デジタルストーキング
ストーカーにもデジタル化の波が押し寄せる時代。
語るうち、危険な方向に話が転がる。
A:デジタル化社会といわれてだいぶたちますけど、ストーカーまでデジタルの時代ですよ。
B:ニュースになりましたね。SNSにアップした写真で被害者の住所を特定したっていう。
A:驚いたのが、直接写ってる背景じゃなくて、目に映り込んでいた風景を手がかりにしたこと。
B:部屋の画像からは、窓からの光のさしかたでどの部屋か絞りんだりとかね。
A:怖いですけど、ある意味感心しますよ、よくそこまでって。それを仕事に活かせば人の役にたてたのに、もったいないというか。
B:本当ですよ。そんな人材、親戚の会社がほしがりますよ。
A:親戚の?
B:言ってませんでしたっけ。親戚がソフトウェア開発の会社を経営してるんです。
A:へえ、初耳ですね。どんなソフトを作ってるんですか?
B:今、話題にあがったようなことを自動でやってくれるアプリケーションを。
A:えっ……? 今の話って、ストーカーもデジタル化の時代ですねってことですけど……?
B:ええ、ストーキング支援アプリですね。
A:だめだろおーっ!
B:え?
A:え、じゃねえって! だめじゃん、支援しちゃ!
B:アプリの名前は「つきまといくん」っていうんですけどね。
A:まんまじゃねえか! そのまんま! つきまといくん、じゃねえよ!
B:先日バージョン29.0101をリリースしまして。
A:けっこうバージョン重ねてんなおい!
B:ちなみに「つきまとい」の語呂あわせになってるんです。2が「つ」で、9が「き」で――
A:どうでもいいわ! おまえの親戚、なにやってんだよ! 犯罪の片棒をかついでるっていうか、もう半分共犯者ぐらいの勢いになってんぞっ。
B:まあ、見ようによってはそういうふうに言えなくもないですけどね。
A:見ようによらなくてもそうとしか言いようがねえわ!
B:今はAIの技術も発達していますから、ターゲット……もとい一途に想いを寄せている相手の画像を――
A:今、ターゲットって言ったよなっ? なにちょっと聞こえのいい表現に言い換えてんだよ。要はストーカーだろうが。
B:まあそういう見方もできなくは――
A:それしかできねえんだってば! てかさっきストーキング支援って言ったよなっ?
B:まあまあ、それは置いとくとして――
A:最重要事項だよ!
B:つきまといくんはターゲ……もとい焦がれる気持ちの募る想い人の――
A:だからいちいちピュアなイメージにすり替えようとすんなって!
B:画像をもとに、SNSやブログなどから該当人物を探し出します。顔認証技術を応用していますので、顔がななめを向いていても、目や鼻の配置・形状、輪郭などから固有のパタ――
A:怖えよ! 怖えって! 本格的すぎっ。情報機関の協力先かなんかかよっ?
B:ただのベンチャー企業ですよ。
A:犯罪性という意味ではまさにアドベンチャー! バレたら捕まるぞ。
B:その辺は大丈夫です。ベンチャーを立ち上げた社長、東大法学部出身なんで、法的な問題は抜かりなく抜け穴をくぐってますから。
A:やっぱ違法性があるってめちゃ認識してんじゃねえか。抜かりなく抜け穴を、って言いまわしも微妙に変だしさあ。
B:念のため、料金はパナマのペーパーカンパニーを通して、仮想通貨のみ受けつけています。
A:もう完全にアウトな地下組織じゃねえか! 確信犯だよ、そいつ!
B:あ、確信犯の使いかた、間違ってますよ。
A:だからそんなこまかいことどうでもいいって!
B:ごめん、ちょっと待って、電話だ。はい、もしもし。
A:切っとけって! てか出るなよっ、俺ら漫才中っ。
B:えっ、会社にサツのガサ入れ!? 社長がパクられたっ?
A:社長って、今のアングラ企業の? 警察の手がまわったのか? てか、サツってすげえ久しぶりに聞いたわ。
B:でもどうして……。客との取引は万全を期してたんじゃあ……。
A:取引とか言うなよ。犯罪色をだめ押ししてんじゃねえか。
B:――わかった。
A:例の社長、捕まったのか? でもペーパーカンパニーや仮想通貨を通してたんだろ? なんで。
B:つきまといくんを警察が使った、って。
A:処刑器具を発明した奴みてえなことになってんな! 自分の発明品で処刑されるパターン。
B:ちょっと身内にごたごたが起きてしまったけれど……変わらず今後ともよろしくなっ、相棒!
A:よろしくされてたまるか! この業界、スキャンダルは命取りなんだよっ。このステージ限りで縁を切らせてもらうわっ。今度変えるメールアドレスも教えねえからな。
B:しょうがない……つきまといくんを使うか。
A:懲りねえ奴だな!




