地縛霊《オバケ》のTQ太郎
事故物件な家賃で案の定、出る。
有害なのか無害なのかよくわからない霊に思わぬ側面が。
A:この部屋に越して1カ月。ほかの部屋が家賃5万ぐらいなのにここだけ1万って絶対事故ってると思ったけどなにもねえな。ま、なんかいりゃ初日に気づくし、こりゃ掘り出しも――うわっ!
B:うわ、びっくりしたぁ。
A:そりゃ俺のセリフだよ! あんた誰っ?
B:俺が見えるんだ?
A:えっ、てことは、おまっ……。
B:ええ、この部屋で地縛霊的なことをやらせてもらってる者です。
A:的な、って、地縛霊じゃあないんだ?
B:うーん、よくわかんない。よそに行けないんで、まあ、的なやつかなと。
A:ノリ、軽っ。幽霊のくせに。
B:あんただって全然怖がらないじゃん、地縛霊的な俺を見ても。
A:的な、いらなくない? 明らかに地縛霊だもん。私は地縛霊です、って言いきっていいよ。
B:そう? 自信持っていいのかな?
A:いい、いい。全然いい、もう全然。
B:じゃあ、今度からそうするわ。
A:うん、そうして。
B:で、結局、あんたはなんで俺が見えるわけ? なんでビビらないの?
A:俺? 俺は実家が寺だからさあ。
B:出た、家が寺パターン。
A:なんだよ、出た、って。オバケのおまえに言われたくねえわ。
B:幽霊が見える奴あるある。で、父親が住職で、寺を継げ継げ言われてると。もう教科書に載るぐらいの手垢まみれの定番設定。
A:なんなんだよそのノリ。設定とか言うな。なんの教科書だよ。ちなみに住職はお袋だけどな、うち尼寺だから。
B:来たよ来た、超絶変化球。
A:だからなんなんだってば、そのテンション。
B:定番を大幅に覆そうとする魔球系。
A:いや、定番を覆すとかべつにねえし。事実をそのまんま言ってるだけだし。なんなの、魔球だ定番だ、って。
B:そんで、自称・実家が尼寺の、変化 球太郎くんは、なんで俺が見えるようになったの?
A:勝手に変なあだ名つけんなっ。あと自称も。
B:実際、自称じゃん。
A:自称だけどっ。なんか嘘っぽく聞こえるだろうが。
B:はいはい、実話ってことにしときましょ。話進まないし。
A:腹たつオバケだな、くそ。
B:で、球ちゃんはどうして急に俺が見えたのかな。あ、球ちゃんだから急にってのはナシな。
A:やかましいわ。球ちゃんじゃねえよ。オバケのQ太郎か。おまえが言うな。
B:うまいっ、座布団1枚、って先進まねえだろっ。
A:だからおまえだよ! ややこしくしてんのっ。――霊が見える・見えないは体の変化かもな。少し前に親知らず抜いたのよ。一時的に霊感が弱まってたんだろうな。
B:はい、また新しい設定が出ま――すんません、なんでもないです、すんません。
A:でも狐とか狸の低級な動物霊しか影響ないんだけどなあ。
B:俺、動物霊クラスの低級なんかーい!
A:で、オバケの低級太郎、おまえいつからここにいんだ?
B:誰がオバケの低級太郎じゃーい!
A:ノリノリのツッコミ調がなんかムカつくな。
B:んー、かれこれ10年になるかな。
A:長ぇなっ。……てことは越してからの俺の生活、全部おまえに筒抜けかよ!
B:うん、わりとまるっと。自家発電とかも含めて。
A:うわああ!
B:制服ものが趣味らしいな。消防士とか入国管理官まであるなんて知らなかったよ。あなたのホース熱ぅいっ、とか。
A:て、てめえっ、人のプライバシーを!
B:こっちだって野郎の発電現場なんか見たくねよ! 入居してくるの男ばっかで全然うれしくないし。
A:まあ、ここ道路沿いの1階だからな。
B:部屋に縛られて野郎の自家発電見せられる地獄。この世なのに。
A:まさにご愁傷様で……。どうしてTQ太郎は地縛霊になったんだ?
B:なんだTQ太郎って、低級の略かーい!
A:もうそれいいから。
B:実はこの部屋、俺の彼女が住んでたんだ。でもある日、ケンカになって、彼女が包丁を持ち出して……。
A:殺られちまったと……。
B:楽しかった思い出が俺を成仏させず、ここに縛りつけてんだろうな、きっと。
A:そっか……。ん、待てよ、ここの住所……。
B:ちょっ、な、なに調べてるのかな?
A:あっ、やっぱり! どうも見覚えがあると思ったら、ここ、10年前のストーカー反撃殺人のあったマンションじゃねえか!
B:そ、そだっけ……?
A:加害者の女が、部屋に侵入していた男を刺し殺して過剰防衛で逮捕されたやつ。このストーカー、おまえだろ!
B:ストーカーって人聞きの悪いこと言うなよ。愛の障壁のドアをちょっとピッキング的なアレでアレして、ベッドの下でこっそり彼女を見守っていただけだよ。
A:怖っ! オバケとしてよりも、生前の行動のほうがよっぽど怖えよおまえ! お袋呼んで除霊してもらお。
B:あっ、待って! 「乳国管理姦・成田こはね 蜜輸銃を管理しちゃう」の続きが気にな――
A:お袋すぐ来て! 速攻で悪霊退散に来て!




