コント・勇者の旅立ち前日
場所……お城の謁見の間
役……ツッコミ:王様 ボケ:勇者の母
王「もう明日には、勇者の旅立ちじゃな。よくぞ、ここまで勇者を育ててくれた」
母「王様、ちょっと待ってください!」
王「む? どうしたのじゃ母君よ?」
母「どうしてウチの子が行かなくちゃいけないんですか?」
王「何故、前日になって言うのじゃ……」
母「何か言いました?」
王「いや、何もない! しかし、勇者が旅立ってくれねばこの世界が……」
母「世界の危機でなんであの子だけが危ない目に合わないといけないんです?」
王「それは、勇者だから……」
母「出た、『勇者だから』。何ですか、それ? 一体誰がウチの子を勇者って決めたんです? 勇者には人権はないんですか?」
王「ワシのせいなの?」
母「王様なんだから、ちゃんと責任持つべきじゃないですか? いつも椅子に座ってふんぞり反ってるくせに責任も持てないんですか? 何よ、ダサい王冠なんて被って?」
王「ワシにも人権が欲しい……」
母「そもそも、世界を救おうとしてる勇者に資金も何も持たせずに旅立たせるって、どうなんですか? ここの兵士の方がまともな装備じゃないですか!」
王「それはやっぱり苦難が勇者を強くさせると言うか、勇者を強くするには必要な事かと……」
母「あの子、装備なしだから、服も着てないんですよ!?」
王「何故じゃ?! それは家庭の問題じゃないのか?! 服くらいは着せてやってくれ!」
母「勇者だからといって、特に訓練もさせないから、家に引き込もってゲームばかりして、一人で生きていけないわ!」
王「どうしてそうなった!? 家の教育はどうなっておるのじゃ!?」
母「勇者に決まってから、何かしらのカリキュラムがあるのかと思って、ずっと待ってたけど、一切無かったからいつの間にか引きこもりになっちゃったのよ!」
王「それはこちらにも多少の非があったのは認めるが、過保護過ぎやせんか?」
母「私が悪いって言うんですか? 自分だって、何もせずに似合ってもない髭を蓄えてただけじゃないですか? 威厳でも出そうとしてたんですか?」
王「ちょくちょくワシをディスるの止めてくれない?」
母「自慢じゃありませんが、ウチの子、スライム一匹倒せる自信なんてありませんから!」
王「本当に自慢じゃないのぉ!」
母「外は寒いし恥ずかしいからって一歩も出歩こうとしないんですよ!」
王「服着ておらんからのぉ!! 頼む! 服は支給するから、着せてやってくれ!」
母「いいえ、最上級の装備とあの子の護衛に十人程屈強な兵士と、あの子をお世話する従者を連れていかせてください」
王「もはや勇者の存在が必要か怪しいぞ! 何故、もっと早くに相談しに来てくれなかったのじゃ!」
母「だって、ここの村人や兵士、話し掛けても同じ事しか喋らないんですもん!」
王「そんなシステムだけは適応されとるのに、何故勇者の母は過保護になっておるんじゃ!」
母「大体、他の国と協力すれば済む話じゃないんですか? いがみ合ってるから、そこをつけ込んで魔王が襲ってくるんでしょ? 本当に世界を救いたいと願うなら、戦争なんてくだらない事は止めるべきです!」
王「むぅ……そこに関しては正論過ぎて、ぐうの音も出んわ。その熱き想いを何故息子の教育へと向けられなかったのか」
母「どうせ、冒険の後半に出てくる人達は最初から強いんだから、今から息子が旅に出て強くなるより、その人達が頑張って強くなった方が効率が良いわ」
王「それ以上言ってはならん! 物語が成立しなくなる!」
母「酒場の人達にでも頼めば良いじゃない。勇者より強いんじゃない? って思える仲間って多いのよ?」
王「さては母君も一緒にゲームをしておったな?!」
母「ウチの子はゲームだけなら、百回以上世界を救っておりますわ」
王「勇者もその熱意を現実に向けてもらいたかったぞ……」
母「最近では、オンラインでカタカナで『マオウ』って名乗る人と仲良く冒険してますわ」
王「それ絶対に魔王じゃ! もう復活しておったのか!?」
母「まぁ、昨日やった対戦ゲームではウチの子が圧勝してますけどね」
王「ゲームで魔王に勝っておる!?」
母「チャットで怒って『もうこんな世界ぶっ壊してやるからな!』とか言っちゃって、器の小さい子よね」
王「なに魔王を怒らせとるんじゃ!? もう猶予はない! 母君の言う通り、兵士も従者も最上級の装備もつける! じゃから、勇者を旅立たせてくれ!」
母「それは出来ません!」
王「何故じゃ?!」
母「明日新作のゲームを一緒にやる約束をしちゃったの」
王「もう世界はおしまいじゃ!」