ファーストコンタクト(俺)
蔓のようなものを持ちだすと、俺を後ろ手に縛る。
持っていた通勤用のカバンと傘は回収された。
エルフ……だよな。
何が起こっているかわからないまま細剣で脅され森の中を歩かされていると、社員旅行で北海道に行った時にヒグマ牧場で見たことがあるのと比較にならないほどの大きさのクマが現れた。
俺を縛る蔦を細剣で切ると、向こうへ行けとばかりに手を振る。
そして俺とクマの間に彼女は立った。
逃がそうとでもいうのか?
しかし、見たことも無いほど大きなクマに俺は身動きができなかった。
エルフは「チイ」と舌打ちをして俺とクマの間に立ち、細剣でクマと戦い始めた。
機動力を生かし、熊が届くギリギリのところを責めるエルフ。
まさに妖精のようだ。
クマは翻弄されている。
しかし、細剣では決め手が無いのか、倒すまでには至らない。
あのデカいクマだ。
一撃を食らえば致命傷にもなりえた。
俺を捨てて逃げればいいのに、なぜそうしないのか理解できなかった。
エルフの手が光り、周りの蔦がクマを襲う。
クマが一瞬身動けなくなる。
その一瞬をエルフは見逃さず飛び上がると細剣を両手に持ち、頭に突き刺した。
あっ、エルフの勝ちだ。
俺はそう思っていた。
多分エルフもそう思っていたのではないだろうか。
しかし、パキンという甲高い金属音と共に剣が折れ、折れた剣先がくるくると回って俺の横に落ちた。
その時、熊を拘束していた蔦が引きちぎられ、クマを拘束した一瞬が終わる。
目の前に居る者へクマが容赦なく右腕を薙ぎ払うと、エルフの腹にクマの爪が埋まり、ブチブチと何かを引き裂いていった。
振り切った腕から血しぶきが舞い、くるくると回りながらエルフは飛ぶ。
その時「プチン」と何かが切れ、俺の中の何かが解放された気がした。
後に思うとこの時、俺の体が世界に順応したのかもしれない。
俺は剣先を掴むと槍のように投げた。
剣先は大リーグでも見たことが無いような速さでクマに向かって飛び、熊の目に深々と突き刺さる。
クマは目を押さえると「ぐぉーーー!」という咆哮をあげ剣を取り出そうとするが目に刺さった剣先はほとんど出ていない。
続いて、残った目で俺を睨みつけたクマは俺のほうに三歩ほど歩いてきたが、そのあと糸が切れるように前のめりに倒れた。
俺はエルフが飛んだほうを探した。俺のために命を張って、今、命を落とそうとしている。
マジかよ、俺のせいで俺の目の前で死ぬのは勘弁してほしい。
俺はエルフが飛んだ方へ走った。
そこには内臓がはみ出すほどの傷で大量出血のエルフ。
目はうつろで、顔面蒼白。
もう何秒もすれば死ぬのではないだろうか。
俺はエルフの魔法を見た。
剣と魔法の世界なら、治癒魔法もあるだろうに!
魔法など使ったことは無い。
でも今やらなきゃいつやる!
負傷部分の再生と造血。
行っけぇ!!
俺は形が残った胸の部分に手を添えるとありったけの何かをエルフにぶち込んだ。
エルフの体が白く輝き、炎のように吹き上がり、時間が戻るように内臓があるべきところに生まれ、筋肉が覆っていく。
そして真白な皮膚で傷もなく蓋がされると、造血の作用かエルフの頬に赤みがさす。
エルフの目に光が戻ると、パチパチと目を瞬いた。
違和感を感じたのか俺が手を添えた部分を見る。
俺は無意識に力を入れていたのだろう。
うら若きエルフの左胸をがっしりと掴んでいた。
手を払われ、身をよじるエルフに俺は睨まれる。
変質者?
まあ、助かったから良しか。
「@◇〇☆◇……」
とわからない言葉を言ったあと、エルフは真っ赤な顔をしていた。
言葉がわからんから、何を言っているのか全く分からん。
エルフは立ち上がると、俺に手を差しだし、俺を引き起こす。
クマを指差し、エルフが何かを言う。
何となく「持てるか?」と聞かれた気がした。
無理だとは思ったがトン単位はあるかというクマを持ち上げると、背中に背負って持ち上げる。
すげえな俺。
エルフはそんな俺を見ると何か諦めたような顔をして、「来い!」と身振りで言った。
そして俺はクマを背負い、エルフの後ろをついて行くのだった。
エルフの名はドリスと言うらしい。
森の中のみすぼらしい小屋に住んでいた。
俺はそこに居候している。
何故か一枚の毛布に二人がくるまって寝る。
若いのかどうかはわからないがドリスに抱かれると、肉感のある感触が俺は男である事を思い出させた。