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魚人は、眉が無いので寄せられないのだが、額に皺を寄せてそれを見た。

黙って紙を読んでいるのでマジマジと魚人を眺めることが出来たのだが、髪もあるし鼻も低くはあるが、一応あって、人のような形をしている。

頬の辺りも手と同じように鱗があって、ここも苔が生えたように緑色をしている。

だが、どことなく人っぽいので、見れば見るほど、それほど怖いようにも思えなくなって来た。

「…君の種族って、その姿なのか?」

湊が言うと、相手は顔を上げた。

「オレ、モトハ オマエタチト オナジ。フツウニ セイカツシテタ。アルヒ、キュウニ ヘンカシテキテ、コウナッタ。ソシタラ、ナカマガ、ムカエニ キテクレタ。ソレカラ、ナカマト クラシテタ。ココニ、キュウニ イエガ タッタカラ、ミニキタラ デラレナクナッタ。キット、ナカマガ シンパイシテル。カエラナイト。」

元は人間。

だから、人の形に似ているのだ。

美里は、恐々聞いた。

「それって…みんな、なるかもしれないの?ある日突然?」

魚人は、首を振った。

「ソウイウ チガ ハイッテルトキイタ。オレ、マダ ヒトニニテルケド、ミンナハ モット チガウ。」

理久が、言った。

「深きものども。インスマスだ!」理久は、身を乗り出した。「でも、海なんじゃないのか?住んでるのは。」

魚人は、驚いたようで大きな目をさらに大きくしたが、答えた。

「シラナイノカ?カワガ チカクニアル。ウミカラ ノボッテキタンダ。」

この近くに河があるのか。

大河は、首を振った。

「知らないんだ。ここへは、連れて来られたから。山だと思っていたのに、海が近くにあるなんて。いや、河か。」

魚人は、下を向いた。

「…キット、ナカマガ シンパイシテル。カエラナイト。」

そうだよな、魚人にも仲間が居るよな。

五人は、何やらこの魚人に同情して親近感が湧いた。自分達と同じように、ここに閉じ込められているのだ。

弥生が、言った。

「それで、あなたに分かる?あなたが食事をした後、私達何も知らずに食堂に入ったら、車の鍵と一緒にこの紙があったの。」

魚人は、顔を上げて、深刻そうな様子で言った。

「…カミガ ミテイル。カミノ ミココロノママニ。ワレワレハ、シンエンノ カミニ トラワレテ イタノダ。カミノ ミココロノママ コウドウ シナイト ココカラ デラレナイ。」

深淵の神…?

「どういうこと?その紙を見ただけで分かるの?」

魚人は、その紙を持つ手を振った。

「コンナコトガ デキルノハ、カノカミシカ イナイノダ。カノカミガ オユルシ クダサルマデ ココヲ デルコトハ デキナイ。」

ニャルラトホテプか…。

全員が、思った。口に出して、出現したら嫌なので、誰もその名を口にはしなかったが、こんな風に人類に干渉して戯れに翻弄するのは、ニャルラトホテプしか居ない。他の邪神なら、こんな面倒な事をせず、ただ殺す。

それに、この仕事を依頼したのは、湊がニャルラトホテプだと信じて疑わない、ニクラスなのだ。

理久は、息をついた。

「分かった。その神が言っているのが、夜明けまでにその紙に書いてある条件をクリアしろって事なんだな。」


・誰もここから出ることは出来ないが、生きてる人と二人なら一緒なら出ることが出来る

・でも扉を抜けられるのは一人ずつ

・最後の一人は出られない

・最初の一人は肉片になる

・夜が明けたら仲良くみんなでおいしいご飯になるだろう

・だが気を付けて。一緒になれない人が一人混じっている。一緒になったらその場ですぐにご飯になるよ


「生きてる人と二人なら出られるのに、扉を抜けられるのは一人ずつってどういう事だと思う?」

美里が言うのに、大河は唸った。

「うーん、二人なのに一人しか扉を抜けられないってのが、最初から分からないんだよなあ。」

理久が、言った。

「最初の一人は肉片になるって事は、最初の一人は死ぬんじゃないのか?結局、みんな無事に出る方法なんかないんだ。」

弥生が、眉を寄せながら言う。

「でもね、一緒になれない人が一人混じってるのよ。一緒になったらすぐにご飯になるって事は、爆発するんでしょ?一緒になれないって何?この一緒ってどういう事なのかしら。」

湊が、険しい顔で言った。

「お手て繋いでって感じじゃないよな。そうしたら二人だもんな。一緒になった上で、一人でないと出られないってなると…どういう事だろう。」

魚人が、割り込んだ。

「クウンダ。」皆が仰天してのけ反ると、魚人は続けた。「シナナイ テイドニ クウ。ソシタラ、イキテル ヒトト イッショニナル。オレ、ヒトジャナイシ、オマエラノウチノ ダレカヲ ミナデ クッタラ ゼンイン デラレル。」

理久が、言った。

「あのな、オレ達は食人族じゃないんだよ。そんな簡単に食うってさあ…。」

「待って。」美里が、言った。「別に一緒になったらいいんだから、肉を食べなくてもいいと思うの。血とか。ちょっとでいいから、飲んだら良いんじゃないの?そしてその相手が生きてる状態で、玄関扉を出たらいいんだわ。」

