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第3話 なんて形容しがたくも不快な神なのだろう

 どのくらい寝たのだろう。


 これほど素晴らしい眠りを得たのはいつぶりか。

 この白いホワホワした空間最高だ。


 俺は幸せに包まれて微睡みながら、寝返りを打った。


「おはよー、リョータ。はい、起きて起きてー」


 幸せの微睡を破ったのは女神様。

 パンパンと手を鳴らしながらの登場だ。


「おーい、起きろー、寝たふりすんなー」


 無視していると、地面のホワホワをちぎって投げつけてくる。


 ……これ、ちぎれるのか。


「あーもう、起きますからやめてください」


 仕方なく身体を起こして伸びをする。


 これまで寝起きに悩まされていた肩こりも全く無い。

 謎空間、最高だ。


「リョータあんた、何もせずに寝てて楽しい?」

「ええ、まあ。夏休みも一歩も外に出なくて問題なかったですし」


「あんた確か一人暮らしだったでしょ。買い物とかどうしてたのよ」

「Amazonがあれば、外に出なくても大体大丈夫ですから」


「ああ、あれかー。Amazonねー。一度潰そうとしたんだけど、女神である私の力でもどうにもこうにも」

「Amazon、女神様より強いんですか」


 凄い。これからはネットにAmazonの悪口を書くのは止めよう。


「安心して。あそこに打ち勝つ勇者を異世界から召喚しようと計画中だから」


 異世界の勇者が酷い目に合う未来しか見えない。もしくはプライム会員に加入する未来だ。


「やめてあげてください。勇者さんにも異世界での生活とかあるんですから」

「そうまで言うなら、プライム会員の期限が切れるまでは猶予してもいいけど」


「あれって勝手に更新されますよ」


 そう言われた女神様は少し焦った様子でタブレット端末を取り出した。


「ちょっと、プライムの会員期間ってどこで確認するのよ」

「えーと、まずはアカウントサービスに」


 なんだろう、この違和感。女神様とiPad。


「iPadなんてどうしたんですか」

「Amazonで買ったのよ」


「……普通に使ってるじゃないですか。潰しちゃだめですよ」


 ちなみにAmazonでは購入履歴や閲覧履歴を基におすすめ商品が出てくる。

 女神様、ケモ耳の美青年が出てくるキャラ文芸がお好みのようだ。


「あとプライム会員だとビデオや音楽も見れます」

「ビデオとか見ると料金かかるんじゃないの?」

「大丈夫ですよ。このマークが付いてる奴はただで見られますから」


「え、ほんと。これ、ちょっと気になるんだけど」

「はいはい、シーズン1から順番に見ましょうか」


 なぜかAmazonのレクチャーが続いている。


 俺は適当に再生ボタンを押すと地面にゴロンと横になった。

 何とはなしに、タブレットを見つめる女神様の横顔を眺める。

 

 ……まあ、確かに可愛いな。


 むき出しの肩に流れる銀色の髪が肌の白さを際立たせ、幼さと可憐さを持ち合わせた小さな顔もキメの細かい細工物のように整っている。

 油断をするとついつい気持ちが惹き込まれそうになる。


 ……いけない。


 この女神様は秋葉原でラッセンの絵葉書を配っているお姉さんと同類なのだ。

 可愛くたって油断してはならない。


 そんなことを考えていると、女神様と目が合った。


「どうしたの、リョータ。私をじっと見て」

「えー、いやなんでもないです」

「恥ずかしがらなくて大丈夫よ。ごめんね、私みたいな神美少女が傍に居たら人間なんか我慢できないのは良く分かるわ」


 ボリボリボリ。

 せんべいを食べながら俺に近づいてくる女神様。


「いやほんと、そんなんじゃないですから」


 狸寝入りをしようとした俺の頬に煎餅の欠片が落ちてくる。


「大丈夫、人間の性癖が様々なことくらい私も理解してるわ。ちなみに自分で処理する方法って知ってる?」


 いやもう誤解もいいところです。


 というかこの女神、セクハラがひどすぎやしないか。あーもう、女の子が手を上下に動かすんじゃない。


「よいしょ」


 女神様は俺の隣にどさりと何かを投げ出した。


 横目で見ると、一昔前に人を駄目にするソファとして有名になったビーズクッションだ。

 これもAmazonで買ったのだろうか。


 女神様は上機嫌でクッションに身体をうずめると、鼻歌交じりに女神と少年が冒険をするアニメを見ている。


「リョータ、おさわりは禁止だかんねー」


 ……なんというか。


 自分の心に芽生えたのは、この女神様相手にほだされない確かな自信だ。

 枕に丁度いい白いもわもわを見付けた。俺は安心して目を閉じた――




「――ねえ、リョータ。この続きはどうやったら見られるの?」


 ……ようやく寝付いた頃、わざわざ俺を起こす女神様。

 服に付いているお菓子カスがパラパラ落ちる。なんて形容しがたくも不快な神なのだろう。


「それ、第3話までなんですよ。お勧め作品っていくつか出てきてると思うんで、順番に見てください。これとかどうでしょう」 


 あやかし美青年がかくりよでまったりする系のアニメをクリックすると、女神様の顔色が変わった。


「ほう。これは興味深いわね」


 なんて性癖の分かりやすい女神様だ。

 これは第2期まで収録されている。かなり時間が稼げるはずだ。


 寝返りを打ちながら、男子が猫耳少女を好むのと、女子が狐耳のあやかし美青年を好むのは同じなのだろうかとか考えてる内に、俺は眠りに落ちていった。

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