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第25話 君、そんなキャラだったっけ

「フィオナの奴を、この世界から消してやりましょう――」


「フィオナを――消す?」


 真剣なサクラの眼差しに思わず頷きそうになる。

 いやいや、そんな馬鹿な。むやみに消すと、ぷよぷよだと却ってピンチになるし。


 ……でもちょっと興味があるな。この話、さわりくらいは聞いてもいいかも。

 

「その話、詳しく」

「……言うと思った」


 意を得たとばかりに俺の腕を取り、足を速めるサクラ。

 

「例えばさ。この世界で殺された女神って――どうなるか分かる?」

「殺されたんだから、死ぬんじゃないの?」


 当たり前と言えば当たり前の答えにサクラは苦笑する。

 

「確かに死ぬね、この世界では」


 サクラは道の脇に座り込む子供に果物と硬貨を手渡すと、細い路地に入り込む。

 俺は後を追う。


「元の世界での存在までは消えないわ。多少、力を取り戻すまで時間はかかるけど」


 そんなものなのか。

 でも、あの謎空間で会った時、気まずいだろうなあ……


「ただ、この世界とは縁が切れる。二度と干渉できなくなるの。殺したところで、ある意味死ぬわけじゃない」


 いつの間にか「消す」から「殺す」にグレードアップしてませんか。


「本当の神殺しは私たちの手に余るわ」


 ……なるほど。言いたいことは大体分かった。

 暴れん坊女神のフィオナをこの世界から追い出そうという腹か。


「……んー、まあ世界の平和のためには悪い話じゃないと思うけど。一応、本人にも聞いてみないと」

「いやいや、聞いちゃ駄目でしょ!」


 言うなり思い切り背中を叩いてくるサクラ。


 この人、突っ込みに圧があるなあ……

 ちょっと面倒くさい。


「だってフィオナも切られたり刺されたりとか嫌だろうし」

「私だってそうよ」

「一応同じパーティーの仲間だしね。表面上は仲良くやんないと」


 ……話をしている内に、随分人の少ない所に来ていたようだ。

 薄暗い、教会の前の小さな広場。


 立ち止まったサクラは大きく伸びをしながら空を仰ぐ。

 整った横顔を見ながら俺は尋ねた。


「――サクラはフィオナを殺しにこの街に来たのかい?」

「偶然だって言ってるでしょ。ちょっと野暮用でね」


 サクラが大きく視線をめぐらす。

 視線を追ったその先、教会の大きな扉の前。


 赤いローブに身を包んだ影がこちらを見張るように立っている。


 ――その姿に思わず肌が粟立った。知らずの内、指に触る柄の感触。

 

「サクラ。あの人は君の仲間なのか……?」


 斬った死霊レイスなどと比べ物にならない。

 背中に張り付くような圧迫感。


「ん。そうね、もう家族みたいなものよ」


 サクラは赤いローブに向かって手を上げながら指をパチンと鳴らした。

 魔法が解け、流れ込む風の音。


 遠く繁華街の喧騒が聞こえてくる。


「私、行かないと。また会いましょ」

「……ああ、また」

「涼太、怖い顔しないで」


 言って冗談交じりに俺の頬をつまむ。


「……さっきの話、考えといて。フィオナがこの世界の害になりそうなら――」


 立ち去り際、サクラの声が耳元をくすぐった。


「――手を貸すよ。勇者様」




 ――――――

 

 俺は『踊る蟹亭』の扉を押し開けた。

 

 すっかり出来上がった酔客達の中、テーブルに突っ伏したシノノの姿。


「シノノ、大丈夫?」


 肩を揺らすと、呻きながら顔を上げる。


「……らいじょうぶれす……まだのめます……」


 テーブルの上に転がる空き瓶。


 ……シノノ、よく頑張った。


「あれ、フィオナとサロマエルは?」


 キョロキョロ見回していると、店の女将が無言で上を指差す。

 見上げると吹き抜けになった酒場の大きな梁に、酔ったサロマエルが干された布団みたいにぶら下がっている。


 ……良く寝ているし、そっとしておこう。

 

