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第17話 関西人は朝からタコ焼き食べるし長崎人は朝からカステラ食べます

「重い……」


 不快な重さと体温に俺は目を覚ます。

 俺の腹の上にはフィオナの両足。


 この空間に来て以来、最悪の目覚めである。

 足を退けると、欠伸を噛み殺しながら身体を起こす。


 昨晩はホント、大変な目にあった。

 一体何がそんなに気に触ったんだ――


 フィオナに目をやると、昨晩の大暴れで疲れたのか大口を開けて良く寝ている。


 ……こいつ、パンツ見えてるぞ。

 うんざりしながら、シミーズの裾を直してやる。


 ……ん。離れたところに何かあるな。

 見れば見慣れた段ボール。


「お、届いたか」


 大きめのダンボールが二つ。

 一つは俺が頼んだ奴で、もう一つは箱がやたらと大きい。

 きっと寝る前にフィオナが頼んだ奴だ。

 

 さて、俺の買い物をどこかに隠さないと。

 俺はさり気にフィオナの様子を窺う。


「むー……ガッツキ過ぎだって……リョウタぁ……」


 バンザイの格好で寝言を呟くフィオナ。

 ……なんとなくだが、俺の不名誉な夢を見てる気がする。


 箱を隠した頃、目をこすりながらフィオナが目を覚ます。


「……おはよー。リョータ、良く寝れた?」

「まあまあかな。寝付きと寝起き以外は」


 フィオナはボリボリお腹を書きながら、段ボールを覗き込む。


「おー、もう届いたのか。ねえ、見て見てー」


 バリバリと箱を開けるフィオナ。


「コンバットと――これ、タコ焼き器?」

「うん」


 フィオナは顔の横に箱を掲げて、ニンマリ笑顔。


「リョータに朝ご飯作ってあげようと思って」


 ……朝ご飯? フィオナが?


