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3(裏)

男女の二人は、一路食堂を目指して歩いて行っていた。

どうやら、あの肉塊の中から何かを探して来ようとやっと考えたらしかった。

早く発見して欲しくて、待っていたのだ。誰かが、食堂に来ることを。

あの、見つかり掛けた工作班は、わざと鍵を血にまみれさせ、そうして飛び散った豚の肉はそのほとんどをゴミ袋に回収し、謎かけを書いた紙を置き、偽物の足跡を丁寧に床にスタンプして、きちんと仕事を終えていた。

つまりあの直後から、ここで発見されるのを待っていたのだ。

これを発見しないことには、先に進まない。

やっと進むのかと、要はため息をついた。

「…湊が意識を回復しました。」

要は、別のモニターを見た。

確かに湊は意識を戻し、何やら残った二人と話している。

ものの数分の意識喪失なので、体調は問題なさそうだった。

食堂へと、恐る恐る入って来た二人が、床を見て何やら狼狽えた顔をしていた。

恐らく、ほとんどの肉がないのを気取って、理解が追い付いていないのだ。

理久の視線が、スタンプされた足跡に釘付けになったと思った瞬間、理久は叫び声を上げた。

「うわあああ!!」

他の誰かの存在に気付いたようだ。

管理室のモニターでは、残った三人が扉の方を見たと思うと、立ち上がった。

「残りの三人も管理室を出て食堂へ向かいます。」

デニスが、淡々と言う。

さあ、これで謎はやっと五人の手に渡った。

ここからが、謎解きなのだ。

ここまで長かった、と、要はやっと進むとモニターを睨んだのだった。


「魚人は待機出来てるか?」

クリスが頷く。

「魚人役の特殊メイクをしたシリルは主の部屋で待機中だ。肉ロボットの方も主の部屋のバスルームに移動してある。いつでも運び出せる。」

要は、頷いた。とはいえ、魚人が爆発する選択をしたら、シリルはすぐに退場だ。バスルームで、ロボットと交代してそこからはこちらでロボットを操作して、後はドカンで終わりになる。

そして、その時点で全員生存ルートはなくなるシナリオだった。

「上手く誘導出来たらいいんだがな。」ハリーが言う。「ジョンの出番が来るためには、魚人に爆発してもらわないと。」

クリスが言う。

「なに、罠はいくらでもあるさ。だが、シリルが特殊メイクのせいで話しづらいとこぼしていたぞ。片言の言葉が上手く伝わればいいが。」

シリルは同じアジア人なので、うまい具合に日本人が変化したように装う事が出来た。

口には形を変えるために、特殊なゴム性のマウスピースを付けていた。それが舌の上に乗っているので、上手く話せないのだ。

そこに映像と、薬品の効果が重なるので、上手く騙されてくれるだろうとは思われた。

とはいえ、あの五人の動きは遅い。

管理室に籠ってから、まだ何やらぐずぐずと話し合っていた。

「…シリルが疲れて来て主の部屋のベッドで寝てますね。」デニスが、振り返って言う。「こめかみに隠してある骨伝導のイヤホンは正常に作動しているので、起こそうと思ったらいつでも起こせるんですけど。」

特殊メイクの時に、そこに薄型のイヤホンを装着してあるのだ。

骨伝導なら、耳を塞ぐ必要がないので、便利だろうとやってみたが、案外にいい感じだった。

だが、あまりに長時間になると、いろいろ負担になって来るだろうし、出来たら早く主の部屋へと行ってもらいたい。

だが、五人はまだ、魔導書を読む段階だった。

「…まあ、そのまま寝かしておいてやれ。時間が掛かり過ぎなんだよな。夜明けまでだってのに、分かってるのか。魚人に会わないと先に進まないのに。」

クリスは、首を傾げた。

「まあ…会わなくても、あの謎さえ解けたら何とかなるんだけどな。ビスクドールを使うってのを思いついて、何とか手に入れて…一緒になれない一人ってのの、ロシアンルーレットに打ち勝てばの話だが。」

「それは無理でしょう。」デニスが言った。「とてもじゃないが、そこまで頭が回るとは思えない。この時間の掛かりようですよ?この前は一緒に行動していたので、いろいろ促せましたけど、今回は完全に彼ら任せですからね。まさかここまでどうにもならないとは思いませんでした。」

デニスは、この前の実験の時も参加して演じてくれていた。あの時はここまで、遅々として進まないとは思わなかったのだろう。

何しろ、彰とデニスが一緒に行動し、先へ進めるようにと促し続けたのだ。

今回は、時間が掛かるのは当然だったのかもしれない。

モニターの中では、念入りに作られた管理日誌と魔道書を、皆で覗き込んで話している。

「なんだか管理日誌と今さらに突き合わせて考えてるな。」クリスが、息をついた。「やる気があるのかこいつらは。さっき日誌を見ていた時に全て情報を共有しておくべきだろう。二度手間じゃないか。それに、ことここに及んでもまだ邪神は居ないとか意地になってる奴が居るし。邪神の存在云々ではなく、ここから脱出するのが目的だろうが。簡単に本質的な問題を忘れるのだ…もっと単純なシナリオにすれば良かったか。順番に見て行けば答えが出て来るような。」

それを聞いていた、博正が言った。

「こらこら、お前ら自分の基準で考えるな。一般人なんだから戸惑って当然だろうが。まして、こっちからしたらこれはゲームだが、あいつらから見たら現実なんだ。必死に考えてあれなの。もっと大きな心で見てやれよ。それが嫌なら身内でやれ。研究所の奴らなら誰でもお前らと同じ速さで考えて判断できるんだろうからさ。」

