天体観測
望遠鏡を買った相方に月について語るが、あまりに自由奔放。
最後はコンビ解散の危機も?
A:僕、最近、天体観測に興味が湧いてきたんですよ。
B:午前2時に望遠鏡を持って出かけるわけですね。
A:はは。まあ、そういうこともあるかもしれませんね。それであなた、天文に詳しいじゃないですか。
B:ええ、ま、多少ですけど。で、ラジオからの予報では降らないようだと。
A:あの曲ですかね。なわけで、ちょっといろいろ教えてもらおうかと。
B:2分たったら女の子が来るわけだ、大きな荷物を背負って。
A:あ、もうそのくだりいいんんでそろそろ天体――
B:観測、始めましょうか。
A:うるせえよ!
B:見えないものを見ようと――
A:もうそれいいんだって! 話進まないから。
B:双眼鏡を覗き込んでたら警察に声をかけられた。
A:職質受けてんじゃねえか! 双眼鏡かよっ。深夜にそれってただの覗きだろっ。
B:静寂を切り裂く悲鳴。
A:だから見つかってんじゃん! キャー、覗きよー、って。
B:ポリスが僕を呼んだって。
A:もしもし君、ここでなにしてるの? その双眼鏡でなに見てたの?
B:返事もろくにしなかった。
A:黙秘? 君、名前と住所は? ちょっと交番まで来てくれる?
B:今だ、と逃亡するホシ。
A:あ、犯人って意味のホシね。コラー、待てー!
B:君とふたりで追いかけてきた。
A:警官がペアね。よくふたり1組でパトロールしてるから。
B:オウ、イェアー、ア――
A:アァー、じゃねえんだよ!
B:2日後に親が来なくとも。
A:もういいっつってんだろ! 覗き容疑で逮捕されて、2日たっても親が身元引受に来てくれないとかいいからっ。尺っ。尺考えよっ? 俺らの使える枠、限られてんの。前フリにこんな使えないから。
B:なら、そんな怒鳴ってないでさっさと進めたほうが……。
A:おまえのせいだよ! 双眼鏡覗いてて職質されたとかのくだりぶっ込むから――
B:けっこう乗ってきたくせに。
A:ああもう1分前の俺!
B:2分後に君がいなくとも、今、ひとりで漫才師の星を追いかけて――
A:最低だな! 俺、2分でいなくなって、おまえひとりでかよ! てか、ひとりで追いかけるって、相方ガン無視か!
B:もういいかげん、このくだり長すぎません?
A:おまえが言うなあー!
B:もういいよ、どうもありがとうござ――
A:自由か! 自由かおまえっ。勝手に終わらせんなっ。まだ枠、半分残ってっから!
B:ええ、まだ半分~?
A:嫌っそうな顔すんなよ! これ仕事っ。仕事だからっ。
B:でもさ「僕たち今ね、業務でしゃべってますから。労働の一環としてなんで」って、お客さんも笑いにくいでしょ。
A:そこまで言ったら感じ悪いわっ。もういいから、ほんと進まないから。
B:はいはい。で、なんの話でしたっけ? 双眼鏡?
A:望遠鏡!
B:そうそう、望遠鏡。買ったんですか?
A:ええ、初心者用の小さいやつですけど。今度、月でも観察してみようかなって。
B:いいですね。探す手間もかからず、大きいから観測もしやすく見ごたえがある。入門にはうってつけですよ。
A:せっかくだし、なにか月について聞かせてもらえます?
B:そうですねえ。月は直径、約3500kmで、円のなかへ北海道から沖縄までがすっぽり入る大きさです。
A:へえー。意識したことないけど、そういう大きさなんだ。
B:地球の1/4ぐらいですが、実はこれ、衛星としてはかなり大きいほうなんです。
A:そうなんですか?
B:太陽系の全惑星中、5番目に大きい衛星で、本体の惑星に対する比率は1位。
A:ふぅん。
B:ちなみに冥王星はさらに衛星の比率が大きいんですけど、準惑星に降格してるので除外。なにやらかしちゃったんでしょうね、あいつ。
A:べつに冥王星はなにもしでかしちゃねえよ。
B:セーラープルート! 月に代わっておしおきされたわよ!
A:誰かのせいで時間ないんでスルーしてきますね。で、ほかには?
B:……。月は少しずつ地球から遠ざかっていて、数十億年前は今よりずっと大きく見えていました。
A:へえ。大きな月が空に浮かんでるのってどんな感じなんでしょうねえ。じゃあ、満月でなくても大猿に変身できるわけだ。
B:大猿への変身は、満月時の1700万ゼノのブルーツ波かパワーボールじゃないとできませんよ。――あと、月が常に同じ面を――
A:冷静に指摘されたらなんかいたたまれないわ!
B:はじけて混ざれ! これでいいですか? 月が同じ面を――
A:雑なボケでのあしらい! よけい悲しくなるよっ。
B:同じ面を向けているのは、地球の自転速度と月の公転周――
A:えっ、急にどこへ行くんですかっ?
B:さっき言ったでしょ、2分後に、君がいなくてもひとりで漫才師の星を追いかける、って。じゃ。
A:えええー! ちょっと待てってば! 自由か!




