フリーダム一休さん
とんちを使わない一休さんにはよくあること。
「橋渡らない編」「虎追い出さない編」の2本だてでお楽しみください。
A:一休をやり込める方法ができたぞ。ひひひ。
B:桔梗屋さんから、もてなしをしたい、との手紙で来たけれど。おや、橋の前に立て札が。「このはしわたるべからず」
A:さあ、得意のとんちでどう――えええ!? ちょ、ちょっと、どこ行くんですか!
B:え? 向こうにある隣の橋から普通に渡ろうかと。
A:いや、だめでしょ! ここはとんちで切り抜けるところでしょ。
B:そんなこと言われたって、そのほうがてっとり早いし。
A:身もふたもないことを! あるでしょ「このはし」が渡れないなら、ほら。
B:考えるのめんどうなんであっちから渡ってきます。
A:なら、あっちの橋もだめ! 全部のはしわたるべからず!
B:でも、どこにも書いてませんよ、そんなこと。そもそも橋って桔梗屋さんの所有物じゃありませんよね。
A:えっ?
B:公共建築物の通行を制限する権限ってあるんですか? 道路使用許可を警察署に申請してるなら許可証を見せ――
A:室町時代! 室町時代だから今っ。警察とかないからっ。日本国の法律、まだないから!
B:じゃあ、渡れないじゃないですか。
A:そこはほら、いつものやつで、ポクポクチーンで解決してみてくださいよ。
B:え、渡らせたくないの、渡ってほしいの、どっち?
A:とんちを考えた結果、妙案が浮かばなくてまいりました、と降参してくれたらいいんですよっ。
B:えー、めんどくさい人だなあ。
A:めんどくさいとか言うな!
B:はいはい、わかりました――あ、浮かびました。
A:ほ、ほう、どんな名案ですかな、って、えええー!? そこ川! 川の上! 空中!
B:ええ、阿弥陀様のお力を借りて救済してもらってるんです。
A:こんなことで仏の力を得られるのー!?
B:ちなみにこれが「他力本願」という言葉の正しい用法です。
A:そういうのいいから戻って! とりあえず奇跡なしで! 奇跡で解決するとかのミラクルなしっ。とんち使ってっ。
B:えー、せっかく阿弥陀如来様のお力をお借りしたのに。あ、如来様、そういうことなんでもうけっこうです。
A:えっ、なに、仏様と会話できんの!?
B:ええ、ええそうですね、またなにかありましたら、はい、はーい、それじゃ。
A:てかすげえ軽ぃな。業者かよ。
B:さて、他力本願も別ルートもだめ。困りましたね。
A:ですからとんち使いましょうよ! ポクポクチーンっ。
B:しょうがないなあ――よぉし。
A:おっ、どんなこざかしい案が浮かびましたかな。
B:結論――ムリ。
A:帰るなあーっ!
B:将軍様、どのようなご用で私をお呼びに?
A:ほほほ、一休殿に来てもらったのはほかでもない。実はこの屏風の虎が夜な夜な抜け出しては悪さを働くのじゃ。とんちでどうにかしてもらえぬかのお。
B:まいったなあ、他力本願はこの前使ったばかりでHPたりないし。
A:なにをぶつぶつ言っておる?
B:あ、いえ、ホトケポイントがもう少し残ってればなあーって。
A:はあ? なんのことじゃ。ええい、虎を退治できるのか、できぬのか。一休殿のとんちも大したことがないと京の都じゅうに触れまわるぞよ。
B:わかりました、少々お待ちを。
A:お、噂に聞くポクポクチーンが出――えええー!?
B:「虎 屏風 追い出しかた 無料」っと。あー、すぐググりますんで。
A:とんち! とんち使お! ていうか時代っ。ないからっ、電波もっ、グーグルもっ。
B:あ、ほんとだ、圏外だ。将軍様、金閣寺の周辺、基地局ないっぽいんで、いったん御苑の辺りまで――
A:だからないって、基地局も、スマホも! 時代考えよ? 時代。 室町、15世紀っ。600年先取りのオーパーツだからそれ!
B:天下の大将軍ともあろうおかたがそんなこまかいことをいちいち――
A:こまかくないよ!? 時代考証、ガン無視だからねっ? 自力で考えよ? 他力本願で検索するのやめよ?
B:あ、それ、誤用ですよ。本来の意味は――
A:おまえのほうがよっぽどこまかいわー! いいからとんち使えよ、とんちっ。
B:今、TPも切らし気味で……。
A:なんなのそれ!? まさかトンチポイントとか言うのっ?
B:あ、いえ、パワーのほうです、トンチパワー。MPがマジックパワーの略みたいな。
A:知らねえよ! 桔梗屋から聞いたけど、この前もとんち使わずに帰ったそうじゃん。あいつ怒ってたぞ。「端っこ渡ろうとしたらそれも禁止してやるつもりだったのに」って。やっすい理由で奇跡起こすわ、なんなの、おまえっ?
B:あー、すいませ~ん、そろそろ夕方のお勤めの時間なんで、今日はもう。
A:えっ、俺の問題はっ?
B:和尚様、怒るとコレだから。
A:ツノ出るとか知らねえって。俺、将軍!
B:ごめんなさいっ、また今度っ、ねっ。
A:また今度じゃねえって、おいっ。帰んなあーっ!




