表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/66

我慢って……

 掘っ立て小屋の周りには何もない。

 よく襲われなかったとは思うが、それはドリスの技量なのかもしれない。


 屋根もまともじゃない小屋である。

 木を組んだだけの梁に、魔物の皮の壁。

 せめて木の壁が欲しいな。

 冬は寒いんじゃないのか?


 ノコギリ欲しい、金槌も欲しい、釘も無いなぁ。


 そんな事を考えていると、オレゴルが体を摺り寄せる。

 俺は背中を撫でた。

 するりと滑るように動き俺に対峙する。

「オレゴルは俺をどうするつもりだったんだ?

 ドリスより先に取ってしまうって言ってたらしいが」

 フンとそっぽを向くとオレゴルは森の中に消えた。


 飯でも食いに行ったのかね。


 そして掘っ立て小屋から出てきたドリスに、

「家、作り直す。

 冬、寒い」

 と俺が言うと、

「冬は我慢」


 お坊さんの回答。

 いや、それ違うから……。


「家造ろっか?

 木材なんてないよね」

 ドリスは頷いた。


 だよねー。


 掘っ立て小屋の素材など、折れた枝のようなモノだけだったのだ。


 ふむ。


 ドリスより多いという魔力を信用してと……。

 基礎は一辺八メートルの正方形で、高さが三メートルほどの四角柱。

 キッチンとオレゴルの部屋で二部屋。

 これは土間にする。

 後は俺の部屋とドリスの部屋だろうな。

 ここは床板を張る。


 地面に手を添え、魔力を流すと土が角柱に盛り上がった。


 サイズは……多分八メートル以上。

 高さも少し大きいが、まあ、仕方ない。

 大体だ。


 オレゴルの部屋に外との出入り口を作ることにして手を添えると、縦に二メートル、横一メートルの長方形に削れた。

 そこから二十五センチほどの壁が残るようにくり抜く。


「オレゴルの部屋完成」


 同じようにして、残りの土間と俺とドリス用の部屋を作った。

 俺とドリスの部屋は一段高くしておく。

 各部屋には一つずつ窓をつけた。

 形になったところで魔力を流し壁の硬度を上げる。


 一応終わったころに、ドリスが中に入ってきた。

「もうこの家使う?」

「いやまだ、床を作らないと」


 次の日には、周囲にあった木を数本伐り、枝を打ち皮を剥くと、水分を抜いて急速乾燥させた。

 超高圧水を噴出し、大体同じ幅で厚さの板を作る。

 根太用の正方形の角柱も作った。

 紐を使って部屋に合わせた採寸をすると、根太を敷きその上に板をのせる。

 釘はドリスが持っていた古い武器を加工する。


「金属がないか」

 と聞くと、俺の手を引っ張り魔物の皮で被せたものを指差す。

 包みを開けると、斧や剣、盾、鎧などが積んであった。

「私の体を狙って襲ってきた人間たちのもの。

 返り討ちにした」

 と言っていた。

 一応「なむー」だな。


 金槌も頭を作って柄をつけて出来上がり。

 ドリスに手伝ってもらって、板の間完成。


 天然木の幅広の板。

 前の世界ならいくらかかるのやら……。

 板の間には掘っ立て小屋で壁代わりの魔物たちの皮を敷いた。

 部屋の仕切りも魔物の皮で……。

 鉄で蝶番を作り、窓は突き出し窓にして、棒一本で開閉できるようにした。


 遅ればせながら竈も作る。

 煙は壁の中の煙突を通り、上に抜けるようにした。

 残った木材を使って簡単な椅子とテーブルを作る。

 鉄でフックを作り、包丁代わりの総金属製ナイフをひっかけた。

 金属を使って鍋とフライパンも作ってひっかける。

 食器棚も作って、少ない食器に余った木材で大皿小皿、ナイフにフォークにスプーン、コップを作って置く。

 更には小さなツボを作って、その中に塩を入れた。

 竈の横に調理台を作る。

 シンクっぽいのもつけておく。

 排水は外へ……。


 俺やドリスなら、水道が無くても水が出せるだろう。

 まあ、水道のように水が出る方法も考えないとな……。


 入り口は引き戸にしておく。

 オレゴルが出入りできないからだ。


 大工道具が金槌だけで、ここまでできるとは。

 魔法さまさまだ。

 また、気が付いたらDIYしよう。


 気が付くと飯も食わずに夕方。

 そして、二日ほどで作ったセメント打ちっぱなし小さな要塞のような家をドリスもオレゴルも冷ややかな目で見ていた。

「ここがドリスの部屋」

 俺はドリスに説明した。


 掘っ立て小屋に比べれば格段に良くなっていると思う。


 しかしドリスは、

「私、アキトと一緒」

 と言って、寝るときに使っている毛皮を俺の部屋に置く。

「寝るときはそれでいい。

 自分の物もある。

 その物を置く場所」

 と俺が言うと、

「わかった」

 と言って頷いていた。


 上手く爪をひっかけて引き戸を開けると、オレゴルが入り口から入ってくる。

「お前はこの部屋で寝ていいから」

 そう言うと、俺をちらりと見てはしっこの方でくるりと丸まって寝始めた。

 尻尾がゆったりと振れている。

 気に入ってもらえたようだ。


 掘っ立て小屋は壁に貼ってあった魔物の毛皮もなくなり、枯れた太い枝を使った柱だけになっていた。

 俺の横に来たドリスが、

「冬用の食糧の準備が要る」

 と呟く。

「そうか、俺の分も要るし」

 オレゴルの方を見ると、

「ナーゴ」と鳴いて「自分の分も要る」と主張した。


 食料庫のような倉庫も居るだろうなぁ。

 冬の寒さを和らげるなら風呂もか……。

 風呂は排水をしっかりしておけばいい。

 家を作った要領で問題ないだろう。

 後は、家の中央にでもストーブを置いて、セントラルヒーティングを考えるかね。


 さっそく、オレゴルの部屋の向こうに風呂を、キッチンの奥に食料庫を作る。

 食料庫は外からでも入れるように板戸をつけた。


 俺は出来上がった風呂に湯を張る。

 大気の水分をいただけばすぐだった。

 そして水を温めて湯にする。


 久々の風呂。

 ここ数か月は行水のみの生活。

 石鹸はないが浸かるだけでも体が軽くなったような気がした。

 冬には体が温まると思う。


 ドリスも俺に続いて風呂に入った。

 気持ち良かったのだろう……肌を赤く火照らせ髪を拭きながら現れる。

「おいで」

 とキッチンの椅子を指差すと、そこに座る。

 手櫛ではあるが、ドライヤーのように手から温風を出して乾かすと、目を細めて気持ちよさそうにしていた。

 風呂のたびにやってくれとねだられるようになる。


 家ができたこの日に初めて、お互いに温かくなって寝ることができた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