幽体離脱
幽体離脱の体験を友人に話したところ、思わぬ反応。
どんどん変わる打ち明け話がわりとひどかった。
A:なあ、おまえさ、幽体離脱、ってしたことある?
B:あるよ。
A:え!?
B:どした?
A:いや、ここは「ないない」ってリアクションからの「実は俺さあ」って流れを想定してたんだけど、え、あるんだ?
B:あるよ。で? おまえもあんの?
A:うわぁー、「も」って……。やりづらいわぁー。んー、まあ、あるけど……。
B:ビビるよな、目の前に寝てる自分がいんだもん。
A:別の意味でビビったわ、話を切り出した相手がいきなり経験者で……。
B:とりあえず声かけるよな。もしもーし、寝てるの俺ですかー、って。
A:かけねーよ! もし返事したら対処に困るわ。――てかさ、もっと動転しろよ。俺なんか、えっ、ええーっ、て死ぬほど驚いたのに。
B:死ぬほどて。死んだから離脱してんじゃん。
A:死んでねーから! 死んでたらここでおまえと幽体離脱の話してねーから!
B:あ、そか。
A:でまあ、当然あわてるよな。え、なにこれなにこれ、どうしよどうしよって。
B:そりゃ大あわてよ。やべ、こんなチャンスめったにない、近所のスーパー銭湯覗きに行くか、職場の女子更衣室覗きに行くか、あこがれの先輩んちのトイレ覗きに行――
A:おいぃ! あわてるポイントおかしいだろ! てか全部覗きじゃねえか! てゆうか最後の、ヒくにもほどがあるわ!
B:男なら当然の行動だろ。一生に一度あるかのチャンスだぞ?
A:おまえさっき、死んだから離脱した、って言ったじゃん、一生もう終わってんじゃん。
B:こまけえこたあいいんだよ。死んでるなら捕まらないし、生涯最大のビッグチャンスだぜ?
A:いやだから死んでる前提で生涯最大っておかしいだろ。なんでその事態でその余裕なんだよ。
B:んで、小一時間、悩んで、あ、やべ、幽体離脱タイム終わったら覗けねえじゃん、てあせって――
A:もう死んでるていじゃなくなってるよな?
B:で、女湯・女子更衣室・先輩宅トイレのどれにすっか迷って――
A:だからなんでその3択なんだよっ。幽体離脱の持つ可能性ってその程度?
B:女湯と女子更衣室なら、全国くまなく探せばどっか覗きスポットはあるだろ?
A:知らねーよ! そんなことで全国行脚すんな! てか普通に犯罪だよ!
B:一方、先輩の自宅トイレは全国に1カ所しかない。
A:全国に何カ所もあったらイヤだよ! ブルジョワか。てかトイレ覗くとか最低すぎるわっ。せめて入浴中とかだろ。ヘンタイ度がガチすぎでヒくわ。
B:で、タイムサービスもとい離脱タイムもいつ終わるかわから――
A:タイムサービスじゃねえよ! 夕方のスーパーか。主婦か。人生初の体験でどんだけおちつきはらってんだよ。俺なんか、え、え、これってもしかして幽体離――
B:あ、おまえの話いいから、興味ないから。
A:いろいろとほんっとサイテーだな!
B:それで先輩トイレに急行よ。
A:なんだその最低の略語。急行じゃねえよ。
B:建物とかガンガンにすり抜けて先トに到着。
A:さらに略した! ほかに使いどころのない最低最悪の省略形! てかさっきから先輩宅てさらっと言ってるけど、なんでおまえ家知ってんだよ。
B:え、先週、離脱ったときに、職場から帰り道をつけて――
A:ちょっと待てちょっと待てー! 多すぎ! 情報量多すぎ!
B:え?
A:分けてっ、分割してっ、小出しにして! え、なに、ストーカー? てか幽体離脱、人生初だって話は?
B:だっけ?
A:だよ! あと「リダった」てなんだ。変な略語作るほどしょっちゅうなのかよ。
B:週5くらい?
A:多っ! バイトのシフト並!
B:そんな入らない入らない。休憩90分、拘束12時間で週5とか死ぬから。
A:それ以前に労働基準法違反だよ! 話、そこじゃないから! ――んで、仕事帰りにあとつけた、ってことは職場でリダったんだ?
B:うん、コツつかんだらわりとすぐリダれるよ? ほら――今、一瞬抜けて戻った。
A:いや、知らねーし! 一生に一度のビッグチャンスから全然ハナシ変わってきてるよ!?
B:まー、こまけえこたあ置いといて――
A:最初の大前提がものっすごい覆ってるからね!?
B:で、先トに来ましたー、ちょうど先輩が入ってましたー。
A:あ、もうマイペースで進めるんだ。ストーキングで先輩の自宅トイレ覗くために勤務先で幽体離脱するとかの最悪な話を。先トじゃねえし。
B:そんで先輩がパンツに指かけましたー。
A:うん、それで?
B:なに、やっぱ興味ある?
A:そ、そりゃあーまあ、俺も? 男だし? いいから続き聞かせろっ。
B:ハッ、おまえもヘンタイじゃねーか。でー、先輩がベージュ色のパンツ下ろしますー。
A:うん、うん、で?
B:先輩の茂みからー。
A:うんうん。
B:ビッグマグナムがー。
A:ソッチかよ!