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第21話 彼らは一様に沈んだ表情をしていました。そう、今の私のように

「こっちです。足元に気を付けてくださいね」


 俺はシノノの杖の光を頼りに薄暗い木立を抜けていく。

 

「ねえ、シノノどこまで行くの?」

「シシ……秘密です。きっとリョータさん、驚きますよ?」

「へ、へーえ……」


 上機嫌のシノノは跳ねるような足取りで進んでいく。


 ……大丈夫か。本当に大丈夫なのか。

 俺は自分で墓穴まで歩いて行っていないのか。


 10分ばかり歩いた頃だろうか。シノノがぴたりと立ち止まる。


 ……来た。思わず俺は身構える。


「着きましたよリョータさん。さあ、こっちです!」


 シノノが指差す先から、仄かに青白い光が漏れている。

 俺はチェレンコフ光を思いつつ、シノノが指す方を見た。

 

「うわ……凄い」


 そこに広がるのは小川沿い、一面に咲く青い花。

 夜闇の中、青い花弁がぼんやりと光っている。


「ここ、前に来た時に見つけたんです。リョータさんに見せたくって」


 少し高い場所の木の根元、嬉しそうに座るシノノ。

 俺は視線に誘われるように、隣に腰を下ろした。 


「凄いね。このあたりの名物なの?」

「……私の故郷の村に、同じ花が生えてるんです」


 シノノの故郷か。

 収穫祭を楽しみに衣装を飾り、皆と踊るのだ。


 俺はふとシノノの横顔を眺める。

 小さな可愛らしい顔が、下からの青い光に照らされている。


「シノノの故郷ってどんなとこなの?」


 聞かれたシノノは懐かしそうに微笑んだ。


「……山間の、小さいけれどとても綺麗な村なんです」


 思い出に耽るように、澄んだ声で語り出す。


「ずっと昔から。村の守り神、水竜アクアドラゴンがいて、そのおかげで平和に暮らしていたんです」


 日本の土地神みたいなものだろうか。


「ですがある日、魔王軍が私の村を襲ってきました」

「……魔王軍が?」


 思わぬところで話が繋がってきた。


水竜アクアドラゴンは私達と一緒に戦い、魔王軍から村を守ってくれました。ですが、引き換えに力の大半を失い、力を取り戻すまでの眠りについたんです」


 シノノが村を守るために戦った。

 いま、こうして俺達と旅をしているのも、それと関係があるのだろうか。


「――泉は涸れ、村が存亡の危機に立った時に現れたのがフィオナさんでした」


「フィオナが?!」


 まずい。水竜アクアドラゴンがいないのに村をどうやって守るんだ。

 ああ、せめて俺がいれば美味しい物とかで懐柔を……


「フィオナさんは村を救ってくれました」


「……え?」


 あれ、聞き間違いかな。

 フィオナが村を救った? 人助け?


「どこからか水の精霊ウンディーネをちょっと引くほどの数、連れてきて……」


「……そんなに連れてきて大丈夫なの? 彼らにも家族とか仕事とか」


「そういえば水の精霊ウンディーネ達、一様に沈んだ表情をしていました」


 その表情、見ているかのように分かる。同情せざるを得ない。

 

「なんやかやで村は救われてしまったので、私が恩返しにフィオナさんの……仲間に……」


 思わずシノノは声を詰まらせ、唇をかみしめる。


水竜アクアドラゴンさえ目を覚ましてくれたら……私は自由に……」


 俯いて肩を震わせるシノノ。


 ……奴隷だ。これが奴隷契約という奴だ。


 悲しい異世界、ここにもあった。


 俺のせいですっかりしんみりさせてしまった。

 フィオナのせいでもある気がするが。


「そ、そうだね。きっとすぐだよ。俺も協力するからさ」

「ホント……ですか?」


 ……また俺も適当なことを。


 しかし、縋り付くような瞳で俺を見上げるシノノを、流石の俺でも放っておけないというか。


「まあ、ゆっくり考えよう。フィオナも話せば分かって――」


 ……くれないよな。俺、適当にも程がある。

 少し反省しながら光る花を眺めていると、突然シノノが勢いよく立ち上がった。


「! リョータさん、下がってください」

「どうしたの、シノノ?」


 シノノは緊張に顔を強張らせながら杖を構える。

 俺もつられて立ち上がり、剣の柄に手を伸ばす。


「なんでこんなところに……?」


 シノノの視線の先。花の上を黒い影が蠢くように這っている。

 通った跡には枯れた花が折り重なる。


「あれは……?」

死霊レイスの上級種でしょうか……。どちらにせよ、極めて危険です。触れられたら、命を吸われます」


 悔しそうに眉をしかめる。


「白魔術師のフィオナさんなら、敵ではないのですが」


 ……初めてフィオナがいないことを残念に思う。まさかこんな日が来るとは。


「シノノの魔法では倒せない?」

「効き目は薄いですが、火炎呪文ならダメージが通るかと。でも――」


 シノノは広がる花畑に視線をやった。

 寂しそうな顔をしながら杖を頭上に差し上げる。


「シノノ、待って」

「え?」

「俺の剣なら倒せるかな」

「リョータさんの剣ならもちろん」


 ……仕方ない。俺はシノノの前に出る。


「とりあえずやってみるよ。シノノは後ろからサポートお願い」

「リョータさん!? 危ないですよ!」


 止めようとするシノノを手で制すると、俺は剣を抜く。

 

「仕方ないよ。だって――」


 黒い影がゆらゆらと漂う様に、しかし明らかにこちらに向かって近付いてくる。


 影は俺の前まで来ると、ぶわり、と大きく膨らんだ。



「――仕事中、だからね」


 俺は影に向かって踏み込んだ――

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