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第4話 それじゃ服の上からなら……

「怒られた―」


 ちらっ。俺の方を見る女神様。


「上司に怒られたー」


 ちらっちらっ。女神様はちょこんと膝を抱えて、恨みがましい視線を俺の方に向けてくる。


 深い眠りの底から起こされた途端、それである。幾つか突っ込みどころがあったけど、眠いので正直どうでも良い。


「大変でしたね。一体何があったんですか?」


 仕方なく聞くと、意を得たりとばかり愚痴り出す女神様。


「なんか一日中動画ばっかり見て仕事してないだろー、って言い掛かりをつけられたー」


 ムカつくのか、膝を抱えたままゴロンゴロンとのたうち回る女神様。


 なんというか言い掛かりでなくて事実だよね。流石に上司に同情せざるを得ない。

 それにしても女神にも上司がいるのか。神の世界も世知辛い。


「大変でしたね。これからは心を入れ替えて頑張りましょう」

「私としたことが、堕落した人間の誘惑に惑わされるとはねー。リョータも軽率な真似は避けてよね」

「なるほど。俺怒られてるんですね」


 あまりの理不尽さに逆に可笑しくなってきた。


「ふん、いい加減ちゃんとするかんね」


 では何故人生ゲームの蓋を開けるのか。


「いいんですか、遊んでて」

「だって買ったはいいけど日本語読めなくて。リョータ、読めるでしょ」

「そりゃ読めますけど。ちょっと、コマをばらまかないでください」


 女神様が中身を次々出すので、仕方なく小物を整理する。


「ねえ、せっかくだから賭けをしない?」

「賭けですか?」


 なんか怪しく微笑み、身を乗り出して来る女神様。


「負けたものは勝ったものの言うことを一つだけ聞くの。なんでも」

「いや、そういうの止めましょう」


 俺は現金札を配りだす。


「無理しなくてもいいのよ。こんな可愛い私を目の前にして、若い男の人間が理性を保てるなんて思っていないわ」


 女神様、ちょっと胸元を緩めてるぞ。そういうの面倒なのでやめてほしい。


「ホント、そういうの大丈夫ですから。はい、これあなたのコマです。最初なんで俺から回しますね」

「……大丈夫? え、ちょっと待って。大丈夫ってなにが大丈夫なのよ」

「いいじゃないですか。さ、回しますよ」


 正直さっさと寝たいが、適当に付き合うか。

 シャラララ。軽快な音を立て、ルーレットが回る。新たな俺の人生が始まった。



「……えーと、子供が生まれる。他のプレーヤーからお祝いを5万$ずつ受け取る」

「ひょっとしてリョータ、私が読めないと思って適当に言ってない?」


 紙のお金を差し出しながら睨みつけてくる女神様。

 俺の五連勝を目前にしてついに勘付いたようだ。


「何のことだか全然。さ、早くルーレット回してください」


 この辺で一つ勝たせておくか。俺は次の番できっちり破産して女神様に花を持たせた


「よっし! どうか見たかコラ!」


 大喜びの女神様。だからってそんな言葉を使うんじゃありません。


「いやあ、負けました。じゃあ片付けましょうか」

「ねえ、負けた人は何でも言うこと聞くんじゃなかったっけ?」


「それだと、まず俺の言うこと四回聞いてもらうことになりますが」

「えーと、そ、それじゃ服の上からなら」 


 ……服の上からどうだって言うんだ。


 勝手に何かの覚悟を決めたのか、女神様は顔を赤らめて俯いている。

 俺は見て見ぬふりして地面に横たわる。


「じゃあ、差し引き三回分で明日まで寝かしてください。お休みなさい」

「……え? ねえ、ちょっと」

 

 無視して寝ていると、俺の脇腹をどすどす突いてくる。

 流石に寝たふりをあきらめて体を起こすと、何故か怒り顔の女神様。


 どう考えても被害者は俺なんだが。


「あの、俺寝たいんですけど」

「その前に。ちょっと話があるから座って。はい、ちゃんと座る」


 まずい、なんだか女神様が不機嫌モードだ。俺は素直に正座した。

 ……でも俺、なんか悪いことしたっけ。


「ちょっと、さすがにさっきのはどうかと思うの」

「はあ、すいません」


 謝ったはいいが「さっきの」ってなんだろう。

 ぽかんとしている俺に、女神様はびしりと指を突き付ける。


「女の子に恥をかかせるとか、あんた何考えてるの? それでも性に乱れ切った日本の高校生なの?」


 なるほど。さっきのお戯れを適当にあしらったのが悪かったのか。


「すいません。そういうのに、うとくて。なんか少しくらい手を出した方が良かったですか?」

「はあっ?! そういうんじゃないじゃん!? 男の子とゲームとかして、罰ゲームでちょっとドキドキとかあるじゃん?!」


 幼稚園以来、女子と話したことのない俺にそんな要求は荷が重い。

 

「分かりましたって。今度クラスメート紹介しますから」

「え? ホント?」


 思いがけず喰いつく女神様。手の平を合わせた可愛いポーズで、俺にグイグイ身を寄せる。

 まあ、クラスに友達なんていないけどそれは秘密だ。


「あれよね、写メとかプリクラとかでインスタ映えなのよね。呟くってのはポケベルを買えばいいのかな?」

「微妙に古いのも混じってますが、おおむねそんな感じです」


 圧がすごい。あんまり近くに寄らないで。


「しかし、女神様が人間界で遊んだりするんですか?」

「私だって少しくらい遊びたいわよ。ずっとずっと仕事ばっかしてるんだし――」

「え、そうでしたっけ」


 この女神、ダラダラお菓子食ってる印象しかない。

 女神様は俺をじろりと睨み付ける。


「異世界担当も大変なのよ。毎日毎日、人生に疲れたおじさんばっかり相手にしてるんだから」

「はあ、そうなんですか」


「こっちは異世界をどうにかして欲しくて転生させてんのに、畑作ったり食堂開いたり……どうして!? なんで折角の力で真面目にコツコツ働こうとするの?! そんなに働くのが好きなの!?」

「えー、俺に聞かれても。第一、働くの嫌いですし」


 この女神様、酒とか飲ませたら絶対面倒くさいぞ。

 ひとしきり愚痴を聞き終えた頃、女神様は思い出したようにiPadを取り出した。


「で、合コンはいつにする? やっぱ神だし日曜日とかかな」

 やっぱ合コンか。クラスメートになんて言って紹介すればいいんだ。


「……じゃあ、新学期最初の日曜で」 

 そういや俺、死んでるけどな。

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