料理の味は塩で決まる
俺の服装はドリスが作った革製のズボンに草の繊維で織ったような布でできたシャツに変わる。
その上に革のジャケット。
合皮の皮靴はそのまま使用。
靴はなかなかないらしい。
ドリスの靴は何かの皮で作った靴下のようなもの。
今まで使っていたスーツは畳んで別の場所に置いた。
そんなことがあって数か月経った。
ドリスは俺を追い出すでもなく一緒に生活している。
身振り手振りを交えて言葉も教えてくれるので、何とか意思疎通程度なら可能になると、俺はドリスに付いて山菜取りなどを色々手伝うようになっていた。
ああ、あの時のクマはしばらくの間、俺たちの食卓をにぎわした。
と言ってもクマ汁。
クマの肉を入れて香草と煮ただけ。
穀物は無く山菜や木の実。
正直あまり美味しくない。
それが彼女にとって当たり前の食事なのだろう。
クマの皮は綺麗に干され、鞣されていた。
掘っ立て小屋の床を飾る。
フワフワで温かい。
頭骨と爪は取り外されていた。
武器の材料になるそうだ。
俺は味に飢えていた。
ドリスは骨など興味は無い。
解体して残った骨はすべて捨ててしまう。
内臓でさえそうなのだ。
俺はバウラントというイノシシのような骨を貰い、綺麗に血肉を取り、それをバキバキと折って水で煮込みスープを作った。
ドリスとの採取で森の中で見つけた山菜なども一緒に煮込む。
丁寧に灰汁を取り、中身を濾してクマ骨スープを作った。
そのスープの中に山菜を入れ、更にはクマの小腸を湯がいて綺麗に洗ったものを細かく切って一緒に炊き上げる。
モツ鍋だ。
香草で味を調えて出来上がった。
味見をすると「まだまし」ってところ。
某料理長のように「塩が足りんのです」と言いたいところだ。
鍋の中身を木のスープ皿に注ぎドリスの前に置いた。
「今日、食事作った。
食べてみて」
単語と身振り手振りで説明した。
恐る恐るではあるが、ドリスがスープを啜る。
ドリスの顔が明るくなる。
「アキト、美味しい」
ドリスが笑う姿は本当に美味しそうだった。
しかしドリスにとっては美味しいのかもしれないが、俺にとってはあまり美味しい物とは思えない。
とにかく塩が欲しい。
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今日の獲物の解体をする私をじっと見るアキト。
少し恥ずかしい。
アキトはバウラントの骨を指差し、
「ドリス。何に使う?」
と聞いてきた。
「使わない」
「これは?」
と、再び取り出した内臓を指差す
「それも使わない」
私が言うと、アキトは骨と内臓を持って行った。
奥で調理を始めたようだ。
しばらくすると、アキトが汁を持ってきた。
さっきの骨と内臓で作った汁らしい。
「今日、食事作った。
食べてみて」
と言って差し出された汁。
私は恐る恐るその汁を啜る。
「アキト、美味しい」
私は自然と口に出た。
たぶん私は笑っていたと思う。
アキトも一瞬嬉しそうにはしたが、そのあと渋い顔になるのだった。
どうしたんだろう。