ありがとう
「お母さんっ!」
「お袋っ!」
「ママー!」
「母ちゃん!」
とある病院の病室から母を呼ぶ様々な声が聞こえる。
今病室ではひとりの女性が生を終えようとしている。
ある孤児院の保母であり院長であり、今涙を流して女性に呼びかけてる
たくさんの男女の母親、名前は井下久喜子。
その孤児院は数ある孤児院と何ら変わりない所だが、その孤児院出身者には
国のリーダー、一代で財をなした大企業の創業者、世界の頭脳と言われる博士、
神の手と言われる名医その他各分野で名をはせる人を多く輩出した。
世界の人々はその孤児院を尊敬の念を込めてこう呼んでいる、『奇跡の孤児院』と。
白いベッドに横たわる老女、久喜子。
ゆっくりとまぶたを開けると、女性に泣きながら呼びかけてるたくさんの人達を軽く見渡すと
小さいが優しい声で語りかけた。
「あら・・・お帰り・・・なさい。今日の晩・・・ご飯・・なにがいい?」
少しびっくりする色々な年代の男女達、久喜子の隣に居る同じ孤児院出身の医者に目を向けると
小さい声で
「意識が混濁しているのかもしれません、話しかけてあげてください・・・」
その説明を聞いて涙で顔がくしゃくしゃの男女達は久喜子に話しかけた。
「お母さん、今日はハンバーグが良いな。」
「俺はカレー!」
「え~~!私はオムレツがいいよ!
と、色々な料理をリクエストしてると、久喜子がふふっと笑い
「あらあら・・・今日はお買い物・・・大変ね。・・・じゃぁ・・・ちょっと・・・
買い物・・・行ってこう・・・かし・・・ら・・・」
そう言うと久喜子は1度大きく息を吸いゆっくり吐くと、心電図からピーーーとアラーム音が
鳴った。
「おかあさん!!!」
「ママーーー!!!!」
「まって!行かないで!!!」
と絶叫ともいえる泣き声が病室に響いた。
そしてひとりの男性が涙を流してる男女達にこう言う、
「みんな、最後にお母さんに伝えよう!」
そしてみんなが久喜子に一斉にこう言った。
「「「「「お母さん、愛してくれてありがとう!!!」」」」」
かすかに微笑むと久喜子は静かに息を引き取った。