告白
二人と一匹で掘っ立て小屋に戻ると俺はツボに水を張り、持って帰った岩塩を握り崩してツボに入れた。
軽く混ぜると、そのまま一日ほど不純物が下に溜まるのを待つことにした。
「どうかした?」
俺を見るドリスの顔が呆れている。
「普通その岩は握るだけで崩れたりはしない。
あのクマの時もそう思った。
アキトはバケモノ。
優しい……バケモノ」
そう言うと、ドリスはオレゴルが狩ってきた魔物を解体し始めた。
それをオレゴルはじっと見る。
解体が終わった肉をドリスはオレゴルの前に置く。
ガリガリと骨を砕く音を立てながらオレゴルは肉を食べている。
ドリスが剥いだ皮を張り乾燥させ始めた。
木漏れ日が心地いい。
四季はあるのだろうか。
俺がこの世界に来た時が暑かったことを考えると、今は秋か……。
確かに木の葉が色づいている。
あのコンクリートだらけの所で、こんなふうに季節を感じたことは無かったな。
食事が終わったのか、オレゴルが俺の横で丸まった。
長い尻尾をフンフンと振り、俺に当ててくる。
チラチラと俺を見るのは「撫でろ」ってことなのだろう。
俺は一応「主人」って聞いたんだがねぇ。
軽く背骨辺りを撫でると、オレゴルは気持ちよさそうに「ナーゴ」と鳴く。
ドリスが俺を見て、フンと鼻息荒いため息をついて、小屋の中に入っていった。
俺は夕食を終えると、近くを流れる川に向かう。
風呂などは無い。
冷たい川の水で体を洗う。
いつもは一人で水浴びをするが、今日はなぜかドリスも来た。
オレゴルは川原に座り、俺たちを見守る。
長い尻尾をフリフリと振っていた。
「俺、男。
女が一緒、良くない」
俺もいい体をしている訳ではないので、あまり見られてもな。
「アキトは勘違いしている。
私はあなたの物。
命を助けてくれたあなたの物」
そう言うと、ドリスが着ている服がはらはらと落ちた。
今まで見たことが無いくらい赤い顔をするドリス。
「そんな事……」
「オレゴルはあなたが欲しい。
私もあなたが欲しい。
私の方がアキトに会うのが早かった。
だから、私はオレゴルより先に私の心を言う」
「何故、今?」
「このままだとオレゴルが先に貰うって言った」
先に貰うってどういう事?
俺がオレゴルを見ると、ツンとそっぽを向く。
「後押し?」
と俺が呟くとオレゴルは後ろを向いた。
ドリスは真っ白な肌を晒す。
そして薄い胸を俺の背に押し付けた。
「助けたのはたまたま」
「アキトはたまたま。
でも私はちがう。
運命」
そう言った後、ドリスは身の上を話し始めた。
元々ドリスはエルフだけの遠くの村に住んでいたらしい。
ある日、人間と獣人たちが村を襲う。
理由は「美しいエルフの奴隷は高く売れる」から。
女性だけでなく男性も需要があるらしい。
千年以上も前にエルフと人間の戦いがあり、その時にエルフが負けてからは隠れて暮らすエルフを捕まえて奴隷にするということが続いているということだ。
ドリスは母親に言われ、村を抜け出し、森を何日も走ってここにたどり着いた。
あの小屋も自分で作ったという。
「俺、その人間」
と俺は言う。
「違う、いい人間。
私を助けたいい人間」
と言って首を振る。
「ドグロスの前でドリス、俺を助けてくれた。
だから、助けた」
「それでも、放っておいてもいい。
奴隷にするなら大体でいい。
全部治した。
それからアキトが好きになった。
二人で暮らせるようになって嬉しかった」
感謝が好意になっているだけじゃないのか?
まっすぐな好意に俺は混乱した。
俺を見上げ返事を待つドリス。
今更……どうしろと?
「俺はそんなに若くない?
いいのか?」
「何歳?」
「四十過ぎ」
「ドリス、七十三歳。
アキト小僧」
そう言ってドリスが笑った。
「エルフ基準で言われてもな」
俺は頭を掻いた。
はあ……。
ため息とともに心を決める。
「さっさと体を洗って、小屋に戻る。
抱くならそこ」
「うん」
俺たちは二人で体を洗って小屋に戻るのだった。