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一階へと降りて行くと、弥生と、真っ黒なワンピースを来た美里が立って、管理室へと入ろうとしてドアを開いている所だった。

大河が、言った。

「なんだ、風呂から上がったのか?なんだ、その服は。」

弥生が言う。

「服はもう着られない状態だったから。あの、悪いと思ったけど傍のロッカーの中に掛けてあった、メイド服みたいなのを借りて来たの。従業員用のロッカーだと思うけど。それより、宮脇さんは居た?」

理久が、首を振った。

「誰も居なかった。でも、主の部屋の扉が開かなくて。鍵を取りに降りて来たんだ。」

美里が、言った。

「だから!宮脇さんが居るわけないでしょ?!あの、食堂であんなことになってるのが宮脇さんなの!私は見たんだから!あなた達、おかしいんじゃないの?!悠長にしてる場合じゃないのよ、ここから出ないと!」

大河が、まあまあと手を下へ押す仕草をしながら、言った。

「だから出られないんだよ。だから、宮脇さんに扉を開く方法を教えてもらおうと思って探してたんだ。管理室に、電話ってあったかな?」

開いた扉から、先に入って行った弥生は、回りを見回して正面のモニターの横に、使われているのかどうかも分からない、所々変色したプッシュフォン式の電話機を指さした。

「あれかな?でも、使えるのかしら。」

湊が、その後ろから入って行って、やたらとボタンが小さく、やたらと本体が大きい電話の受話器を取った。

耳に当てると、やはり何の音もしなかった。

「…通じてない。」と、その電話から繋がる、線を目で辿った。「…壁のジャックに繋がってるから、多分これを使ってたんだろう。でも、多分Wi-Fiが入ってたんだから、ネット電話で普段は済ませてたんじゃないかな。」

大河が、息をついた。

「ってことは、地下のケーブルか。また水没してたらどうする?繋げないぞ。」

弥生が、言った。

「でも、出られないんでしょう?だったら、なんとかして回線を復活させないと帰れないわ。」

美里が言う。

「窓は?窓を割って外に出られないの?」

理久が、答えた。

「オレ達がそれを考えないと思うか?一応二階の部屋も調べて来たけど、窓はなんか、ガラスでないみたいだった。叩いた時の音が鈍くて、あれは割れないぞ。キッチンもそうだ。」

どこもかしこも作り付けの窓。

まるで、閉じ込めるための屋敷のようだ。

「…とにかく、一度地下へ行ってみよう。」湊は、言った。「そこから地下道とかあるかも知れないし。ケーブルが通ってる空洞が大きかったら抜けられるかも。」

美里は、淡々と話し合う皆にイライラしながら言った。

「あなた達はどうしてそんなに落ち着いていられるの?!宮脇さんが、爆発して死んだのよ?!見たでしょう、あの肉塊は服を着ていたわ!それに、宮脇さんはどこにも居ない。私の言う通り、急に破裂したのよ!」

弥生が、言った。

「落ち着いて。分かってるわ、確かにそうかもしれない。でも、私達は直接見たわけではないし、信じたくないのよ。だって、出られないのよ?出られたらすぐにここを離れてるわ。今は落ち着いて、対策を考えなきゃ。外部との連絡手段を復活させるのが先なのよ。でないとずっとここに閉じ込められたままになるわ。」

美里は、黙った。騒いでも、ここから出られない以上、状況は変わらないのだ。

むしろ、皆でパニックになってしまったら、その方法も見付けられないだろう。

「…分かってる。でも、みんなが私を信じてくれないから。本当に見たのよ。それは、わかって欲しい。」

弥生は、あやすように言った。

「わかってる。大丈夫よ…今は、とにかく地下を調べに行きましょう。それから、どうするか決めるのよ。」

理久が、言った。

「…鍵、多分宮脇さんが持ってるんじゃないかって思ってる。」皆が理久を見ると、理久は続けた。「車の鍵もだけど、玄関の鍵も。もし、あれが宮脇さんなんだって言うのなら、調べてみたら良いんだよ。もし、鍵があったら宮脇さんなんだ。車の鍵みたいに、ピッて開けるようなの、持ってるんじゃないかな。それしか考えられないし。」

