても仕方がない!

 意を決した俺は飛び降りて騎士二人の頭を殴る!!

 

 「がっ!」

 「ぐっ!」


 案の定鈍い音がなり俺は反動で手がピリピリした。

 

 「いってててて……」

 

 だが痛がっている暇はない。

 俺は早速錠前を壊した。


 「これでこの世界とおさらばだ」


 扉を開けるとそこは俺の探していた部屋ーーーーーの中心にフローラがいた!


 「フローラ!」

 「やはりここにきたか勇者」

 「何故ここに!?」

 「いきなり泊まりたいなどと言い出したんで念のためにと王女がここで見張りをするようにとわたしに命じたのだ」


 あのクソ王女……そこまでして俺を死地に送りたいのか!

 

 「さあ、観念して大人しく部屋に戻ってもらおうか」

 「断る!ここまできて諦めきれるか!」

 「そうか…ならば仕方ない」

 

 フローラは鞘から引き抜いたのはなんと木剣だった。

 

 「木剣!?」

 「これから旅立つ勇者を殺すわけにはいかんのでな…なあに心配するな」

 

 フローラは余裕の表情で木剣を構える。

 

 「どれだけ怪我をしようと治療する術なら用意してある」

 「それ俺を痛め付ける前提かよ!!」


 俺の突っ込みを隙と見るやフローラは突っ込んで俺の身体に木剣を突き刺した!!


 「いってぇ!!」


 あまりの痛さにごろごろと転がる。


 「どうした?その程度か?」

 「ふ……ざけんなぁ!!」


 両手足に魔力を集中して殴りかかるがかわされて木剣を腹に受ける。


 「うっは!」


 痛みで腹を抱え座り込む。


 「どうした?もう終わりか?」


 終わり……こんなところで終わったら俺はーーーーー


 「フッざけんなああああああ!!」

 「!?」


 俺の全身から魔力が溢れだしフローラを吹き飛ばした。

 吹き飛んだフローラは辛うじて着地した。


 「ここで終わったらな…俺は…俺は…」


 元いた世界の楽しい日々が頭を駆け巡り身体中に魔力が宿る!!


 「アニメや漫画や小説(掛け替えのない大切な)物の為に俺は負けられねーんだよ!!」

 「その意気やよし!ますます帰したくなくなった!」

 「うるせー!意地でも帰らせてもらう!!」


 俺は魔力を両腕に集中して突っ込むがフローラは臆することなく木剣を構える。


 「バカ正直に突っ込んでくるとは……」


 フローラは木剣を振り上げるが尚も俺は突っ込む。

 あいにく俺は元の世界じゃ戦いとは無縁の生活送ってるんでね…綺麗な戦い方なんて知らねーんだわ。


 「望み通り止めを刺してやる!!」

 

 フローラの渾身の一振が俺目掛けて振り下ろされる!!


 「何!?」


 俺はフローラの渾身の一振を左腕を盾にして防いだ!!

 防いだ時にできた一瞬の隙を俺は逃さない!!


 「うおおおおおお!!!」


 渾身の右ストレートがフローラの腹に炸裂する!!


 「カッハ!!」


 フローラは痛みでよろめき仰向けに倒れた。


 「見事だ…勇者…」

 「俺の名前は勇者じゃねえ……川島卓だ」

 「覚えておこう……」


 フローラは目を閉じて意識を失った。

 俺も正直倒れたい程フラフラだがここで倒れるわけにはいかない………。

 俺が召還された時に立っていた場所に手を置き魔力を注ぐ。

 すると魔方陣が蒼白く光だした。


 「やったぜ……」


 これで異世界から脱出できーーーーーーーー


 「勇者様が逃げただと!?」

 「急いで探せ!!」

 「やっば……もう気づかれたか……」


 まずい…どう見ても魔方陣の輝きが足りない……これじゃあ俺は帰れないぞ……。


 「もっと魔力を…こめないと…」


 魔力を込めたいがやはりフローラとの戦闘で魔力を使いすぎたようだ……。


 「何で…何でだよ……」


こんな…こんなのってありかよ…!俺は勝ったのに…!俺は帰りたいだけなのに!!


 「俺は帰りたいんだよおおおおおお!!」


 俺の手に手を合わせてくる人がいた。


 「フローラ!」

 「わたしも手伝おう」

 「何でだよ…お前が助けたら国を裏切ることになるんだぞ!?」

 

 勇者を送り返したと合ってはきっと王国にいられない、死刑だってありうる。

 それなのに何で……?


 「わたしも何も知らない世界の者をいきなり戦争に巻き込むのは不本意だった……それに……」


 俺に向き直り真剣な表情でフローラは告げる。


 「じゃあな…川島卓」

 

 少し悲しそうなフローラを蒼白い光が包み込んだ。



 蒼白い光が消えて目を覚ますとそこは俺が異世界に来る前の場所だった。


 「俺……帰って……これた?」


 コンクリートの道路に住宅街…いつも見慣れてるのに夢みたいだ……。

 

 「やったああああああ!!」

 「おめでとう卓」

 「ああ!やった…ってええ!!」

 

 よく見ると木剣を携えたフローラが俺の隣にいた。


 「何でフローラがここに!?」

 「そりゃわたしもいたからな!巻き込まれたぞ!」


 ハッハッハッ!と豪快に笑っているフローラ。

 お前そんなキャラだったんか?


 「どうすんだよどうやって帰るんだお前!?」

 「知らん!」

 

 胸を張って言いきるな!


 「そうだ卓の家に連れてってくれ!」

 「はっ!?やだよ!!」

 「おいおいわたしをこのまま置いてく気か?」


 ここは異世界ではなく現実世界…もしフローラを置いてくと何をしでかすかわからない。


 「と言うわけで早く家に連れていけ!」

 「はあ……親父とお袋になんて説明すりゃいいんだ……」



 こうして俺は異世界から脱出に成功したのだが新たな問題を抱えることになったのは別の話である。

 

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