「シノノ、部屋に行こうか。ほら、立てる?」

「はれぇ~? リョータさん、一緒に寝るんですかー?」

「一緒には寝ないよ。はい、手に捕まって」


 シノノ、完全にへべれけだ。足をもつれさせて俺にしがみ付いてくる。


「あるけなーい。リョータさん、部屋に連れてってー」

「え、ちょっとシノノ」


 ……あれ。この光景、あんまりよろしくないぞ。

 心配した通り、周りの酔っ払い共がニヤニヤしながら冷やかしてくる。


「兄ちゃん、隅に置けないねー!」

「勃たなかったら俺が代わってやろうかーっ?」


 ……あーもう、これだから酔っ払いは嫌なんだ。

 俺は口笛と野次を背中に浴びながら、シノノに肩を貸して帳簿台まで歩く。


「えーと、俺達の部屋はどこですか?」


 相変わらず不愛想な女将は、帳簿から目を上げずに鍵を置いた。


「……階段上がって一番奥の二部屋。お連れのお嬢ちゃんはもう上がってるよ」

「どうも。さ、行こうシノノ」

「ふにゅ~ 運んでください~」


 シノノが両手で俺の首にぶら下がってくる。慌ててシノノの腰に手を回す。


「ちょ、ちょっとちょっと! シノノ、そんなキャラだったっけ?」


 あーもう、とにかくシノノをベッドに運ばないと。

 俺はシノノを抱えて階段を上がる。


「――お兄さん」


 突然、俺を呼び止めてきた女将は睨むように顔を上げた。


「なんですか?」

「……あんまり、無茶なことすんじゃないよ」

「どっちの意味でもしませんよ」


 ぐにゃぐにゃのシノノをようやく二階に運ぶと、部屋の鍵を開ける。

 意外と広い部屋の中、ベッドが一台。


 ……確かシノノ、フィオナと同じ部屋で良かったんだよな。

 シノノには悪いが、二人部屋でフィオナと寝てもらおう。


 隣の部屋のドアノブを回す。


 あれ、鍵が掛かっているぞ……?


「おーい。フィオナ。開けてくれないか」


 ドンドンドン。

 

 ……返事は無い。

 扉に耳を当てるが、起きている気配は無いぞ。


 シノノがズルズルとずり落ちてくる。

 仕方ない、とにかくシノノを寝かさないと。


 俺は一人部屋に戻ると、ベッドにシノノを寝かした。

 

「あー、靴くらいは脱がせないとな……」


 ベッドに腰かけて靴紐を解いていると、シノノがぼんやりとこちらを見ているのに気付いた。


「あ、ごめん。靴くらい脱がせようかと」

「んーん。リョータ、ありがとう」


 素直でいいな。

 フィオナもこのくらい素直なら、少しくらいのオイタも我慢できるのに……。


「じゃあ俺はそろそろ」


 ベッドから立ち上がろうとする俺の手をシノノが掴む。


「フィオナの部屋に……行くの?」

「んー、締め出されちゃったから無理かな。大丈夫、どこかで夜を過ごすよ」


 シノノは何故か手を離そうとしない。


「……じゃあ、鎧ぐらいは外していったら?」

「え、ああ。そういえば」 


 あまりに軽くて動きやすいので、着ていることを忘れていた。

 確かに鎧くらいは脱いでもいいだろう。


 ……あれ、これどうやって脱ぐんだっけ。


 いつも転生した時には着てて、帰ったら着ていなかったし。着脱をしたことが無いぞ。

 

「そういえばこれってどこかに留め金があるのかな?」


 シノノは鎧に気が取られた俺の首に手を回すと、力任せに引っ張った。

 

「っ! シノノ!?」


 ベッドに引き倒された俺の上にシノノが覆いかぶさってくる。


 ――フィオナに押し倒された時とは違う。

 シノノの女性の香りに思わず俺は言葉に詰まる。


 窓からの月明りが、桜色の唇を艶やかに照らしている。

 


「――脱がすの手伝ってあげる」


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