魚人は、頷いた。

「チデモ イイト オモウ。」

だが、弥生が言った。

「でも、一緒になったらすぐご飯になる人が含まれてるのよ!それを、どうやって知るの?もしかして…ロシアンルーレット?」

全員が、その可能性を考えたようだった。

確かに、誰と一緒になったらいけないのか、分からないのだ。

「…つまり、大河がもしその一人だったとしたら、大河の血を飲んだら速攻爆発するって事だよね。」理久が言った。「爆発しなかったら、大丈夫ってことで、その一人をみんなで分け合えばいいんじゃ。」

湊が、首を振った。

「これ、一緒になれない人って事は、もし大河がその人だったとしたら、他の人の血…例えば、美里さんの血を大河が飲んだ瞬間、美里さんが爆発するんじゃないか?逆もありって事なんじゃ。」

そうか、逆もあるのか。

という事は…。

「…待て。という事は、その一緒になれない人ってのは、ここから出られないって事なんじゃ。」

理久が言うのに、湊はなんだか、冷静になった。その一人は、ここに残るしかない。つまり最初から、ニャルラトホテプはその一人を狙っているのだ。

という事は、もしかしたら、オレなんじゃ。

「…もしかしたら、オレじゃないのか。」皆がびっくりして湊を見るのに、湊は続けた。「だって、邪神に怯えてて、唯一あいつが正体を明かしたのはオレ。他のみんなは信じてもいないじゃないか。なんか、オレな気がするな。」

美里が、言った。

「私だって、言ってなかったけど、何となくニクラス教授が邪神だって思ってたわ。でも、考えないようにしてた。だから、分からないわ。知る方法が、分かれば良いんだけど…。」

全員が、考え込む顔をした。

知る方法など、試してみるしかない。

だが、そうしたら誰かが死ぬことになってしまう。

この中では、みんな魚人で試すことを推すだろうが、人ではないとはいえ、こうして一緒に考えようとしているのだ。

それなのに、裏切るのは人としてどうだろうと思えた。

それに、魚人だって抵抗するだろう。

「なあ…」大河が、ふと何かに目をくぎ付けにして、言った。「試すのって、人でなければいけないと思うか…?」

理久が、顔を上げた。

「どういう事だ?」

そうして、大河が見ている先を見る。

そこには、大きな人と見まごうほどのビスクドールが座っていた。

「そうか!みんなの血を、一人ずつビスクドールに飲ませて行ったら…、」

理久が言うのに、美里が興奮したように立ち上がって叫んだ。

「一緒になれない人の血を飲ませたところで、爆発するのよ!そうだわ、やってみましょう!いけるかもしれないわ!駄目だったら…誰の血でも、何も起こらないと思うけど。」

「試してみるしかない。」大河が、その大きなビスクドールを持って来て、椅子に座らせた。「よし。ええっと、そっちの斧の先でちょっと切るか?」

理久が、書棚の向こうにあるウィスキーやブランデー、グラスが入っている棚から、小さなショット用のグラスを五つ持って来た。

「インスマスは駄目だろ?オレ達だけだよな。」

魚人は頷いた。

「オレハ、ヒトデハナイカラ。ココニハ、イキテルヒトト カイテアル。」

「だよなー。」と、大河は、斧を手にして、顔をしかめた。「お前だったらすぐに傷が治るんだろうけど、オレは無理だからなあ。」

魚人は、不思議そうな顔をした。

「オレガ ヤロウカ?」皆がぎょっとした顔をすると、魚人は続けた。「オレガ ヤッタホウガ、タブン ナオルノハヤイゾ。」

弥生が、顔をしかめた。

「術か何か?痕になったら困るんだけどなあ。」

魚人は、人差し指を立てて、爪をにゅっと伸ばした。

「コレデ。イッシュンダゾ。」

そんな事が出来るのか。

皆は驚いたが、どうしようか迷った。

深く傷を付けられたら、どうしようかと思ったのだ。

だが、美里は思い切ったように、言った。

「…やってもらうわ。」と、メイド服の袖をグッと上げた。「お願い。ひと思いに。」

魚人は、頷いて躊躇いもなく、爪でその腕をスーッと引っ掻いた。

すると、見る間に腕から血がツーッと滲み出て、垂れて来た。

「早く!受けて受けて!」

美里が言うのに、理久が慌ててグラスでそれを受けた。そこそこ取れたところで、魚人がまた、その傷痕を撫でると、その傷は跡形もなくなった。

「すごいわ!」美里は、歓声を上げた。「全然痛くなかったし、一瞬よ?化け物なんて思っててごめんなさいだわ。」

魚人は、居心地悪そうにもじもじとした。

「ベツニ、オレ、ヒトジャナイシ。フツウハ、ヒトヲ ナオシタリ シナイ。」

今は仲間だからか…。

理久が、それを聞いて勢いよく手を出した。

「じゃあ!次、オレ!」

そうして、結局順番に魚人に手を切っては治してもらい、そうして五人分の血液は採取されたのだった。

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