大河が、渋い顔をした。

「そうだとしても、あの血まみれの中に探しに行くのか?オレは…ちょっと無理かもしれん。」

湊も、同感だった。

それならとにかく、通信がなんとかなるなら、なんとかして助けを呼びたかった。

「…最終手段にしないか?」湊は、深刻な顔で言う。「今は助けを呼ぶ事に力を入れよう。無理なら、仕方ないからオレが一緒に行くよ、理久。他の人は誰も行きたくないんだろ?」

弥生は、視線を落として下を向いた。

美里も、あんな目にあった場所に戻って、宮脇の死体だと信じているものを漁るなど、恐らく出来ないだろう。

だとしたら、自分達しか居ないのだ。

「…分かった。じゃあ、まず地下室へ降りよう。」

理久が頷いて、大河は床にある取手を掴み、それを持ち上げた。

そこには、真っ暗な階段が下へと伸びているのが見えた。


下まで、暗くて見えない。

「…電気、着けても大丈夫そうか?」大河は、そこを覗き込んで言う。「なんか、水の臭いがするし、湿っぽいぞ。」

「懐中電灯があるよ。」理久は、言って自分の荷物を漁った。「ほら、あんまり大きいのじゃないけど。」

大河は、頷いた。

「ああ、オレも作業用に持って来てるよ。そっちのカバンの中を見てくれないか。」

弥生は、言われて自分の足元にある大河のカバンを開き、中を調べた。

そして、ペンライトのような物を出した。

「これ?」と、顔をしかめる。「小さくない?」

大河は、それを受け取って言った。

「」探検じゃないんだぞ。配電盤の中とか見るために持ってるだけなんだ。」

理久が、自分の懐中電灯で階段を照らした。

「オレが先に行くよ。電気がつけられそうならつけてもいいと思うし、調べて見る。」

ぴちょん、ぴちょんと雫が落ちて来る中、理久は階段へと足を踏み出した。

理久だけを行かせるわけにもいかず、湊は大河をせっついた。

「足元を照らしてくれ。行くぞ。」

大河は、仕方なく階段を降り始めた。

すると、理久の声がした。

「あった!地下室の扉だよ。」

そんなに遠くない。

理久は、扉の前で立っていて、懐中電灯の明かりでそれが浮かび上がって見えていた。

下まで、二十段ほどだろうか。

その扉は、鉄製で所々錆びが浮いていた。

「湿っぽいなー。」大河が、びくびくとしながら降りて、言う。「どうだ?いけそうか。」

理久は、扉をソッと押して開いて、中を見回した。キイイっと、擦れるような音がする。

中からは、ムワッと生臭い匂いがした。

「…床が湿っぽいけど、浸水はしてない。」と、先々中へと入って行く。「でも、天井は平気だな。裸電球だけど、線は上から来てるから、着けても大丈夫そうだよ。」

理久は、念のため入り口へと戻って来てから、手だけ差し入れて入り口横の壁にあるスイッチを入れた。

すると、パッと電球が灯り、中は明るく照らされた。

「…大丈夫だな。」大河は、視界が利くようになってホッとしたのか、中へ入った。

湊もそれに続き、女子達もその後に続いて入って来る。

そこは、当たり前だが窓も何もない。物置にしているようだった。

真ん中に木箱が幾つか集めて置かれてあり、一番下の木箱の底は湿った床と接して変色している。

そして、湿気ているので滲んではいたが、何かの赤いインクのような物が、所々残っていた。床に、何か書いてあったのかもしれない。

「…なんだ?お絵描きでもしてたのか?」

理久が言う。

湊が、あ、と手を打った。

「そうだ、昨日の日誌だ。言おうと思ったけど、美里さんの悲鳴で忘れてた。昨日の日誌に書いてたんだよ。閉めておいたはずの地下室の鍵が開いていたって。遡って行ったら、一カ月ほど前から、地下室ばかり何某か問題が起こっているみたいだ。」

大河が眉を寄せた。

「例えばどんな?」

湊は、思い出そうと目を虚空に向けた。

「まず、最初に気付いたのは、電話が繋がらなくなったからと地下へ調べに降りた時だった。扉を開くと、変な絵柄みたいなものが床に殴り書きされていて、湿気が酷くて床は水浸しだったらしい。その報告の写真もあった。これは地下のケーブルが水に浸かったせいだと、急いで業者を読んで水を排出させて、乾かしてケーブルを新しいのに変えた。それから、新しい鍵に変えて、誰も入れないようにしたみたいなんだけど…」

