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幕間 一方で【2】

扉に貼ってある「院長室」のプレート

女性は取っ手を回してドアを開ける。

誰もいない静かな部屋、かすかに懐かしい匂いがしてドアを開けた女性が少し微笑む。

女性の名は「洲崎 明日香」、テレビや雑誌で見ない日が無く、

容姿が美しいだけではなく演技の実力もあり日本のみならず世界のプロデューサーや監督から

映画やドラマに出演を依頼され、今や日本を代表する女優である。


◆◆◆◆◆

15年前


コンコン‥‥

明日香はドアをノックした。

「どうぞ。」と久喜子が返事をする。


「お母さん、ちょっとお話しいい?」と明日香。

「いいわよ、どうしたの?」と優しく聞き返す久喜子。


「あのね、今日副院長先生とお買い物行った時にね私スカウトされたの。」

と嬉しそうに話す明日香。

「それでね、興味があったら連絡下さいって名刺貰ったの〜。お母さんどうしよう?」

ペンを置き前を向く久喜子。

「明日香はどうしたい?」

いつもと違う雰囲気の表情で聞いてくる久喜子に少しびっくりする明日香。

「やってみたい。」

さっきまでウキウキで緩んだ表情とは違う真剣な顔で答えた。

「芸能界、決して優しい世界じゃないですよ、必死に頑張っても芽が出るとは限りません。

それにあなたを騙したり貶めたりする人もいるかもしれません。」と久喜子。

「うん、やるからには努力はするわ。でも売れなくても他人のせいには絶対しないし私は

頭良くないから騙されるかもしれない。でも・・・でもせっかくのチャンスを

見逃したくないの。」と明日香。

じっと見つめる喜久子・・・1分ほど見つめて明日香が視線を離さず久喜子に見つめ返し

ていると、

「わかりました、副院長先生を呼んでください、あとこの名刺は一旦預かりますね、副院

長先生に連絡してもらいます。」

と言うと明日香は笑顔で「ありがとうお母さん」。

元気に院長室から出て副院長を呼びに行った。


後日副院長から芸能事務所に連絡を取りスカウトした女性に孤児院に来て

話しを聞くことになった。

院長室には院長と明日香とスカウトの女性の斎藤が居る。

斎藤が熱心に明日香をぜひうちの事務所で預かりたいという旨の話しをした。

最後に「うちの事務所は小さく影響力もありません、しかし明日香さんと二人三脚で

頑張ってみたいです、ぜひチャンスをください!」と深々と頭を下げると明日香も院長

に頭を下げる。

すると「わかりました、斎藤さんに明日香を預けましょう。どうぞうちの娘をよろしく

お願いします。」と言うとスッと立ち上がり頭を下げる久喜子。

それを呆然と見る明日香と斎藤、すぐに立ち上がり二人も頭を下げる。


「じゃぁちょっと斎藤さんに細かい話しがあるから明日香はみんなの所に行って

報告しておいで」と久喜子が言うと「うん」と嬉しそうに部屋を出ていく。


「斎藤さん」

「は、はい。」

「あの子は優しくて人をあまり疑わない性格です。もし何かあったらできる限りフォローを

お願いします。」

「もちろんです、できうる限りお守りします。」

「ありがとうございます。もし・・・もしあなた達の手に余るような事があったら

このバッチを回し受話器に当てて、呼び出し音を3回鳴らしてください。」

と銀色のピンバッチをを渡す。

斎藤はそれを受け取りバッチを見るとそこには【紅い蝶】が刻印されていた。

「これは?」と聞く斎藤。

「お守りみたいな物よ。最後にもう一度言いますね、もしあなた達の手にあまる相手と

トラブルになったらバッチを回し受話器に当てて下さい、そして呼び出し音が3回なったら

切るだけでいいです。たとえトラブル相手が裏の世界の人でも遠慮せずに・・・」

と言うと久喜子は背を向け院長の席に歩き出す。

ブルっと一瞬震えた斎藤。

これ以上聞いても答えてくれないし聞いてはいけないと直感で感じ、ピンバッチを胸元に付ける

と斎藤は静かにお辞儀をして院長室を出ていく。


会社の戻ると社長に保護者の許可が取れました、と報告する斎藤。

その報告を聞いてる社長が斎藤の胸元にあるピンバッチに気が付き

「斎藤、そのバッチはなんだ?お前そんなのしてたか?」と聞く。

「あ、これは院長先生からもし何か手私たちの手におえないトラブルが起きたらバッチを回して

受話器に当てて呼び出し音を3回鳴らしてと言われたんですよ、なんかすごい迫力あったなぁ。」

と言いながらバッチを外して社長に見せると、社長は「ヒュッ・・・」と斎藤には聞こえない

くらいの小さな喉を鳴らす。

「そ、そうか。とりあえずその方の通りにしてくれ。じゃぁ、もういいぞあとの書類作成

よろしくな。」と言うと机の書類に目をやった。

斎藤は「はぁ」と生返事して社長室を出る。


書類に大量の汗が滴る。

以前政治家のパーティーであまり良い噂の聞かないある大物政治家がこっそり

教えてくれたことがある。

この世界には数多くの傭兵会社があるがその中でただ一つ、会社の実態もトップやメンバーも

不明であり、その情報収集能力と作戦実行能力は他の傭兵会社とは次元が違うほどの実力を持つ

集団が居る。

その集団のコードネームが【紅い蝶 レッドバタフライ】。

仕事を受ける基準は明確ではなく大金を積んでも受けてくれるとは限らない。

運良く受けてくれるとその契約者に紅い蝶のバッチを渡すと言われている。

と大物政治家が言ってたが、酔っぱらいの与太話かと信じなかった。

翌日その大物政治家は泥酔が原因で階段を踏み外し首の骨を折って亡くなったという

ニュースが流れた。

その後しばらく監視されてるような感じが続いたが1か月ほどで突然無くなった。

以前の事を思い出してると突然携帯から電話が鳴る、相手は不明だ。

出てみると「余計な詮索はしないようにそうすればあなた達も守りましょう。」

とだけ言うとプチっと切れた。

ツーツーという音だけが響く社長室。


◆◆◆◆

現代


開いたドアの方から声がする

「明日香さん、そろそろ撮影の時間ですよ。」と斎藤が声をかけた。


「じゃぁ、お母さん今も守ってくれてありがとう、行ってきます。」

と言うと院長の席に向かって手を振り元気に廊下に出ていく明日香。


後ろを付いていく斎藤の胸元には紅い蝶のバッチが今も光っている。





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