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愚なる翼のマスタング 1ー4

五話目です。よろしくお願いします。

二章 ビギニング

「……っ⁉︎」

布団を思い切り吹き飛ばしながら、私はクロウリーに会ってから初めてその意識を取り戻した。

混乱する頭で時計を見れば、針は午後2時を指している。

身体は汗ばんでいて気持ち悪いが、匂ってみると全く臭くない。お風呂には入った、という証拠だろう。路上で奇妙な感覚に襲われて以降、全く自分の行動を覚えていないので断定はできないが。

「…夢オチ…?…な訳ないよね…。」

もしそうだとしたら、身体の中に異物が入り込んでいく感覚が未だ残っている事実に説明がつかない。というか、私はそんなに鮮明に夢を覚えていることはできないから、登場人物の名前などいちいち覚えているはずがないのである。

…あぁ、更に混乱してきた。

「…というか…。」

先程から黄色に淡く光り輝いて視界を度々遮っている、右足の甲に目を落とす。

「何これ…。」

なんというか、私が知らないのであろう、大事な意味ありげな印が刻まれている。

うーん、アルファベット大文字のNとXの間みたいな形…に見えるけど…

「アレフだ。」

「⁉︎」

その声は、唐突に前触れなく響いた。

この寝室、空間に、では無い。

私の()()()に、である。

「…なんだ、そんな惚けた顔をして。」

私のあまりの驚き様に困惑してしまったのか、若干引き気味な声音に調子が変わる。

…困惑しているのはむしろこっちだ…。

帰り道のクロウリーといい、こういう常識外の存在は常人を混乱させるのが得意ならしい。

「あぁ、なるほど。俺があまりにも突然口を開いたからびっくりさせてしまったのか。それはすまない、俺の不手際だ。」

「…別に、謝らなくてもいいけど…。とりあえず、貴方は誰なの?…どうせ、不法侵入者とかそういうわけじゃないんでしょ?」

流石の私も、慣れたわけじゃ無いけど二回目となれば対応も素早くなる。瞬間的にその場から消える魔術師がいるのだから、姿のない声があってもおかしくない…のかも、だし。

「俺か。…そうだな、特に名前とかはないんだが…。」

ん?名がない?

「あえてアレフ、としておこうか。うん、そうしよう。紫菫、俺を呼ぶときはアレフ、と呼んでくれ。」

「ア、アレフ、って…。」

さっきも言っていたような。

この足の甲にある刻印と関係があるのだろうか。

「ヘブライ文字の一番目、あるいはトートタロットにおける0番“愚者”の対応文字のことさ。そして、その字形がお前の足の甲にあるא(それ)だ。」

「へ、ヘブライ…?ヘブライ人の文字なの?これが?」

確か、そこは世界史で習った。聖書辺りの話だったはずだけど…。

「その通り。ま、それだけのことで深い意味は…あるん、だけど、気にしなくていい。そーゆー意味があるんだなぁ、程度に思っておきな。」

「うん…分かった。…というか、それも知りたかったんだけどさ、」

今は君のことがもっと知りたいんです。

なんでここにいるの、とか、何しにきたの、とか。

「…俺のことか…。トートタロットを始めとしたことに全く知識のないお前の為にに配属された、専用のナビゲーターだと思ってくれれば良いかな。要は喋る電子辞書さ。情報をお前に与え、正しい道を教える存在だよ。」

「それは…。」

めちゃくちゃにありがたい。“トートタロット”などと知らない単語を高笑いでクロウリーに言われた時には、疑問符が百個くらい頭の上に浮かんでいた私だ。家に帰ったらネットで疲れた頭を回しつつ、どうにか情報を収集しようと思っていたのに、こんなサービスをしてくれるなんて…。

「あ、でも感情はあるからそこだけは蔑ろにしないでくれよ?」

「え、あるんだ。」

「あぁ、もちろん。お前だって、喋り相手はロボットじゃない方が楽しいだろ?」

「…まぁ、それもそうか…。」

ということは、何かしらで行き詰まったり悩むようなことがあったら相談してもいい、ということかな。一人だと厳しいことでも、二人であれば乗り越えられる場合なんていっぱいある。

精神の安定度も、強度も段違いだ。

ちょっと胡散臭いと思ってしまわないこともないけど、そう考えると彼は素直に頼もしい存在なのかもしれない。

どことなく接しやすく、ついつい話しかけたくなる雰囲気だし、声的に。

「っと、俺のことはどうでもいい、この際。お前はそれ以上に知らなくちゃいけないことがたくさんある。口頭では理解しきれないほどのな。だから、明日お前に予定がないのなら、俺と共にこの近くの都心部に出かけて欲しい。そこで俺が指示を出しつつ、お前の能力、その意味などを知ってもらおうと思う。テトラグラマトンに参加する上での基礎知識身につけの日、というわけだ。」

「…それ、たとえ予定があってもそっちに行くべきじゃない?私。」

「…無理強いする気はないが…できれば、な。」

「うーん…ちょっと待ってね…。」

今日は金曜日だから、明日は土曜日だ。一応私は帰宅部なので部活の心配はないし、土曜授業…はあるんだけど、これも不幸中の幸い、半分が能だか落語だかの特別な鑑賞会で潰れている。残りの授業はロングホームルームと古典。

…サボれるか、これは。

いや、まぁ結局するのはまた違う方向性の勉強なのでサボりというか、優先度の違いなのだが。

「いける…かな。多分、大丈夫。学校にはお姉ちゃんにお願いして連絡してもらうから。」

「そうか。なら、明日の午前中から出かけるぞ。恐らく、お前にとって明日は世界が変わる1日になると思う。だから、英気を養うためにもう眠るといい。」

安心した、といった風な声音のアレフの声が脳内に響く。

…あれか。彼は姿がない、とかじゃなく私の中にいる感じなのか。

だから耳から聞こえるんじゃなくて脳内に聞こえるのかな。

「ふふ。」

なんだいきなり笑って、というアレフの声を耳に入れつつ、少しスッキリした気持ちで私は再び布団の中に潜り込む。

あぁ、明日はどれほどの驚きが待っているのだろうか。

想像することすらできない。

ちょっと未知な世界に入り込むような感じがして、恐怖心がないわけじゃないけど今はそれにワクワクが優っている。

混乱した頭も整ってきた。

準備万端…とはいかないけど滑り出しとしては上々かな。

「…。」

少しずつ眠りに落ちていく意識の中で私は、ふと、なぜ今日今まで気を失っていながら動けていたのか、を疑問に思う。

普通に考えればおかしい。

自動操縦機能でもない限りは人間、こんなことにはならないんだけど…。

「ねぇ──」

早速、疑問を彼に問いかける。

「…。」

…返答がない。

なぁんだ。アレフでも分からないことって、やっぱりあるのかな。

それとも、答えられないのか。

ちょっとよく分からないけど、この疲れが睡魔となって襲いくる中問いただすのは億劫だ。

明日、しっかり聞こうかな…。

なんて、思う内に。

意識は途切れた。

即ち。

私は、眠ってしまったのである。

さて、これで1日目が終わりました。やっと序盤の導入場面から抜け出せましたね…。

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