理久が、眉を寄せたまま言った。

「また侵入されたんだね。」

湊は、頷いた。

「そう。その度に、水浸しだったり焦げ跡があったりして、何かしらイタズラされている痕跡が残っていたらしいな。何しろこんな山奥だし、こんな屋敷を知っている人も少ないから、同一犯じゃないかと思ってはいたようだけど、警察に通報してしばらく見回りをしてもらったりもしていたのに、犯人は姿を見せなかったらしいよ。でも、確かに誰も屋敷に近付いていないはずなのに、やっぱり地下室には異変が起こっていたみたい。何か盗られているわけでもないし、ここの主人は長期化しそうで面倒になってそれ以上警察にも言わなかったようで。今回、犯人の姿をとらえたいから、こうしてセキュリティシステムを一新しようと思ってるみたいだな。」

大河は、脇の溝のような、金の格子が嵌まっている隙間を見下ろして、言った。

「…ってことは、また水没か。」と、ペンライトを、その溝へと向けて、言った。「ケーブルって、これじゃあないか?」

理久と湊が、そちらへ寄って行ってその溝を覗き込むと、理久の懐中電灯に照らされて、黄色や赤、青のケーブルがあるのが見えた。

そしてそれは、そこに溜まった水の中に沈んでいた。

「沈んでるなー。地下水がこの下に流れてるのかも知れないなあ。どうにかならないか、見てみよう。」と、大河は、格子を外した。「横向きになら入れそうだ。ちょっと見るか。」

理久が、言った。

「オレが照らすよ。」

そうして、二人がケーブルを何とかして水没から救おうと動き出したのを見ていると、後ろから弥生が言った。

「湊くん、ちょっと見て。」

湊は、振り返った。

「なに?」

弥生は、美里を二人で木箱の中を覗いていた。

「ほら。こんなのがある。」

湊は、言われてそちらへと歩いて行って、木箱の中を覗いた。

すると、中はガランとしていて、古い洋書が一冊と、使いさしのロウソクが二本、無いやらどす黒い液体の入った小瓶が一個入っていた。

「…なんだこれ?」湊は、顔をしかめて蝋燭を手にした。「使ってあるよね。」

美里は、頷く。

「多分、日誌に書いてあったっていう奴じゃない?落書きと、蝋燭って…なんか、魔術みたいよね。」

魔術、と聞いて湊はグッと目に見えて不機嫌な顔になった。美里は、あ、と一瞬口を押えたが、それでも、言った。

「…湊くん、とっくに吹っ切れてるかと思ってた。大河くんや理久くんが、まだ駄目だって言ってたけど、普通に話してたから。まだ、気にしてるの?」

湊は、フンと横を向いて言った。

「まだあれから二年経ってないぐらいなんだ。ここまで平気なふりをするのもやっとなんだ。分かってくれてると思ってたのに。」

湊は、不貞腐れた顔をした。美里だけが、唯一分かってくれると思っていた。何しろ、あの邪神との戦いの時、最後まで一緒に戦ったのは美里で、他の人達に比べて記憶が多くあるはずだからだ。

困ったように美里が黙る中、湊がやり場のない視線を木箱の中の他の物へと移すと、古い洋書が、ラテン語だが、英語のフリガナがついているのに、ふと気付いた。

…魔導書…。

湊は、背筋を冷たい物が滑り落ちるのを感じた。表紙に、魔導書と書いてある。

湊がそれを見て固まっているのを見て、弥生と美里は、怪訝な顔をした。

「…湊くん?どうしたの?」

湊は、美里を見た。その目を見た、美里は驚いた…目が、落ちくぼんでいる。

「どうしたのよ?それが何?なんて書いてあるの?」

湊は、震えて来る指先で、その表紙を指さした。

「…魔導書って書いてある。」湊は、ガクガクと震えて来る体を押さえようとしたが、収まらなかった。「ラテン語は分からないけど、英語でルビがふってあるんだ。これは、魔導書だって…。」

「湊くん!」

湊は、目の前が急に真っ暗になって、慌てたような美里と弥生の声を最後に、何も分からなくなった。

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