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縄張り荒らし?

 ある日ドリスに、

「獲物が集まる。

 石を舐める場所。

 あるか?」

 と聞いてみた。

 ドリスはコクリと頷く。

「連れて行って」

 と頼むと、ドリスは俺を引っ張って行った。

 引っ張られるがまま歩くと、ある場所で「静かにしろ」と人差し指を口の前に持ってきた。

 そこでは牛やシカのような草食動物が集まり、崖に露出した白い塊を舐める。


 岩塩か。


 早速確認しようとして、壁の前に行こうとすると、ドリスに止められてしまう。

「オレゴル。

 この森の守り神」

 ドリスが何かを指差し俺の耳元で言った。

 見ると木の上に大きなネコ科に見える魔物が居る。

 暗いグリーンの体毛が保護色になり、森に溶け込む。

 体長は二メートルを超えていた。

 尻尾が長く、尻尾を含めば四メートルはあるだろうか。


 待てども待てども岩塩には入れ代わり立ち代わり魔物たちが居る。

 それを見て獲物を吟味するオレゴルも居た。


 脅せば逃げてくれるかね?


 俺は大声を上げて壁に向かって走った。

 草食の魔物たちは散り散りになって逃げる。

 オレゴルは耳をピクリと動かしただけで俺をじっと見ていた。


 目をそらしたら襲われる?


 そんなことを思いながらオレゴルの目を睨みつけると、急に何か周囲の雰囲気が変わったような気がした。

 オレゴルはひょいと木の上から飛び降り、俺の前に来ると頭を下げる。

 ドリスを振り返って見ると、驚いた顔をしていた。

 そしてオレゴルは家猫が甘えるように体を俺に擦り付ける。

 更には近くで丸くなると毛づくろいを始める。


 ん?


「アキトの威圧のせいでオレゴルがアキトの下に付いた。

 オレゴルはアキトを主人にした」

 ドリスがそう言いながら俺に近づいてくると、それを阻むかのようにオレゴルは俺とドリスの間に入り、立ちふさがる。


 俺を自分の物にするつもりか?

 でも、俺が主人になったのなら。


「コラ!」

 と軽く言うと、オレゴルは悲しい目で俺を見る。

 そして、

「ちょっと来い」

 と、命令すると、しょぼんと耳を伏せ、頭としっぽを下げて俺のところに来た。


 怒られると思っているようだ。


 俺は猫の弱点の一つだと思っている喉を、コリコリと撫でてやった。

 オレゴルが驚き、耳がピンと立つ。

 体がフルフルと震えた。

 その後、耳裏と背中をワシワシと撫でると、オレゴルが身をぱたりと倒れるのだった。


 ん?

 気持ち良すぎた?


「オレゴルを手玉に……」

 唖然とするドリス。

「俺は、オレゴルによく似た魔物を飼っていたんだ。

 だから、気持ちよさそうなところを知っているだけ。

 まあ、実際気持ち良かったみたいだがな」


 起き上がったオレゴルは俺を舐める。

 ネコ科特有のザラザラとした舌が俺の頬を削った。

 荒い紙やすりで削られるような感じ。

「イテテテテ……」

 と、俺が言うと悲しそうな目をしてやめる。


 愛情表現だったのかもな。

 否定されたから、凹んだのかね。


 オレゴルに解放された俺は崖のほうへ行った。

 露出した岩を舐めると、特有な塩辛さを感じる。

 やはり岩塩だった。

 しかし不純物も多い。


 溶かして上澄みを汲み取り、水分を抜くかね。

 もしかしたら奥に純度の高い岩塩があるのかもしれないが、そこまで確認するのは無理か。

 仕方ないので毛皮を脱ぎ岩塩の欠片を入れて風呂敷のように包んで小脇に持った。

 不思議そうにするドリスとオレゴルだが、

「俺の用事終わった。

 帰る」

 とドリスに言い、ドリスに手を引かれてあばら家に戻ろうとする。

 俺たちに付いてこようとするオレゴル。

「お前も来るのか?」

 と聞いてみると、

「なー」

 と鳴いて頷いた。

「食べ物は無いぞ?」

 俺が言うとすぐにどこかに消え、また戻ってきたときには鹿のような魔物を咥えている。

「自分の食事は自分で準備できるってか?」

 再び、

「なー」

 と鳴くオレゴル。

 その鳴き声は、家猫がネズミを捕ってきて主人に褒めてもらいたいような、甘えた声だった。


 俺はちらりとドリスを見ると、

「自分で獲物を取る。

 ならいい」

 仕方ないという顔で頷く。

 言葉の意味を理解したのか、オレゴルは耳を立てると

「なーご」

 と鳴いた。

 その時のオレゴルは、口角が上がっていたような気がする。


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