「ああ、それなら大丈夫。何がとは言わないけど、とにかく大丈夫」


 大事なことだから2回言った。


「遠慮しなくたっていいから。私の料理の腕を信じなさい」

「でも材料がないし」

「そう言うと思いましたー」


 フィオナは嬉しそうに箱の中身をぶちまけた。


「タコ焼き粉に、青のり、カツブシ、ソースにマヨネーズ。全部買っといたから」


 調理道具や水まである。まずい、本気だ。


「あー、一応天カスとハバネロソースも買っといたよ」

「ハバネロソース?」


「ほら、合コンってロシアンルーレットってやつやるんでしょ? 当たった二人は永遠にどうとかこうとか」

「えーと、ひょっとしてロシアンタコ焼きかな。ルーレットの方は確かに永遠属性付いてくるけど」


 ……しかしまあ、タコ焼き一個に良くこれだけ買い集めたもんだ。 

 こいつ、結婚しても絶対に家計を任せちゃいけないタイプだ。


「あれ? タコは?」

「ああ。流石にAmazonになかったから――」


 フィオナは一抱えもある包みを取り出すと、地面にどさりと投げ出した。

 包みから漏れ出る汁が白い地面に染みていく。


「っ!? なにこれ!」

「スキュラ一匹狩ってきた」


 それ、気楽に狩っていいものなのか。


「リョータの世界でも、素材を狩ったりするのが流行ってるんでしょ?」

「そうだね。もうちょっとオブラートに包んだ世界観だけど」


 鼻歌混じりで荷物を仕分けるフィオナ。

 こうなったら逃げられない。せめて何事も無いように見張っているしかない。 


 ……食材の山の中にコンバットが入っているのが気になるが。


「じゃ、リョータお願い」

「……え? フィオナが作ってくれるって」


「私がリョータに作らせれば同じことでしょ?」

「それって単に俺が作るだけなんじゃ」


 フィオナはヤレヤレと肩をすくめた。


「リョータって、法隆寺作ったのは大工さん、とか言っちゃうタイプ?」


 うわ、ムカつく。

 ……まあ、しかし。俺が作った方が安全だ。死んだとはいえ、命は惜しい。


「そういえば、ここってコンセントあるっけ」

「ちょっと貸して」


 フィオナはタコ焼き器のコンセントを地面に突き刺す。


「あ、ランプ点いた」


 ……便利だな、この謎空間。プラズマクラスターとかも搭載されているんだろうか。


 俺はタコ焼き器に同梱されてた「タコ焼き秘伝の書」を見ながら調理を始める。

 初心者は油をしっかり引いて、じっくり火を通すのが肝要らしい。


「ねえーまだー」


 チンチンチン。

 皿を叩きながら煽るフィオナ。


「慌てないで。さ、ちゃんと座って。片膝立てない」

「いい匂いしてきたよ? もう食べられるんじゃない」

 

 確かにそろそろ行けそうだ。

 俺は伸びてきた箸を防ぎつつ、形を整えてから皿に移す。


「はい、どうぞ。残りの生地も焼いちゃうから食べてて」

「……」

「どうした?」


 フィオナは皿を持ち上げ、目を細めてタコ焼きを凝視している。


「……なんか、木屑みたいのがウネウネしてんだけど」

「鰹節だよ。食べれるから」

「食べれるからって全部食べたてら大変よ。10年かけて自転車一台食べたインド人の話、知ってる?」


 知らないし、鰹節はそもそもお前が買ったんじゃないのか。


「それ、乾燥させた魚を削ったチップだから。料理の上にチーズを削ってトッピングするようなものだよ」


 不審気な表情のまま、タコ焼きを一つ口に放り込むフィオナ。

 

「あふっ!」


 途端、口から飛び出たタコ焼きが皿の上に転がった。


「うわ、汚い」

「汚くないわよ! それに、熱かったし仕方ないでしょ!」


「こう、口の中で転がしながらハフハフと冷ましながら食べるんだよ」

「言うんならやって見せなさいよ」


 フィオナはタコ焼きを箸で突き刺すと、俺に差し出した。


「……それ、フィオナの口から出たやつでしょ。せめて横のを頂戴」

「またそんな。あなたの世界では、これってご褒美的な感じなんでしょ?」


 いや、その世界は一部過ぎる。 


「それにほら、ここってお腹空かないから。食欲無いよ」

「はあ? じゃあ、先に言いなさいよ」


 割りと言ってなかったっけ。


 ……だけど、タコ焼き焼くのって結構楽しいな。


 食べ慣れてきたフィオナがハフハフとタコ焼きを頬張るのを見てると、公園のハトに餌をやるおじさんの気持ちが分かる。


 将来、リストラにあったら、ハトおじさんになろう……


 ついにタコ焼きを全部食べ終えたフィオナは仰向けに寝転んだ。

 フィオナは地面をちぎって口を拭くと、ポイと投げ捨てる。


「食べた食べたー」


 お腹をポコポコ叩いて上機嫌のフィオナ。


「ねえ、フィオナ。片付けはどうすればいい?」


 ここ、流し台も何もないし。


「荷物は全部キッチンペーパーで拭いてダンボールに入れといて。私が持って帰って、ちゃんと洗っとくから」


 ……こいつ、多分洗わないぞ。そして間違いなくカビさせる。

 確信にも似た考えが頭をよぎる。

 

 後始末を済ませて荷物を全部段ボールにしまい込む。

 さあて、俺もようやく一休み――


「……何で俺が全部やってるんだ……?」


 文句の一つも言おうかとフィオナを見ると、二度寝モードで落ちかけている。


 ……まあ、眠りに罪は無い。


 歯に青のりが付いてるのも、フィオナのキャラからすると安心のお約束だ。

 それにあれだけ美味しく食べてもらえば、スキュラも浮かばれるだろう。


 ……ん。そういえば。


 思い出した。

 端っこを切り出したスキュラの足肉の塊が、存在感たっぷりに鎮座している。


「これは食べ切れないよな……」


 やむを得ない。

 俺は塊をキッチリと包み直すと、段ボールの底に滑り込ませた。

 


 ……フィオナの家のGが増えないことを祈るばかりである。

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