8話 伝説の種族
「姉ちゃん、新人だろ?俺が色々教えてやるよ。」
ニヤニヤしながらエイリアに近付く無精髭の男。
無視していると、「おい!」と肩に手を置こうと腕を伸ばしてくる。
肩に触る瞬間、スッと横にずれて男は少し前につんのめった。
「うわっ、避けるんじゃねーよ!」
更に左手でエイリアを掴もうとするがまた横にずれて捕まらない。
「き、きさま〜、、、」
顔を真っ赤にして睨みつける男。
「さっきからなんですか?別にあなたに教えを乞う気はありませんし
触って欲しくも無いです。」
「な、、なんだと!人が親切に教えてやると言ってるのにつけ上がりやがって!」
怒りと恥ずかしさでわなわな震えていた男は、エイリアに殴りかかる。
こう言う時の対処もマイアに刷り込まれている。
指をパチンと鳴らし男に向けて痺れるイメージを放つ。
チリチリ、、、シュッ!
「がっ、、、」
殴りかかろうとしていた男が体を硬らせこわばらせそのまま前に倒れる。
ドンッと凄い音がし、倒れた時の痛みで「うっ」っと呻いた後、今度は
痺れの痛みで「がっ、、、」と声にならない声を出していた。
ニヤニヤと見ていた周りの冒険者達はまさかの反撃にザワザワし始める。
「おい、今、無詠唱で魔法使ったよな?」
とエイリアが無詠唱で魔法を発動した事に驚いてる。
この世界、魔法を行使する時は呪文を詠唱しないと発動しない。
達人クラスでも、少しは詠唱しないと発動出来ない。
しかし今目の前にいる銀髪のエルフは何も言葉を発せずに魔法を発動させたのだ。
「何者だあいつ。」
「それより仲間をやられたんだ、黙ってられるか!」
と、殺気があちこちから広がり始める。
エイリアも睨んでくる冒険者達に体を向けて身構える。
『もう〜、なんでこうなるのよ』
恐怖感や焦りは無い、ただただめんどくさいな〜って感じで見返している。
殺気がギルドのホールに膨れ上がった、その時。
階段の上から力強い声がした。
「おいっ!何事だ、ギルドのホールを殺気だらけにしやがって。
身体のあちこちに傷があり筋肉質の大きな身体、それで耳は細長い。
エルフの男だった。
受付のレイラが涙目で
「ギルド長〜、なんとかしてください〜。」
と泣きつく。
「何やってるんだよ、全く。おい!そこのお・・・ま・・え」
たくさんの冒険者達に睨まれている銀髪の女がこの騒ぎの原因だろうと
エイリアに呼びかけようとしてる途中で、ギルド長は違和感を感じそれと同時に
背中に冷たい汗が流れた。
エイリアは後ろから呼びかけられた声がする方向にゆっくりと振り向く。
ギルド長は銀色の髪の中に自分と同じ細長い耳が目に入る。
「ま、、まさ、、か」
目を閉じてる顔がこちらに向いてくる。
そしてゆっくりと目を開けるとその瞳は金色だった。
「ひっ、、、」
見るからに百戦錬磨であろう男の顔が一瞬にして真っ青になる。
そして急いで階段を降りるとエイリアの前に行き、片膝をついてかしずく。
ギルドのホールに居る人々は何が起こっているのか理解出来ていない。
あのギルド長が同じエルフの女に跪いてひざまずいている。
ギルド長は顔を決して上げず膝を震わせながら、何とか声にしてエイリアに問いかける。
「お初にお目にかかります、貴方様はもしや″ハイエルフ″ではありませんか?」
エイリアは目の前でかしずく男を見下ろしながら
「そうですよ。」
と一言。
するとギルド長はビクッとし、青い顔が今度は白くなっていく。
「お目にかかり光栄であります、わたくしはこのクレスト辺境伯領ノービレ街の冒険者ギルド
でギルド長をさせて頂いております、ランスと申します。
失礼ながら貴方様のお名前を伺っても宜しいでしょうか?」
「私ですか?私はエイリア・・・エイリアです。」
今ここでフルネームは言わないでおこうと名だけ言う。
「エイリア様、何があったのか存じませんがこの度は誠にすみません。
私からこの者達によく言い聞かせますので、何卒お許しいただけたく願います。」
エイリアは目の前のこのエルフがかしずく意味をマイアの刷り込みによって
知っているので、これ以上騒ぎが酷くならないうちに一旦帰ろうと、
「わかりました、後はランスさんにお任せしますね。
明日また依頼を受けに来ますのでこう言う事はもう無いようにお願いします。」
と優しく言った。
そして受付のレイラに軽くお辞儀して扉に向かって歩き出す。
今もまだ顔を決して上げず、かしずいたままのランス。
そして歩いていくエイリアを見る冒険者達。
扉が閉められエイリアが歩いていきその気配が無くなったら、やっとランスが白い顔
のまま力なく立ち上がった。
そしてその瞬間、床でまだ痺れて動けない無精髭の男とホールに居るたくさんの冒険者達
に向かって物凄い殺気を放つ。
かつてはブラックカードの冒険者で引退した今も力は衰えていないランスの超ド級の
殺気にホールに居た全員が顔を青くしガタガタ震える。
「貴様ら、何をしたかわかっているのか?」
すると、一人に冒険者だ恐々と聞く。
「ギルド長、どうしたんだよ、あいつは何者なんだよ?」
ギロっとその冒険者を睨むランス。
「あのお方は″ハイエルフ″だ。我々エルフ族と同じエルフと言う名が付くが
決して同じでは無い存在だ。
寿命、魔力量、魔法操作全てが我々と次元が違う存在の種族なのだ。
俺も長老から聞いただけだが、我々エルフは金の髪に青い瞳に対して
ハイエルフは銀の髪に金の瞳。
俺も実際にお会いしたのは初めてだ、いや、我々エルフ族でお会いしたことのある
のはもう数千年は居ない。
ハイエルフは我々にとって崇高な存在であり畏怖する存在でもある。」
そう言うと、ランスは冒険者達を見廻し
「いいか貴様ら、二度とあの方にちょっかいを出すな、まかり間違って
また殺意なんか向けたら俺がお前らを全力で・・・潰すっ!」
そう言うと階段を上り執務室に向かって行った。
きっかけを作った無精髭の冒険者は麻痺の効果が切れたのか床に座り込んで
ギルド長の殺気に当てられブルブル震えている。
他の冒険者達も今も思うように体が動かない。
ランスは執務室に入り、椅子にどかっと座ると大きく息を吐く。
「まさか実在していたとは・・・確か世界に動乱が起きる時ハイエルフが
降臨すると言われていたが・・・・まさか。」
窓の外を見るランス。
外はきれいな青空が広がっている。