言われて、皆黙り込む。

要は、言った。

「そうだよね、ごめん。基準がこっちだから、ついイライラしちゃって。このままじゃクライマックスまで間に合わないから、時間切れで終わりとかなって、それこそ尻切れトンボだと焦ってね。まだ時間はあるし…焦らないで見てるよ。」

そうは言っても、まあイライラするんだけどね。

要は、思った。何しろ、前の時は少し、探索者たちに同情気味だったデニスですら、今回は結構イライラしているのだ。

思ったより、探索者たちが手こずっていて時間が押してるのは確かだった。

「あ、まただ!」ハリーが叫ぶ。「クソ、あいつ何回気を失うんだよ!」

言われて、慌てて要はモニターを見た。

そこでは、湊が彰が扮しているニクラスがこの仕事の依頼者だと知って、気を失って倒れているのが映っていた。


小屋のモニター室では、要がイライラとペンを振っていた。

湊が気を失ってから、もう三時間以上経つ。

気付け薬を噴霧して、強制的に目覚めさせても良かったが、湊だけではなく女子二人が側に残っているので、それらもまとめて影響を受けることになり、異常な興奮状態などになられたら面倒だったのでまだやっていなかった。

残った男達が必死に玄関の扉を破ろうとしたり、窓を破ろうとしていたが、そんな事は出来るはずなどなかった。

ここは、元々野生の熊や鹿、イノシシが出るのでその対策として、かなり頑丈に作られているのだ。

加えて、彰が所有するようになってからは、窓をアクリル板に換えて、熊の侵入が絶対に出来ないようにと対策してある。

なので、入っては来れないが、出る事も出来ない仕様になっていた。

「無駄だって。」要が、思わず言った。「そんな事より、謎を解けよ。もう10時過ぎたぞ。」

もう、半ば諦めて、要は言った。

シリルは、すっかり熟睡してさっき目覚めて慌ててこちらに連絡してきたが、まだだと知って失望していた。

仕方がないので、マウスピースを外してあの部屋の棚に置いてあったペットボトルの水を飲みながら、菓子を食べて、部屋に備品として置いてある本を読みながら時を待っていた。

そんなシリルを、宮脇役で同じように屋敷に入っていた真司がモニター越しに見て、言った。

「気の毒だなあ、あんなところで。オレじゃなくて良かったよ。スマホの電波も無いのに、やってられないしな。あの本だって、英語かドイツ語かなんかだろう?オレにはチンプンカンプンだ。」

デニスが答えた。

「あれは英語。真司だって英語は少し分かるじゃないか。」

真司は、デニスを見て言った。

「お前らが最低でも4、5か国語理解するのにオレは英語すら満足に出来ないけどな。ほんと、よくあの研究所で暮らせてるよ、オレ達は。」

博正が、脇でハッハと笑った。

「オレ達は人狼だからいいの。オレは最近、そう思う事にしたね。要が元に戻せるって言ったのに、お前も人狼のままでいることを選んだんだろ?嫌ならさっさと人類に戻って普通の生活にもどりゃ良かったのに。」

そうなのだ。

最近になって、やっとの事で細菌を使った方法で、人狼からヒトへと戻すことに、成功したのだ。

他の検体でそれが出来たのだが、それらは元に戻る事を望んだ。なので、施術をした後は記憶もすっかり奪い、元の家族の下へと帰したのだ。

それを見ていた、一番最初に人狼になった真司と博正は、ヒトへと戻るのを拒否した。

もう人狼としてこの研究所で働くことに慣れ、ここの者達のとの交流で皆と親しくなり、それらを全て捨ててまで、ヒトに戻りたくないと思ったらしい。

もう、既に自分達は人狼としての感覚を当然として生きている。今さらに、鈍いヒトになって生きては行けないと、彼らは判断したのだ。

そんなわけで、最初は全くアウェイな感じだった博正と真司も、ここ最近は本格的に仲間として振る舞い、こちらにとても協力的に行動してくれていた。

人狼である二人の協力は、とてもありがたい。

何しろ感覚がとても鋭敏で、匂いも音も、かなりの距離から感知することが出来るし、狼の姿になれば走るのもかなり速かった。

研究所員たちも、優秀な頭脳の持ち主の集まりなので、確かに鈍い知能には眉をひそめることが多かったのだが、人狼である二人には敬意を払っている。

誰にでもなれるものではなく、そしてなれた二人はとても優秀な能力を持っているので、そちらを評価しているからだった。

何事にも、優れている者のことは、何やかんや言っても彰も尊重した言動をする。

彼らの判断基準は、何も勉学だのIQだのだけではないのだ。

要がそんなことに思いを馳せていると、やっと動きがあったようで、デニスの顔色が変わった。

「…移動します!主の部屋を窺っていた男達が戻った後、湊が目を覚ましてやっと納得したようで。二階へ向かいます。」

要は、急いで言った。

「シリルに連絡。あちらの出方を見て、行く方向を決めてくれるように伝えてくれ。シナリオは頭に入っているんだし、そこはシリルに任せる。」

デニスは頷いて、通信を始めた。

モニターの中のシリルが、慌てて本を片付けてマウスピースを装着しているのが見えた。

ここ数時間、退屈で仕方がなかったが、これで先へと進めるはず。

彰も、呼ばなければ。

要は、博正に頼んで、隣室で休んでいる彰を呼びに行かせたのだった。

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